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さようなら
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あの襲撃から、一月が過ぎた。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、父や兄を少し安心させることが出来たのではと思っている。
今は王都から少し離れた領地で、静養中だ。
学園もあれ以来休学している。
一時は絶望のあまり、命を絶ってしまおうとさえ思ったが、父や兄それと幼馴染のクレイグがずっとそばで励ましてくれたのもあり、今は少しでも前を向いて行けたらと思っている。
あの襲撃で、グレゴリーが命を懸けて守ってくれたのだから私は頑張って生きていかなければ。
襲撃犯は捕まり、もうすでに処罰は下されたと父は私に教えてくれた。
アレクといつも一緒にいたアンネマリー様が指示を出し、彼女は既に罰を受け修道院に送られていったらしい。
父は私の体調を慮って、私に真相を伝えようか迷ったらしいが、私は知る権利があるだろうと判断してくれたようだ。
私もその真相を知ることが出来てよかったと思っている。
あの学園では、嫌な思いしかない。
私の体調が回復した際に、父が無理に通わずに今は休んでも良いと言ってくれて正直ほっとした。
ただ、ずっと学園に通わなくていいわけでもないので、いずれはどうするのかを決めなければならないのだろう。
アレクとの婚約は破棄された。彼とはもうずっと会っていない。
私と婚約が破棄されて喜んでいるのではないだろうか。
アンネマリー様が修道院に送られて悲しんでいるのだろうけれども。
アレクとアンネマリー様の計画についても教えてもらった。
恋人のふり―――。
聞いてあきれてしまった。
そんなことをされて、自分の婚約者が他の女生徒一緒にいるところを見せつけられるよりは、アレクの婚約者という事で嫉妬してきた周囲に嫌がらせを受けた方がよっぽどかよかったと思う。
私はアレクの婚約者として彼のことを理解したつもりでいたけれど、今回の件で、お互いのことを理解できていなかったのだと思い知らされた。
「シャル、対岸に大きな木があるだろう?あっちを見てごらん?」
クレイグにそう言われて、私は指をさされた方を見る。
そこの大きな木の目の前を流れる川に、可愛いカモの親子が並んで泳いでた。
私は今、ゆっくりとした穏やかな時間を過ごしている。
声が出なくなって、特に困ったこともないし案外、この静かな時間の流れが気に入っている。
静養先にクレイグも同行してくれた。
父も兄も、現在取引している交渉のため、一緒に来ることが出来なかったのでクレイグが代わりに私に同行してくれたのだ。
おかげで、クレイグばかりに話させて申し訳ないが、いつも穏やかで楽しい時間を過ごせている。
先日は馬に乗せてもらい遠出に行った。
頬に触れる風がさわやかで、馬上から見える景色は雄大で素晴らしく、到着した先で食べたサンドイッチは格別の味がした。
クレイグと二人で、持ってきたものを全部食べ切ってしまった私は、うたた寝をしてしまっていたらしい。
目を開けたら、クレイグのシャツが私にかけられていた。
クレイグは、いつも私のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
おかげで、自分でも最近ではよく笑顔をみせることができる。
そんなある日のこと、クレイグに誘われて夕日の綺麗に見える丘にやってきた。
心なしか緊張した面持ちのクレイグが、おもむろに私に向かって跪いた。
「シャル。実は、君は僕の初恋の人で、その初恋はまだ僕の中で終わっていないんだ。シャル。僕は死ぬまで君を大事にしてずっと一緒にいられたらと心から思っている。僕と結婚してください。シャル。お願いします。」
クレイグは震える手で私の手をおもむろに救い上げ、緊張した面持ちで私を見上げた。
私はクレイグの綺麗な緑色の瞳を見つめて頷いた。
自然とお互いの目に涙が溢れてきた。
言葉で返せない代わりに、私はクレイグの頬にキスを送った。
言葉にはできない、ありがとうの気持ちを込めて。
周囲が何と言おうとクレイグは私のそばにずっといて穏やかな時間をあたえてくれた。
穏やかなで幸せな時間を。
私の声が出ないのにもかかわらず、いつもそこにいてくてそれだけで安らげた。
ずっと、クレイグから溢れ出る私の感情に気が付いていた。
そして最近では、クレイグから溢れ出るその感情をとても心穏やかで心地よいものと受け止めることが出来ていた。
アレクの時と少し違うかもしれない。
でもこのように心穏やかな心地よい好きという感情も愛と言えるのかもしれないと思った。
クレイグへのこの気持ちがこれからもっと膨らんでいけばいい。
そう思った。
さようなら、アレク。
二年後
私達は、クレイグの元居た留学先の学園を無事卒業した。
卒業後すぐに結婚し、いずれクレイグが継いでいく予定のヴァルキリー伯爵家の離れに居を構えた。
結婚式の途中、気のせいかもしれないが遠くの方にアレクを見た気がする。
そんなことも、たくさんの人々に祝福されて幸せいっぱいだった私はすぐに忘れてしまったけれども。
クレイグと一緒になれて本当に毎日が幸せだ。
最近になって、クレイグが捨て犬を拾ってきた。
商談が終わって馬車に乗り込む道すがら、見つけてきたまだ小さな子犬だ。
名前はもちろんグレゴリーと名付けた。
もうすぐ産まれてくる私とクレイグの大事なこの子と一緒に大きくなってほしいと思っている。
ようやく気持ちが落ち着いてきて、父や兄を少し安心させることが出来たのではと思っている。
今は王都から少し離れた領地で、静養中だ。
学園もあれ以来休学している。
一時は絶望のあまり、命を絶ってしまおうとさえ思ったが、父や兄それと幼馴染のクレイグがずっとそばで励ましてくれたのもあり、今は少しでも前を向いて行けたらと思っている。
あの襲撃で、グレゴリーが命を懸けて守ってくれたのだから私は頑張って生きていかなければ。
襲撃犯は捕まり、もうすでに処罰は下されたと父は私に教えてくれた。
アレクといつも一緒にいたアンネマリー様が指示を出し、彼女は既に罰を受け修道院に送られていったらしい。
父は私の体調を慮って、私に真相を伝えようか迷ったらしいが、私は知る権利があるだろうと判断してくれたようだ。
私もその真相を知ることが出来てよかったと思っている。
あの学園では、嫌な思いしかない。
私の体調が回復した際に、父が無理に通わずに今は休んでも良いと言ってくれて正直ほっとした。
ただ、ずっと学園に通わなくていいわけでもないので、いずれはどうするのかを決めなければならないのだろう。
アレクとの婚約は破棄された。彼とはもうずっと会っていない。
私と婚約が破棄されて喜んでいるのではないだろうか。
アンネマリー様が修道院に送られて悲しんでいるのだろうけれども。
アレクとアンネマリー様の計画についても教えてもらった。
恋人のふり―――。
聞いてあきれてしまった。
そんなことをされて、自分の婚約者が他の女生徒一緒にいるところを見せつけられるよりは、アレクの婚約者という事で嫉妬してきた周囲に嫌がらせを受けた方がよっぽどかよかったと思う。
私はアレクの婚約者として彼のことを理解したつもりでいたけれど、今回の件で、お互いのことを理解できていなかったのだと思い知らされた。
「シャル、対岸に大きな木があるだろう?あっちを見てごらん?」
クレイグにそう言われて、私は指をさされた方を見る。
そこの大きな木の目の前を流れる川に、可愛いカモの親子が並んで泳いでた。
私は今、ゆっくりとした穏やかな時間を過ごしている。
声が出なくなって、特に困ったこともないし案外、この静かな時間の流れが気に入っている。
静養先にクレイグも同行してくれた。
父も兄も、現在取引している交渉のため、一緒に来ることが出来なかったのでクレイグが代わりに私に同行してくれたのだ。
おかげで、クレイグばかりに話させて申し訳ないが、いつも穏やかで楽しい時間を過ごせている。
先日は馬に乗せてもらい遠出に行った。
頬に触れる風がさわやかで、馬上から見える景色は雄大で素晴らしく、到着した先で食べたサンドイッチは格別の味がした。
クレイグと二人で、持ってきたものを全部食べ切ってしまった私は、うたた寝をしてしまっていたらしい。
目を開けたら、クレイグのシャツが私にかけられていた。
クレイグは、いつも私のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
おかげで、自分でも最近ではよく笑顔をみせることができる。
そんなある日のこと、クレイグに誘われて夕日の綺麗に見える丘にやってきた。
心なしか緊張した面持ちのクレイグが、おもむろに私に向かって跪いた。
「シャル。実は、君は僕の初恋の人で、その初恋はまだ僕の中で終わっていないんだ。シャル。僕は死ぬまで君を大事にしてずっと一緒にいられたらと心から思っている。僕と結婚してください。シャル。お願いします。」
クレイグは震える手で私の手をおもむろに救い上げ、緊張した面持ちで私を見上げた。
私はクレイグの綺麗な緑色の瞳を見つめて頷いた。
自然とお互いの目に涙が溢れてきた。
言葉で返せない代わりに、私はクレイグの頬にキスを送った。
言葉にはできない、ありがとうの気持ちを込めて。
周囲が何と言おうとクレイグは私のそばにずっといて穏やかな時間をあたえてくれた。
穏やかなで幸せな時間を。
私の声が出ないのにもかかわらず、いつもそこにいてくてそれだけで安らげた。
ずっと、クレイグから溢れ出る私の感情に気が付いていた。
そして最近では、クレイグから溢れ出るその感情をとても心穏やかで心地よいものと受け止めることが出来ていた。
アレクの時と少し違うかもしれない。
でもこのように心穏やかな心地よい好きという感情も愛と言えるのかもしれないと思った。
クレイグへのこの気持ちがこれからもっと膨らんでいけばいい。
そう思った。
さようなら、アレク。
二年後
私達は、クレイグの元居た留学先の学園を無事卒業した。
卒業後すぐに結婚し、いずれクレイグが継いでいく予定のヴァルキリー伯爵家の離れに居を構えた。
結婚式の途中、気のせいかもしれないが遠くの方にアレクを見た気がする。
そんなことも、たくさんの人々に祝福されて幸せいっぱいだった私はすぐに忘れてしまったけれども。
クレイグと一緒になれて本当に毎日が幸せだ。
最近になって、クレイグが捨て犬を拾ってきた。
商談が終わって馬車に乗り込む道すがら、見つけてきたまだ小さな子犬だ。
名前はもちろんグレゴリーと名付けた。
もうすぐ産まれてくる私とクレイグの大事なこの子と一緒に大きくなってほしいと思っている。
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