待つだけだった私にさようなら ー私だけを見てほしかったー

梅雨の人

文字の大きさ
9 / 18

9イライジャ

しおりを挟む
(イライジャ視点)

「…出かけます。あとはお二人でどうぞ。少し気分転換に行ってまいります。私も友人とたまには楽しんできてもよろしいですよね…。」 

「…泣いているのかグレース...?…どこに行くんだ…?誰と…?」 

喚き続けるゾーイと困惑している私が言い合いを始めてから、グレースが静かにそう口にした。嫌な予感しかしなかった。

グレースにどう詫びたらいいか、そしてゾーイの歪んだ本音にどう対処したらいいかと困惑し立ちすくむ私の横を、グレースはすり抜けて屋敷を出て行った。 

ハッと我に返って追いかけたが、グレースは屋敷を出てしまった後だった。

妻のことなのに彼女がどこに行ったのかなんて私には皆目見当もつかなかった…
冷や汗と共に後悔に激しく襲われた全身が震えだしそうになるのを何とか耐えた。

 

―――グレースが泣いていた… 

一度も見たこともないデイドレスに身に包んで。見たこともない宝飾品を身に着けて。それのどれもが妻にとてもよく似合っていた。きっと嫁入りと共に持参したものだろう。ゾーイに会いに行って日を跨いで帰宅した私に幻滅したのだろうか。

きっと私が今日帰ってきたらすぐにでも出かけられるようにしていたのだろう。もう私の顔なんて見たくないのかもしれない。こんな結婚生活が嫌になってしまったと言われても私には弁論のしようもない。

こんな時なのに、これから妻が時間を過ごす友人というのが誰なのか、あんな美しいグレースと共に過ごす、まだ会ったこともない人物に嫉妬心が沸き上がった。


実は自分が望んでしまったがため、こんな遠くに突然嫁ぐことになったグレースには悪いと思っている。それでも私はグレースのことを私は心から愛しているのだ。

いまだ政略結婚だと思い込んでいるであろうグレースに、この結婚に至った経緯を説明できていない。愛しさ余って直視できず、話しかけるだけで心拍が上がりきってしまう。
情けない私は結婚式でさえも綺麗だのひとことさえ告げられず、閨でもグレースが愛おしすぎて緊張してしまう始末だ。何ならグレースを喜ばせる前に果ててしまうし、嫌われたくない一心で気持ちと裏腹にあっさりと終らせてしまっている。 

グレースにやさしい言葉も何もかけてやれない。仕事とゾーイに時間を取られて、妻と一緒に食事をとれない日が続き、実はかなり落ち込んでいるなんて情けなさすぎて、グレースには知られたくなかった。

グレースをどうしても妻にしたくて、ほかにもグレースを妻にと狙っていた男たちから掻っ攫うようにして奔走し、やっとのことでグレースを妻にした。これで毎日グレースと共に時間を過ごせると、本当に嬉しくて仕方なかったのに…。

蓋を開けてみれば私は何一つ、私の重たすぎる気持ちをグレースに伝える勇気もなければ、なんならグレースを日に日に悲しませて奈落の底につき落としてしまった。 

遠く知らない土地に一人で嫁いで来て、女主人として頑張るグレースを私が夫として支えるべきなのは分かっている。
しかし情けない私は幼馴染のゾーイの面倒をみつつ仕事をこなすと、グレースと過ごす時間を捻出できないままでいる。
いつも慌ててグレースの元に戻ってもタイミングが合わなかったり、もう眠ってしまった後なのだ。

ああ、なぜ私はあんなにもゾーイの面倒を見なければと使命感に燃えていたのだろう。ただの幼馴染なのだ。一番にグレースとのことを考えなければならなかったというのに。

素直にグレースが愛おしすぎて、緊張してうまく接することができないのだとグレース伝えるべきだと昔から使えてくれている執事長に言われていたのに、その勇気が持てなかった。 


グレースが好む色も、食べ物も、趣味も未だに私はよくわかっていない。
人づてに聞いただけで本人からは直接聞いていないのだから。 

そしてこの屋敷の中でグレースが落ち込んだ際に足を向ける場所が執務室だと聞いて、夫として自分自身が情けなくなってしまった。
夫である自分の元ではなくて執務室に行かざるを得ないグレースの心境と、自分の不甲斐なさに頭を抱えた。


グレースが泣いていた… 

私がグレースを泣かせてしまった… 

私が… 

私が間違っていたから…。

ゾーイが違う女に見えてきた。 

ゾーイに構うべきではなかった。 


私が…私が…グレースを泣かせてせてしまった…… 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

彼はヒロインを選んだ——けれど最後に“愛した”のは私だった

みゅー
恋愛
前世の記憶を思い出した瞬間、悟った。 この世界では、彼は“ヒロイン”を選ぶ――わたくしではない。 けれど、運命になんて屈しない。 “選ばれなかった令嬢”として終わるくらいなら、強く生きてみせる。 ……そう決めたのに。 彼が初めて追いかけてきた——「行かないでくれ!」 涙で結ばれる、運命を越えた恋の物語。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

後悔は手遅れになってから

豆狸
恋愛
もう父にもレオナール様にも伝えたいことはありません。なのに胸に広がる後悔と伝えたいという想いはなんなのでしょうか。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

処理中です...