もう少し早く気が付けば君を失わずに済んだのだろうか、なんて後悔をあなたはきっとしない。

梅雨の人

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未だに割れんばかりの歓声が上がっておりますが、フェリックス様は私の方向を見上げると軽く頷いた後に、再び控室の方に戻って行かれました。 

サンドラー前辺境伯様もお父様も満足そうに頷いておられます。 

「この試合が終わる頃にはマリア嬢にロス爺と呼んでもらえそうじゃ。しかし考えてみればフェリックスの奴ずっと辺境で剣を振るうばかりで王都の奴らは奴の強さを知らんからのう。がはははっ!信じられんって顔している連中の多いことよ。おっもしろいのお。」 

ほくほく顔のサンドラー前辺境伯にお父様は複雑な顔をしておられます。 


フェリックス様は二回戦、三回戦共に瞬く間に勝利をおさめついに準決勝でアベラルド様と対戦することになりました。 

二回戦からの参加となるアベラルド様は予選も一回戦も免除されての参加ですが、先ほどの三回戦は、対戦相手の攻撃を見事にかわし、力強い剣さばきで勝利を手にしていたのです。 

 

「おう、来た来た。」 

アベラルド様――――!!!フェリックス様――――!!! 

会場中の女性の声援が見事に二分しております。 

フェリックス様とアベラルド様は西側と東側に設置されている控室の扉から出て来てまっすぐに競技場の真ん中まで歩いてきました。 

対戦相手として対峙したアベラルド様と同様フェリックス様も余裕の笑みを浮かべて向き合っております。 

「マリア大丈夫か?」 
「お父様……っ……」 
「大丈夫じゃマリア嬢。奴を信じるんじゃよ。」 

 
「それでは準決勝試合を始める。両者構えて。ーー始め!!!」 

片手に剣をぶら下げるようにして身動きのしないフェリックス様に対して、アベラルド様も同じく様子を窺うように静かに剣を構えて微動だにいたしません。それからしばらくするとアベラルド様はフェリックス様の周囲をゆっくりと回るように動きだしました。 

ガキンッ!!!ガッガッガッガッ!!!!キンッ!!!! 

突然始まった撃ち合いに、良く知っているはずの二人が目の前で戦う光景に身がすくんでしまいます。

アベラルド様が強く打ち込むたびにフェリックス様が軽くそれをかわし、時には剣を激しく交えております。肩で息をするアベラルド様に対して、フェリックス様の方は全く息も上がっておらずに無駄のない動きをしております。 

「はぁっはぁっ」 

一旦フェリックス様から間を取られたアベラルド様の激しい息遣いが、しんと静まり返った会場に響いております。 

その間もフェリックス様は剣を片手にぶら下げてアベラルド様の方に目を向けています。 

「はぁっはぁっ…そろそろ決着をつけてやる。…マリアは誰にも渡さないっ!!」 

キ―――ン!ズザッ!!!! 

アベラルド様の剣が宙を舞って地面に音を立てて落ちて行きました。

それは一瞬のスキをも見逃さなかったフェリックス様が、ふわりと舞ったと同時に無情なまでに強烈な剣さばきでアベラルド様を倒した瞬間でした。
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