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第42話 邪神の封印場所へ

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 漆黒の城壁に包まれ、嵐が吹き荒れる中でも堂々たる迫力を放つ魔王城。

 魔王が俺たちの場所まで勝手に現れてくれたおかげで、俺が今まで目にすることのなかった場所。

 実際に来てみると、ただならぬ雰囲気に身構える自分がいる。

 この中で勇者を待ち構えていた方がよかったんじゃないかとすら思えるほど威圧的な城。

「これからここを攻略するのか」

 俺は喉を鳴らした。

 本来は上に上り詰めるのだろうが、今回は地下を目指す。

 魔王がいないとはいえ、一体何があるか想像もつかない。

「その必要はありませんわ」

 口を挟んできたのはヨーリンだった。

「ワタクシを誰だと思っていますの?」

 ヨーリンが自信たっぷりな声を出す。

「今は俺の影だろ?」

「ラウル様の影。本人の口から言われるとワタクシ溶けてしまいそうです」

 影なら溶けてるようなものだろ。

 じゃなくて、これじゃ話が進まない。

「大魔王だろ? でも、ずっとこっちにいなかったんじゃないのか?」

「ふふふ。ワタクシの許可なく誰もこの魔王城を改築なんてするはずないでしょう。トラップも全て把握済みですが、そんな不安な場所をラウル様に通すわけにはいきません!」

「なんだよ。入れてくれないのか?」

「そうではないです。ただ、その恥ずかしいのですが、このような時のためにワタクシの部屋があるのです。……本当はラウル様と二人だけで一夜を共にしたかったんですけど……緊急時です。皆様を招待させていただきます!」

「おっしゃ! どうやって入るんだ?」

「待て、これ自体が罠という可能性も」

「つっても真正面から行って疲弊するより、ヨーリンを頼った方がいいだろ? せっかく尽くしてくれてるんだ」

「尽くしてるだなんて、そんな。ワタクシはただ良妻であろうとしているだけで」

「案内できるなら案内してくださいよー」

 雑な物言いで、つまらなさそうにタマミが言った。

 信心深いだけに神と同じくヨーリンを信じていないらしい。

「ラウルちゃんが信じるなら私も信じるけど、大魔王でしょ? 口だけなんじゃないですか?」

「いいでしょう。そこまで言うなら連れて行って差し上げます。皆様、ラウル様の後ろに続いてください。ラウル様は右に五歩。それから左に七歩」

「待て、そんな細かい指定で動くのか?」

「そうです。ここから正確に移動しないと、たどり着けない場所にあるのです。ジョーカー・ウランクも文句を言いながらでしたがやってくれました」

 よくわからないが、俺はヨーリンの言う通り、一歩刻みで移動を続けた。

 疑い半分で歩いていたが、気づいた時には室内にいた。どうやらヨーリンの言葉は本当だったらしい。

 俺が連れてこられたのは、ただベッドが置かれただけの簡素な部屋。

 使われていなかったはずだがホコリひとつない綺麗な部屋だった。

 部屋の管理に魔法でも使っているのだろうか。ま、大魔王だしな。

「うおっ!」

 続々と後ろから流れ込んでくる仲間たちに背中を押され俺はその場でよろめいた。

「こんなことって」

 皆口々に驚きの言葉を発している。

「これ、あの場所に直接行くんじゃダメだったのか?」

「ダメなんですよ。それじゃ色々な人が入ってきてしまうでしょ? ワタクシはワタクシだけが入れるようにしたかったので、工夫したんです。特殊な条件を満たさなければ入れないようにしておきました。今の体では直接この部屋に来ることもできませんし、いざと言う時のために準備しておいて本当によかったです」

「誰も入ってこなかったのか?」

「ええ。荒らされた形跡もありませんし、大丈夫ですわ。それより、早く内装を整えたいです。こんな見た目じゃラウル様をおもてなしできませんし」

「影じゃおもてなしなんてできないだろ。それに、ここじゃなくてもいいだろ。魔王を倒したとはいえ、あんまり魔王城に長居したくないからな」

「そうですね。そうなればラウル様の家で」

「いつかな」

 ヨーリンが期待しているところ悪いが、俺は今のところ家を持っていない。

 これから俺が家を持てるかって話だ。

「私も招待してください!」

「私も私も! ラウルちゃんの家、気になる。ね。いいでしょ? アルカちゃん」

「え、えーと」

 タマミとラーブの要求に困った様子で俺に視線を向けてくるアルカ。

 俺はそこで咳払いをした。

「今、家のことはどうでもいいだろ! 後だ後!」

 全員の無事を確認してから俺は影を見た。

「邪神はここの地下らしいが、どうやって行くんだ。ヨーリン」

「ご案内は任せてください。ワタクシやウランク用の通路は安全ですからね」



 本当にヨーリンのための通路だったらしく、トラップの類を踏むことなく俺たちは地下までやってきた。

 ヨーリンの部屋を出ると、魔王がやられた情報が伝わっているようで、城内は騒がしかったが、俺たちのもとまでやって来るモンスターはいなかった。

 となると、この邪神の封印は、魔王がベルトレットの体を使い、特別に動かしたことになりそうだ。

「これが邪神の封印か?」

「ああ」

「こんなのが封印なのか?」

 俺にはただの岩にしか見えない。

 神が何か言いたげな気配を放っている気がするが、油断するなってことか?

 だが、俺の質問に答えたのは神ではなかった。

「オレサマが邪神だと知らないのか? 客か? おい、ウランク。どこにもいない? 誰だキサマ。人間なのか?」

 少し驚いた様子で邪神は喋り出した。

 封印は完全ではないようだ。

「おおっと、ヨーリンもいるようだ。そうか。とうとう人間への同情をやめ、自分で征服する気になったか。ウランクめ、待たせおって。切り離されて久しいなヨーリン」

「誰かと人違いなのでは? ワタクシはあなたのことを知りません」

「そうかそうか。ということは、子か孫か。そりゃ太古の時代から生きているモンスターなどいないよな」

「ワタクシはワタクシのままですが」

「別世界へ逃げた拍子にオレサマのことを忘れたのか?」

 勝手に話を進める邪神。

「なんの話だ。俺抜きで話を進めるな」

「済まなかったな。キサマが今、神にそそのかされている人間か。それにしても神が多いな。正義、愛、知恵。あの時の勇者たちと似たようなメンツだな」

 やはりあの老人は勇者だったのか?

 それに、一度この邪神と遭遇している。神と一緒に。

 あの老人や仲間が邪神を封印したってことか。

「知っての通りだろうが、オレサマは人に対してキセキを起こすことができない神。モンスターにしか力を与えられないことで邪神なんて呼ばれている」

「モンスターを使って悪さをするから邪神なんて呼ばれるんじゃないのか?」

「その通りだが、それの何が悪い?」

「は?」

「迷惑をかけて何が悪い? オレサマは他の神から特別悪い扱いを受けてきた。そんな俺が人程度に迷惑をかけて何が悪い。人間が苦しむ? 知ったことか。キサマ、魔王は倒したんだろう? 目標を達成したということだろう? 素晴らしい。よかったじゃないか。どれもこれもオレサマが人間に目標を与えてやったおかげだ。何も悪いことはしていない。悪いというのはキサマらの価値基準に過ぎない。むしろ感謝してほしいくらいだ」

「邪神はどうやって倒す? そもそもどうして封印なんかできてる?」

「貴様と同じような状態さ」

 つまり、何かモンスターについて力を与えているってことか。

 封印したのはモンスターだけで、邪神に封印はできなかったと。

「キサマらはこれを封印だと思っているのか? おめでたいやつらだな。こんなものいつでも解けたさ。オレサマが今話せているのがその証拠」

 岩の塊だった邪神の封印から粘着質の液体が染み出してきた。

 それがスライムだとわかるのにそう時間はかからなかった。

「意識のないスライムは、オレサマが直接操作できる最高の存在であり太古からオレサマのしもべでもある」

「スライムごときを乗っ取って何ができる?」

「気をつけろ。我々はスライム相手に封印することしかできなかったんだ」

「なに?」

「そう。ただのスライム相手に、神と勇者でさえ封印しかできなかった。なら、オレサマがさらなる力を与えればどうなるだろうなぁ! ぎへゃひゃひゃひゃひゃ!」

 汚い笑いをあげながらスライムはみるみる変化していった。

「神をいじめる神ってのは神としてどうなんだって話だよなぁA!」
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