虚構の旋律を奏でしもの

コトナガレ ガク

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初仕事

第13話 ダンディーの永久機関

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「ほう~なかなか趣がありますな」
 俺が見上げる先には元は白かったであろう外装が水垢やら苔や黴で錆色に変わって蔦に覆われ出した5階建てホテルがあった。昼ならまだいいが夜見たのなら人間の原始の恐怖を大いに駆り立ててくれるだろう。
 まあダンディーはこんな別荘は入らないが。
 ここは都会から電車で気楽に来れる距離にあり、都会に疲れ自然が恋しくなった人達の癒やしの場所として一時期賑わっていた時期が合ったらしい。その時にこのホテルも建てられたらしいが、ブームは長くは続かず移り気な都会の人々の興味は別の場所に移ってしまったらしい。
 裏を返せば都会人の心を繋ぎ止める魅力が無かったとも言える。
 ブームが去り倒産し忘れ去られたはずのホテル。
 そのホテルが今再び都会人の心を惹き付けるものになるとは皮肉。
「この番組のディレクターの八里です。
 今日はいい番組を作りましょうね」
「はい」
 爽やかな笑顔を浮かべる30代で躰付きも顔もいい男ディレクターの八里が美希奈に挨拶をする。
 確か父親が大物プロデューサーで親の七光りで入局して親の七光りで出世街道まっしぐらのぼんぼん。30代くらいだが、特技は親の権力乱用で今まで特にヒットした番組は無い。それでもドンドン出世していくのが芸能界の不思議。
 車で廃ホテルまで来ればディレクターの八里が一人で待っていた。だがこの男が一人で待機するなど出来るはずが無いから、ふむ仕込み役の者は既にホテル内で待機しているのかな? 
 この手の番組で仕込みが無いことなど無い、寧ろ仕込みがあることで水戸黄門のようにお約束の安心感を視聴者に提供しているといってもいいだろう。
 どんな仕掛けて脅かしてくれるのだろうか、ちょっとしたお化け屋敷に入る気分だ。
「でっ君がマネージャーかね」
「はい」
 美希奈に向けていた笑顔が俺に向いた途端に顰め面に変わる。
 感情表現豊かな人だ。
「困るんだよね勝手に付いてこられちゃ、こっちにだって段取りがあるんだから」
「なるほど、至極尤もなことですね。
 なら私も出来るだけ邪魔にならないようにしたいのでその段取りを教えて貰えないでしょうか」
「ああ、馬鹿かなんでこの俺がそんなこといちいち説明しなきゃならねえんだよ。
 お前も芸能界で生きているんなら処世術は身に付いているだろ。いいか何があってもくれぐれも収録の邪魔をするなよ。
 そんなことしたら二度とおたくの事務所には仕事回さないよ」
 流石権力の乱用には定評のあるドラ息子、脅し文句はチンピラ並みに堂に入っている。任侠映画のチンピラ役をやれば引き手数多だろうに。
 天職を見誤るとは不幸な男だ。同情してしまう。
 男はやっぱり仕事で輝く、ダンディー故に天職に出会え、天職故にダンディーが磨かれていく、そして更に天職に出会え、更にダンディーが磨かれる。まさしくダンディーの永久機関。もはや神ダンディーに成れる日も近い。
「あなたのお父様のことを含めて承知しています」
 何か知らないが俺がよっぽど邪魔のようだな。
 本当にどんなトラブルが発生するのかワクワクが止まらない。
「いいね。お前のその顔、お前もこっち側の人間だな。
 なら一つよろしく。上手く俺に気に入られればお前にはおいしい思いをさせてやるかも知れないぜ。
 よし、始めるぞ」
「「はい」」
 八里の掛け声に出部と賀李が機敏に答える。
 二人は八里の子分といったところか? このボンボンに仕事の段取りが出来るとは思えない、いばっているだけ。この二人が実質の実行部隊といったところか。
 さあ、美希奈初仕事じっくりと見せて貰うとするか。

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