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第6話 その後のサーカス

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「どうして、うまくいかないのだ」

 ワシは頭をかいた。

 ドーラをクビにし早速練習を見ているが、火を使った芸がうまくいっているように見えない。

「どうしたのさ父さん。そんなにイライラして」

 息子のゴルドに話しかけられ、ワシは息を吐き出した。

「邪魔なはずのドーラをクビにしたと言うのに、何故動きがよくなってないのだ」

「それはそうだよ。いくら邪魔だったとは言え、まだ練習を始めてすぐじゃないか。いくら優秀でも慣れるにはまだ時間がかかるよ。一人減ればその分別の動きが必要になるからね」

「ワシが言っているのはそんなことではない。以前はもっと大胆に炎をくぐっていたではないか。今はなんだ? 熱そうにして。これでは格好がつかないだろう!」

「そのことなんだけど……」

 ゴルドは何故か言いにくそうに下を向いた。

「なんだ。いいたいことがあるなら言え、親子の仲だろう?」

「いや、でも……」

「リーダーが言いにくいなら、私が教えてあげます」

 ゴルドが言い淀む中、やって来たのは我がサーカスのアイドルのアリサだった。

 ただ一人ドーラをクビにすることに反対していた女だ。

「なんだ。言ってみろ」

「アリサ、今は言わない方が……」

「ドーラが使う火吹き芸は私たちには熱くなかったんですよ」

 ゴルドを無視してアリサは衝撃の事実を言って聞かせた。

「何? ドーラだから熱くない火を出せていただと?」

「そうですよ。よく考えてみてください。炎系の魔法はあくまで攻撃なんですよ。魔法として使えば当然味方にもダメージを与えられます。けど、ドーラの火は火吹き芸であって芸なんです。燃やす必要があれば燃やし、必要がなければ燃やさない。特定の物だけを燃やせるという性質を持っていたんですよ」

「おい。ゴルドどう言うことだ。そんな話聞いたことないぞ」

「俺も確証はなかったんだ。今になってはっきりわかったと言うか……」

「なら、アリサはどうしてわかっていたのだ」

「どうしてと言われても、気づくと思いますけど」

 アリサはサラッと言うと練習に戻っていった。

「まあ、アリサとドーラは何故か仲が良かったからな」

「そんなことないさ。アリサが合わせてただけだよ。普段から誰に対しても分け隔てなく接しているじゃないか。もう、美女と一般人だからね。父さん。そこを間違えちゃいけない」

「そうだな」

 ゴルドはアリサのことになると急に頭が硬くなる。

 好きな女が他の男と仲良くしているのを見ると腹が立つのはわかる。

「確かなのは、アリサはわかっていながら、断固として反対はしなかったことだよ」

「それがどうしたのだ?」

「つまり、火の熱さくらい慣れれば問題にならないってことさ」

「なるほど」

 ワシはゴルドの言葉に納得し、ホッと息を吐き出した。

 ドーラ一人を重く見過ぎていたのだ。ゴルドの言うようにまだ慣れていないだけだろう。

「父さん。今のサーカスを見てみてよ」

「うむ」

「邪魔な男が消え、華やかさが増したんだ」

 確かにゴルドの言う通り、ここのサーカスはゴルドが引き抜いてきた見た目も能力も高い女が多い。

「まずは、最高の魔物使い、ユラーだね」

「それいけ! スライム! パンサー!」

 ユラー・リーぺ。その名は他のサーカスにも轟いており、まるで手足のように魔物を使っているとまで言われている。

 彼女は確実にサーカス一の魔物使いだ。

 それだけでなく、俺が目を向けるだけで笑顔を送ってくる。きっと団長の影響下に置かれたいのだろう。

 魔物の扱いだけでなく、容姿もよく出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。ワシ好みの女だ。

「次に、ドーラ以上の炎の使い手、ファイアマジシャンのカフア」

「ファイアボール! ファイアサークル!」

 カフア・ルマ。全ての炎系魔法を扱えると言われている女。

 ゴルドが言っていたように、カフアの炎系魔法はドーラの火吹き芸そっくりだ。

 レアスキルと聞いてわざわざワシがスカウトしたが、炎系魔法で事足りるなら、そもそもドーラをスカウトする手間は要らなかったのか。

 過去を振り返りながらカフアを見ると、ペコペコと頭を下げてはにかんだ。

 やはりワシを正しく評価する者を残しておくべきだな。

「そして、雷の武闘家、最年少のサン」

 サン・ナクリル。幼い見た目とは裏腹に素早い攻撃を宙に繰り出し稲妻を発生させる。

 突き出される拳、一撃一撃に電撃が走り、一瞬で会場全体を照らし出す。

 ゴルドとの相性も良く、放たれた水に電気が乗る光景は毎度観客を魅了している。

 あの大歓声はワシとしても気持ちがいい。

 サンはワシの視線に気づくと笑顔で両手を振ってきた。やはり元気なのは見ている分にも気分がいいな。

 ワシはすかさず手を振り返しておいた。

「最後に、我がサーカスのアイドル! 世界一の氷の使い手。氷系魔法なら誰にも負けない。アイスクイーン、アリサ!」

 一際意気込んでゴルドが紹介した。

 それもそうだろう。ゴルドはアリサのことになるといつも熱くなる。

 厳しい表情から放たれる氷の嵐。

 いつも以上に荒々しいが、それでいて美しく、人を傷つけず、そして、儚い。

 残り続けない美しさがそこにはあるように感じられた。

「やはり我がサーカスの看板だな」

「そりゃそうだよ。何せ、俺のベストパートナーだからね」

「そうだったな」

 武闘家のサンとも相性のいいゴルドだが、実際はアリサとの相性の方がいい。

 水と氷。それは常に惹かれ合い、互いになくてはならない力だからだ。

 そのせいなのか、アリサは照れを隠すようにこちらを見向きもしない。

 よほどゴルドのことを意識しているのだろう。最後に見せた表情も緊張のせいか硬いままだった。

「いくら反対したとは言えここに残っているのが本当のアリサなんだ」

「そうだな。しかし、普段からあの服装だったか?」

「いや、いつもはもっと華やかな練習服を着てもらってるはずだけど、どうしたんだろう。ちょっと聞いてくるよ」

「おう」

 ワシはゴルドに頷きかけ、改めて練習風景の監視を再開した。

 別にやましい気持ちなんて何もない。
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