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山田 武

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【強者の権利】面倒事対処 その05【最下の義務】

スレ86 助言は覚えておくべし

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『──まず殺せ、次に殺せ。殺して殺して殺し尽くして、目の前に自分以外が居なくなれば相手は全部死んでいる』

「あっ、これは違うヤツだ」

 阿鼻叫喚の森の中。
 ふと思いだした懐かしの記憶を漁っている内に、どうやら間違ったものを呼び起こしてしまったようだ。

 虚無魔法で生みだした無数の武具が空を舞い、魔物たちに襲いかかる。

 勇者の聖剣とやり合えるような虚無の力、いくら強大な魔物とはいえ耐えられるわけもなく一瞬で死に絶えていく。

『──あるものは何でも使え。がむしゃらに餓鬼みたいに動かせば、何にもしねぇ奴はすぐに死ぬ。小奇麗な武術なんてものは、頭を使う相手にだけ使えばいい。大量のバカと戦うなら、振り回すだけで勝てる』

 正しくはこっちだった。
 言った本人は棒切れだろうが石ころだろうが凶器にするため、やり方そのものを参考にはできない。

「要するに、魔力チートな今の俺にはお誂えなフィールドだってことだな!」

 恐怖を麻痺させるように叫び、唯一の勝機である虚無魔法をぶつけていく。

 魔物はたしかに、それで数を減らしていくが……それでも無尽蔵の魔物が、侵入者を押し潰そうと攻めてくる。

 アイツらと俺にある絶対的な違い──それは俺の肉体が凡人スペックなところだ。
 地球人が異世界に向かい場合、肉体が異世界仕様に変化を起こし強化される。

 彼らは『異世界人』であり『理外人』。
 異なる世界の住人にして、世界の理から外れた者たち……なんて堅苦しいことは省く、要するに別世界への適合者の総称である。

「チッ──“無限尖鋭エクステンション”」

 固くて弾かれてしまう装甲に、虚無魔法による強化で対応する。

 膨大なエネルギーがさまざまなオプション機能を働かせる虚無系の武具だが、指定しなければただの強力な武具でしかない。

 この場合は斬撃の強化、固かった装甲は紙切れのようにスッパリと切り落とされ魔物は血吹雪を流して地に伏せる。

 これ、魔力で強化すれば無制限に鋭くできるんだが……代わりに別の対価を支払う場合は武具の耐久度を減らすことになるんだぜ。

「ここで便利な魔力チートさんさ」

 魔力の糸を意識して辺りの至る所に張り付けると、そこから“虚無庫ストレージ”をイメージして中身をぶちまける。

「潰れろ──“虚無重圧アンリミテッドプレッシャー”」

 付与した力によって、武具一つ一つが魔力による威圧を発して魔物たちを脅す。

 普通に気絶で終わらせず、心拍停止で留めることもなく──魂魄、つまり生命そのものに働きかけてその活動を停止させる。

「あっぶな! し、“魔力盾シールド”!」

 威圧に耐えられる魔物たちが、地に転がる弱い魔物を糧にして襲いかかってくる。

 喰らえば命は漲り、潰せば活力が湧く──しっかりと処理できない対価として、後続とはより激しい戦いをしなければならない。

 空に盾の足場を生みだし、そこで歩術を行使して緊急回避。
 再び“虚無庫”を展開し、某英雄王のようにいっせい放出していく。

『究極的に言えば、一対一を繰り返していれば勝てるんだ。それができる、今のお前は。だから、環境を整えろ。自分に有利な場所で戦え、勝てないなら場所を変えろ。どんな強者だって、小さなミスで死ぬんだ』

 落としたのは魔法の素。
 わざと失敗した魔法の成りそこない、そして強烈な爆弾。

 地面に触れた途端イメージは崩壊し、周囲に爆発をもたらす。

 魔物は吹き飛び、耐えられたとしても爆心地から少し離れた場所まで移動している。
 俺はそこに優雅に着地し、見せつけるように魔法を展開していく。

「いけ──“虚無偶像アバター”」

 魔力で模られた分身が現界し、散らばる虚無の武具を握り締めて動きだす。

 初めの頃は新品のAI同様、簡単な指示しかできなかったんだが……サーシャと鍛え上げることで、戦闘も可能となった。

 ノイズ交じりの体に違和感があるものの、別に本物を隠したいわけじゃない。
 欲しいのは変わり身ではなく戦力なのだ。

「スー、ハー。スー、ハー」

 時間稼ぎを分身に任せ、呼吸を整える。
 魔力で肺活量を高めているため、吸い込む量も通常の何倍にも増幅されていた。

『魔導とは、己の創造する未来を現実へ押しこむ技術である。まずは型を定めよ。次に息吹を集める。そしてイメージしろ、在らざるものが降臨せし未来を』

 ……アドバイスか正直微妙だが、アイツなりに魔法が使えなかった俺に絞っていってくれた言葉だしな。

 要するにルーティーンで集中して、魔力を集めれば大魔法もできるってことだ。

 これまでは一対一に関する魔法ばかり生みだしていたし、複数相手であってもそこまで威力の無い魔法だった。

 だからこそ今、大規模な殲滅魔法を生みだして発動させる。

「無、広い、何もない、白に、更地? ……違うな。無、虚無、破壊、破滅……」

 影響を及ぼす範囲が広いからか、必要とされるイメージもかなりのものを要求される。
 だからこそ、先ほどの呼吸で体に巡る血液の速度を上げて思考速度を向上させた。

「無、空気、空間、広く、次元、虚空、零、崩壊……これはヤバすぎる」

 しかし、イメージしすぎて変な方向に考えが飛んでしまうのもいけない。
 最後にイメージしたものをそのまま形にしていたら、きっと世界を滅ぼす最悪ならぬ災厄の魔法になっていただろう。

 時間を潰している間に、“虚無偶像”の数はどんどん減っている。
 次のイメージが最後になると思う、しっかりと考えなければ……。

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