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リーダー
抵抗①
時間を、少し巻き戻す。
ミアとリアが地下牢で絶望を感じ、希望を信じていた頃――
地上では、酒と煙、むさ苦しい笑い声が満ちていた。
粗末なテーブルや高級毛皮の床は、安酒の樽と高級酒の瓶が転がり、
一部は割れた破片や汚れた染みに変わっている。
壁に掛かった高級そうな首飾りや武具が、
安い松明の煙に燻されて輝きを消し、炎に照らされて穢れていく。
その一角で、リーダーは「いつもと違う顔」で笑っていた。
片手にジョッキ。残った手は膨れた腹の上。
丸い顔には酔った紅が差し、油じみた額や手にまで汗が浮かぶ。
隣では、ボスが豪快に笑いながら話しをしていた。
「どうしたよ、教会上がり。酒が足りねえんじゃねえか?」
ごつい腕が大きく脂肪がのったリーダーの肩を「ドン」と叩く。
リーダーは、その力に負けて身体が揺れてしまい、
真剣な目のまま、ボスを困った顔で見上げる。
「もう十分だ。……これ以上飲むと新しい女を救えねえ」
そう言うと、乾杯の度に混ぜられた酒を喉の奥へ一気に流し込む。
だが、口角から酒が溢れ落ちてしまい、濁った息を吐いた。
「今夜は、お前さんが持ち込んだ二人で、こっちは大宴会だぜ」
ボスは口角を吊り上げ、濁った声で笑う。
「ああ。アイツラは、扱いさえ間違えなきゃ。カネを生む。
だが……使い潰したり、壊したりしたら、サッサと連絡をくれよ」
「ア゛ッ?」
「安くだが……買い戻して救ってやるんだよ。クッククック」
リーダーは嬉しそうに笑い、周りの男達にも伝わっていく。
「だがよぉ、こんだけの商品を持ってきた“お得意様”だぜ。
泊まっていけ。酒、メシ、寝床……女だって用意するぜ」
ボスが、にやりと笑い返すと、周りの男たちが騒ぎ始める。
「そうだそうだ!」
「儲け話が他にも有るんだろ?」
「明日の朝まで飲み潰れちまえ!」
リーダーは釣られたように肩を揺らした。
「そいつぁ、魅力的な話だがねぇ」
飲み干したジョッキを置き、カネの詰まった荷袋を掲げ。
「こいつを持ってきゃ、また新しいのを楽しめる」
揺らした袋から漏れ聞こえる金貨の重苦しい音。
「ありがたいことに、世の中には“オレの救い”を求める連中が、
死ぬほど、沢山、何処にでもいるからよ。アハハハ」
完全に悪徳神官や奴隷商の顔で、厚い唇を卑しく歪めた。
ボスは一瞬だけ疑うように目を細め、それから大声で笑い。
「言うねえ。……確かに、こいつがありゃ、どこでも救い放題だな」
豪快な笑いの陰で、その目には殺気が浮かぶ。
リーダーは、それに気づかないまま背を向けて立ち上がった。
「俺はこれ位で終わりだ。……お前たちは続けて楽しんでくれ」
椅子が軋むように鳴り、腹を支えるように腰に手を当て、
外套の裾が遅れて重たく揺れる。
「おいおい兄弟、もう帰るってのか?」
ボスが、残念そうな顔で呼びとめる。
「兄貴にはわりぃが、今は帰らせてもらうよ」
「そうか? 残念だな。弟一人での夜道は危ねえな。
この辺りはオークやゴブリンも出る……あと、物騒な連中もな?」
「ありがとよ。兄貴」
リーダーはにたりと笑い、錫杖を掲げて柄を軽く叩いた。
「だが、女神に見捨てられたとしても、コレがあるからな」
ボスは肩をすくめてみせ、顎をしゃくると、
「そうか……だが、大事な弟だ。途中まで、連中に送らせるぞ」
近くに控えていた痩せた魔法使いと数人の男が前へ出た。
魔法使いが黄色い瞳を細め、にやりと笑う。
「ええ、もちろん。沢山稼がせて頂いたお礼に、
私達が丁重にお送りしましょう。お前達も、準備はいいな!」
声だけは丁寧だが、言葉の裏が何を指すかは明らかだった。
「そりゃ助かる。……俺も兄貴を稼がせる前に、死ぬわけにいかねえ。
ついでに、このカネで″救え″と言う女神のお告げも有るしな」
「ハハハッ!」
ボスと手下たち全員、リーダーまでもが、一斉に笑う。
笑いの余韻が残る中、リーダーは外套の前をざっくり合わせ、
荷袋を背負うと、酔った身体を揺らしながら歩き出した。
男達とリーダーが固まって離れていくと、ボスが魔法使いを呼ぶ。
「ここを知ったアイツを殺せ。何時ものようにだ」
「教えたやつの事は?」
「そっちはイイ。どうせ客の誰かだ。アイツに探させる」
「わかりました。それでは何時ものように」
「頼むぞ……」「わかりました。ボス」
その会話が終わると、
魔法使いが小走りで近づき、リーダーを先導するように歩いていた。
◇
建物を出ると、さきほどの喧騒は遠のき、
偽装された″廃村″の広場は、明るく冷たい月光に照らされ。
壊れた家々は外側だけ崩れたままにされ、
その影が黒く地面へ伸び、空は澄み渡り、星がいくつも瞬いていた。
「この辺でいいでしょう」
先頭を歩いていた魔法使いが、不意に広場の途中で足を止める。
続いて歩いていたリーダーの背後には、建物から着いてきた男達。
そして、建物の影からも取り囲むように次々と現れた。
剣、棍棒、弓、短杖――武器たちがリーダーに向けられていく。
「この先は道も開けて、夜空も澄んでいます。
……あとは、女神にでも祈っていただければ″安全″ですよ」
魔法使いの声が、わざとらしく朗らかに響いた。
「そりゃ助かる。少し待ってくれ……」
リーダーは彼らに背を向けたまま荷袋を降ろし、
肩をすくめて錫杖を構える。
その丸い背中。黒い外套。太い首。月光が輪郭に青白い縁を描く。
「世界を守りし女神……」
リーダーは女神に祈りを捧げ、その行為に集中し始めた。
その瞬間だった。
「――死んどけ!」
魔法使いの甲高い叫びが、広場を切裂くように響く。
一拍遅れて、複数の同じ詠唱が重なる。
「《火矢(フレイム・ダート)》!」
短い詠唱。近距離からの奇襲。周りから複数。
紋章入りの短杖を掲げ、灼熱の矢が複数放たれ、
残った男たちからも、油壺付きの矢と火炎瓶を同時に投げつけた。
魔法が壺や瓶を貫き、液体が燃え広がり、炎が滝のように振り注ぐ。
「《雷槍(サンダー・ランス)》!」
一拍遅れて、魔法使いの杖からも、白い閃光が走った。
炎を見上げていれば遅れ、光を感じた頃には既に手遅れ、
雷が空気を切り裂く音を聞いた頃には、全てが終わる。
それが、背に殺到した。
その瞬間――
――轟ッ!!
「我を守り……」
炎が地面を覆い、雷が荒れ狂い、
祈りを捧げていたリーダーを覆い隠していた。
抵抗①
ミアとリアが地下牢で絶望を感じ、希望を信じていた頃――
地上では、酒と煙、むさ苦しい笑い声が満ちていた。
粗末なテーブルや高級毛皮の床は、安酒の樽と高級酒の瓶が転がり、
一部は割れた破片や汚れた染みに変わっている。
壁に掛かった高級そうな首飾りや武具が、
安い松明の煙に燻されて輝きを消し、炎に照らされて穢れていく。
その一角で、リーダーは「いつもと違う顔」で笑っていた。
片手にジョッキ。残った手は膨れた腹の上。
丸い顔には酔った紅が差し、油じみた額や手にまで汗が浮かぶ。
隣では、ボスが豪快に笑いながら話しをしていた。
「どうしたよ、教会上がり。酒が足りねえんじゃねえか?」
ごつい腕が大きく脂肪がのったリーダーの肩を「ドン」と叩く。
リーダーは、その力に負けて身体が揺れてしまい、
真剣な目のまま、ボスを困った顔で見上げる。
「もう十分だ。……これ以上飲むと新しい女を救えねえ」
そう言うと、乾杯の度に混ぜられた酒を喉の奥へ一気に流し込む。
だが、口角から酒が溢れ落ちてしまい、濁った息を吐いた。
「今夜は、お前さんが持ち込んだ二人で、こっちは大宴会だぜ」
ボスは口角を吊り上げ、濁った声で笑う。
「ああ。アイツラは、扱いさえ間違えなきゃ。カネを生む。
だが……使い潰したり、壊したりしたら、サッサと連絡をくれよ」
「ア゛ッ?」
「安くだが……買い戻して救ってやるんだよ。クッククック」
リーダーは嬉しそうに笑い、周りの男達にも伝わっていく。
「だがよぉ、こんだけの商品を持ってきた“お得意様”だぜ。
泊まっていけ。酒、メシ、寝床……女だって用意するぜ」
ボスが、にやりと笑い返すと、周りの男たちが騒ぎ始める。
「そうだそうだ!」
「儲け話が他にも有るんだろ?」
「明日の朝まで飲み潰れちまえ!」
リーダーは釣られたように肩を揺らした。
「そいつぁ、魅力的な話だがねぇ」
飲み干したジョッキを置き、カネの詰まった荷袋を掲げ。
「こいつを持ってきゃ、また新しいのを楽しめる」
揺らした袋から漏れ聞こえる金貨の重苦しい音。
「ありがたいことに、世の中には“オレの救い”を求める連中が、
死ぬほど、沢山、何処にでもいるからよ。アハハハ」
完全に悪徳神官や奴隷商の顔で、厚い唇を卑しく歪めた。
ボスは一瞬だけ疑うように目を細め、それから大声で笑い。
「言うねえ。……確かに、こいつがありゃ、どこでも救い放題だな」
豪快な笑いの陰で、その目には殺気が浮かぶ。
リーダーは、それに気づかないまま背を向けて立ち上がった。
「俺はこれ位で終わりだ。……お前たちは続けて楽しんでくれ」
椅子が軋むように鳴り、腹を支えるように腰に手を当て、
外套の裾が遅れて重たく揺れる。
「おいおい兄弟、もう帰るってのか?」
ボスが、残念そうな顔で呼びとめる。
「兄貴にはわりぃが、今は帰らせてもらうよ」
「そうか? 残念だな。弟一人での夜道は危ねえな。
この辺りはオークやゴブリンも出る……あと、物騒な連中もな?」
「ありがとよ。兄貴」
リーダーはにたりと笑い、錫杖を掲げて柄を軽く叩いた。
「だが、女神に見捨てられたとしても、コレがあるからな」
ボスは肩をすくめてみせ、顎をしゃくると、
「そうか……だが、大事な弟だ。途中まで、連中に送らせるぞ」
近くに控えていた痩せた魔法使いと数人の男が前へ出た。
魔法使いが黄色い瞳を細め、にやりと笑う。
「ええ、もちろん。沢山稼がせて頂いたお礼に、
私達が丁重にお送りしましょう。お前達も、準備はいいな!」
声だけは丁寧だが、言葉の裏が何を指すかは明らかだった。
「そりゃ助かる。……俺も兄貴を稼がせる前に、死ぬわけにいかねえ。
ついでに、このカネで″救え″と言う女神のお告げも有るしな」
「ハハハッ!」
ボスと手下たち全員、リーダーまでもが、一斉に笑う。
笑いの余韻が残る中、リーダーは外套の前をざっくり合わせ、
荷袋を背負うと、酔った身体を揺らしながら歩き出した。
男達とリーダーが固まって離れていくと、ボスが魔法使いを呼ぶ。
「ここを知ったアイツを殺せ。何時ものようにだ」
「教えたやつの事は?」
「そっちはイイ。どうせ客の誰かだ。アイツに探させる」
「わかりました。それでは何時ものように」
「頼むぞ……」「わかりました。ボス」
その会話が終わると、
魔法使いが小走りで近づき、リーダーを先導するように歩いていた。
◇
建物を出ると、さきほどの喧騒は遠のき、
偽装された″廃村″の広場は、明るく冷たい月光に照らされ。
壊れた家々は外側だけ崩れたままにされ、
その影が黒く地面へ伸び、空は澄み渡り、星がいくつも瞬いていた。
「この辺でいいでしょう」
先頭を歩いていた魔法使いが、不意に広場の途中で足を止める。
続いて歩いていたリーダーの背後には、建物から着いてきた男達。
そして、建物の影からも取り囲むように次々と現れた。
剣、棍棒、弓、短杖――武器たちがリーダーに向けられていく。
「この先は道も開けて、夜空も澄んでいます。
……あとは、女神にでも祈っていただければ″安全″ですよ」
魔法使いの声が、わざとらしく朗らかに響いた。
「そりゃ助かる。少し待ってくれ……」
リーダーは彼らに背を向けたまま荷袋を降ろし、
肩をすくめて錫杖を構える。
その丸い背中。黒い外套。太い首。月光が輪郭に青白い縁を描く。
「世界を守りし女神……」
リーダーは女神に祈りを捧げ、その行為に集中し始めた。
その瞬間だった。
「――死んどけ!」
魔法使いの甲高い叫びが、広場を切裂くように響く。
一拍遅れて、複数の同じ詠唱が重なる。
「《火矢(フレイム・ダート)》!」
短い詠唱。近距離からの奇襲。周りから複数。
紋章入りの短杖を掲げ、灼熱の矢が複数放たれ、
残った男たちからも、油壺付きの矢と火炎瓶を同時に投げつけた。
魔法が壺や瓶を貫き、液体が燃え広がり、炎が滝のように振り注ぐ。
「《雷槍(サンダー・ランス)》!」
一拍遅れて、魔法使いの杖からも、白い閃光が走った。
炎を見上げていれば遅れ、光を感じた頃には既に手遅れ、
雷が空気を切り裂く音を聞いた頃には、全てが終わる。
それが、背に殺到した。
その瞬間――
――轟ッ!!
「我を守り……」
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