クロスオーバー

連鎖

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リーダー

旋律②

 広場の手前で火花を散らしているのは、二つの雷だった。

 筋骨たくましい大男が、巨大で無骨な両手斧を振り回し、
 赤黒い肌の美しい女が、銀色に輝く双剣で捌く。

 ――ガギィンッ。  

 ――ドンッ。

 刃が噛み合い、力が流されていく硬質な音と、
 斧が地面を砕く鈍い衝撃が、交互に夜を叩く。

 ミアの動きは舞いに近い。

 右の剣で斧の刃を受け流し、  
 左の剣が、そのわずかな隙へ滑り込み、柄や手首を狙う。

 踏み込んだ足が地面を擦り、腰がしなり、上体が矢のように伸び。
 一連の動きは途切れず、ひと続きの線となって流れた。

 攻撃を受けても、ボスは楽しそうに躱すだけ。

 ミアの引き締まった生脚が、防具で守っていない身体を押し出し、
 相手から″冷静さ″を奪っていき、飢えた獣に変えていく。

 ミアは売られたときと同じ格好――  

 防具や装備品を何もつけていない、無防備な姿。

(本当に嫌になる……そんなに、守られたいの!?)

 荒い呼吸に合わせて、ミアの大きな胸が上下に揺れ、
 炎に炙られた汗で、肩までの金髪が頬、布が身体に貼りついた。

「何を見ているの?」

 ボスの斧は、一撃ごとに地面を砕き、周囲へ礫を撒き散らす。 

 ミアには、装備もない。防御魔法もない。救いも、回復さえない。
 直撃は即死。――いや、刃が強くかすめるだけでも変わらない。

 必死に隙を作ろうとする――それなのに、どうしても意識が散る。

(はぁ……邪魔。……くそっ……また、遅れた……!)

 ボスが横薙ぎに振るった刃が、上半身を通っていく。

 ――ヒュッ、と裂けた。

 横への大振りで、ボスの体勢がわずかに崩れ。

 ミアにとって追撃の好機だが、踏み込むのを躊躇った。

 ――ズガァンッ!

 そこへ――両手で持ち直した斧の、激しい振り下ろし。

 ミアは受け流さないで、大きく後ろへ跳ぶ。

 だが、地面をえぐった小さな破片が、ミアの傷を増やしていった。

「もう疲れたか? 身体が止まっているぞ」

「それは、アンタでしょ!」

 ミアは斧が“動き出す瞬間”を見極め、引き戻される刹那に滑り込み、  
 身を低く流しながら刃を差し込む。

 ――キィン、と金属が擦れ合う。

 ミアの攻撃が″軽い″と気づいたボスが、
 右手を握り拳にして槌に、左手で支えた両手斧の刃を盾に使う。 

 ミアは双剣で、脇腹、膝、肩――容赦なく狙う。

 だが、攻撃を盾と体術で防がれ、隙を見せると槌で攻撃される。

 あと一歩が、どうしても踏み込めない。

 間合いが切られ振り出しへ戻り、互いに隙を見せない攻防が続いた。

 金属の響き。浅く切裂く湿った音。  
 決定打にならない音と、歯がゆい想いだけが積み重なっていく。

(恥ずかしい? 守ってほしい? そんな弱い女!?)

 双剣と両手斧が擦れ合うたび火花が散り、
 そしてまた一つ、確かな傷がお互いの身体に刻まれていった。

 ◇

 リーダーの障壁で守られている人々の視線が、自然と集まっていく。 

 冒険者も、助けられた人達も、時を忘れて見入っていた。

 ――あれが「Aランクパーティ」の前衛。  
 ――噂の、《双刃の金狼》ミア。  
 ――ソロでもAランクを達成した女。

 その光景を、ミア自身が羨んで見ているなど、誰も気づかない。

 ◇

 少し離れた場所では、別の風が踊っていた。

 リアと魔法使いの攻防は、派手さではなく精密さで目を奪う。
 弓から放たれる矢は、一本一本が幾何学的な軌跡を描いていた。

 ただ真っ直ぐに飛ぶのではない。

 途中で角度を変え、二本が重なり、
 ふっと分かれ、さらに実矢を混ぜ――三本にも見える。

 風の流れを聴いているかのように、リアの腰まで伸びた銀髪が踊る。  

 射る。置く。間を測る。――呼吸と同じリズム。

(やっぱり……決定打が……また、防がれた……)

 白い頬は汗に濡れて輝き、眉間には不快そうな皺が刻まれ、
 それでも姿勢は崩れない。  

 儀式の舞台に立つ巫女のような、静けさを纏い戦っていた。

 対する魔法使いは、闇障壁、しまいには炎まで持ち出して防ぐ。

「《闇障壁》……クソッ、止まれ……《火槍》、止まれぇ!」

 闇障壁が実矢を受けて砕け、それを攻撃魔法で燃やしながら反撃。

 リアは踊るように避け、遅れた銀髪が焦げても動じない。

 高速な魔法矢を撃ち出し、魔法使いが魔障壁を張って受ける。  

 周りから見れば、追い込むリア、逃げる魔法使い、に見えてしまう。

 だが、一瞬でも動きが乱れれば――お互いに押し切られてしまう。

 今も張りつめた糸が、音もなく軋み続けていた。

(また……止められた……リーダー、何故ですか? どうして……)

 リアは別の事ばかり考えて、気づいていないのか、
 不気味な魔力のうねりが、魔法使いの足元に集まり始めていた。

 ◇

 冒険者が、思わず呟いた。

「……あれ、同格以上だぞ。この辺を破壊し尽くした魔法使いと、
 弓だけで互角以上、いや、押し込んでいやがる」

 誰かが、息を飲むように答える。

「エルフの精霊弓師、《滅弓の銀鷹》……噂は、本当だったんだな」

 矢と魔法の光が、一方的に広場の奥を支配していた。

 そこだけを切り取れば、女神のような英雄が悪を断罪する挿絵。

 だが、リア自身が自分達を羨んでいるなど、誰も気づかなかった。


 旋律②
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