夢に見る犬

コトナガレ ガク

文字の大きさ
上 下
1 / 3

一夜

しおりを挟む
犬が此方を見ている。
 暗闇の中犬が此方を悲しそうな顔で見ている。
 何でそんなに悲しそうなんだい?
 心が揺れる。
 頭を撫でて慰めたくても、手を伸ばしても届かない。
 体を動かしたくても動かない。
 ただ犬は此方を悲しそうに見て、私はただ見詰め返す。
 ずっと見詰めて思い出す。
 あれは、昔飼っていた犬ランだ。

 目が覚めた。
 六畳一間の煎餅布団の上で目を覚ます。
 今日も生きるための一日が始まる。
 受験戦争、就職氷河期、リストラの嵐。
 幾多の波瀾を乗り越えて、気付けば私は生きることだけが目的となっていた。
 何も戦争中の国だけが生き死にの世界じゃない。
 私はいつも生きるのに必死だった。
 この日本で? 努力が足りないんじゃない? と皆口を揃えて私を嘲笑する。
 足りないのは努力じゃない、才能だ。
 人より足りない才能で、生き残るため人の倍努力だけを続け。
 青春も結婚も何もしている余裕はなく、ただ生き残ってきた。
 恋も遊びも無い人生クソじゃん、なんで生きてるのと馬鹿にされる。
 だがそんなことどうでもいいほどに死が怖い。
 だから私は必死に努力して今日も生き残る。

しおりを挟む

処理中です...