あなたに恋した私はもういない

梅雨の人

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幼馴染

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「やあ、ジェイド。すまないね、少々早く到着してしまったようだ。シャルの様子はどうだ?」

「よくきたね、クレイグ。長旅で疲れただろう。ああ、シャルはかなり憔悴していて父上も俺もなんと声をかけていいのかわからないでいるんだ。」

「そうか…。」
「ああ、俺も父上も後悔してもしきれない。」

そういって、クレイグが示す視線の先を目で追うと、窓越しにシャルロッテの姿が見えた。
クレイグの墓であろうそれに寄り添うように佇む姿が。

こんな時なのに、最後に見た時よりも大人の女性に成長したシャルロッテの姿に、胸をときめかす自分にあきれてしまう。

シャルとジェイドは僕の幼馴染で、小さいころから三人でいつも一緒に遊んだ仲だ。
同い年のシャルは、可愛くて、優しくて、いつも僕のことを小さいながらに気にかけてくれた。
彼女が僕の初恋で、その初恋をまだ僕は引きずっている。

意気地なしの僕は、初恋を胸に長年秘めたままだった。
やっと婚約を父と母に相談して、シャルに申し込む段階になって、あっけなくアレクサンダーに先を越されてしまったのだ。

幼い自分を殴ってやりたい。
なぜ、もう少し早くシャルロッテに婚約を申し込まなかったのかと。
そうしたら、彼女をこんなに苦しめることはなかっただろうに、と。

失恋のショックで、シャルロッテの顔を見ることもつらかった自分は、隣国へさっさと留学という名目で逃げてしまった。

だから、今回の痛ましい出来事を母から聞きつけ、すぐに帰国することにしたのだ。
シャルロッテがこれ以上傷つかないように自分が彼女を守ることを胸に誓って。

幼馴染で初恋の人の兄であるジェイドに、今回の一件の詳細とその背景を聞いた。
そのおぞましい内容に気が狂いそうになった。

賊に襲われ愛犬を亡くした恐怖と悲しみに加えて、これまで慕ってきた婚約者の変わりようと、学園内での孤立といじめ。
シャルロッテのことを察するといたたまれなくなった。

「あと、クレイグ。まあお前だから言うけど、あの賊に襲われた直後からシャルの声が出なくなってしまったんだ。医者が言うには、ストレスが原因らしい。」

「なんだって…?いったいシャルが何をしたっていうんだ?シャルが何か酷いことを誰かにしたっていうのか?違うよな。なんで彼女がこんな目に合わなければならないんだ。」

急遽帰国してシャルロッテに面会し少しでも元気づけられたらなんて思っていた自分が愚かに思えてきた。

こんなにつらい思いをした彼女に、周りが何を言っても響かないのではないか。

こんな状況で、今のシャルロッテを元気づけるなんて無理な話だ。

今はそっとしておくしかないのか。


でも、いつかシャルロッテがその暗闇から立ち上がろうとするときにそこで手を貸すのは自分でありたい。
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