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第3話 後編
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放課後、借りた、いや、押し付けられたネクタイを持って家へと帰るのも嫌なので、投げつけてでも返してやろうと生徒会長の学年の教室が並ぶ廊下をウロウロとしてみる。金髪の二つ下の生意気な生徒と真面目な生徒会長さまの噂は、例に漏れずここまで及んでいるらしく、時おり廊下を通る人々から受ける視線には、冷たいものが多い。
こっちだってこんなところに1秒たりとて存在していたくないけれど、生徒会長のクラスを知らないのだから、しょうがない。悪友は知っていたかもしれないが、着いて来てほしいと頼んだら、露骨に嫌な顔をして逃げ帰っていった。あいつ、許さない。
何となく居心地が悪いし、かといってじっと立っているとますます居心地は悪くなる一方なので、ひとまずこの階の廊下を何となくウロウロと彷徨い続ける。こうやって移動中の雰囲気を醸し出せば、少しは不審者感が薄れる、はず。
そもそも人のいるところにいなければ、お目当ての人は見つからないとはわかっていても、やっぱり何となく居づらくて、足は自然と外れへと向かう。授業でも滅多に使わない、空き教室が並んでいる端っこは、通る人なんて誰もおらず、静かだった。
多くの目線が外れたことに安堵して、窓の外を見ながら何となく廊下の一番端っこに向かって歩いていると、ふと誰も使っていないはずの空き教室から話し声が聞こえる。こんな空き教室から声が聞こえてくるなんて、どう転んでもろくな事態が発生していないとわかってはいても、好奇心に負けて、ついついドアの隙間から教室を覗いてしまう。人間なんてみんなだいたい一緒なのだ。
放課後の空き教室という、夢と妄想とが詰め込まれたようなその空間には、二人の学生の姿があった。ひとりはドアに背中を向けた、黒髪を高い位置でひとつ結びにしているスカートを履いた生徒。そしてもうひとりは、こちら側を向いている、あの生徒会長。
「伊佐野さん、あの」
「昨日はありがとう。今日の会議も、よろしく」
今まで俺にかけたこともないような猫撫で声で、しかもタメ口で、しかも俺に見せたこともないような綺麗な笑顔で、そうのたまった生徒会長は、話し相手に一歩近づくと、手を伸ばし、髪の毛のひと房を優雅に耳にかけてあげていた。そしてそのまま、耳たぶに細長い指を絡ませると、それに合わせてポニーテールがふるりと動く。
「いつもきちんと仕事をしてくれて、助かってるよ」
そう言って、今度は反対側の耳たぶを薄い唇で食んでいる。にわかに教室内に満ちた甘くて濃い雰囲気が、僅かに開けられたドアの隙間から、廊下に漏れ出してくるような気がした。思わず眉根に力が入る。やってらんない。ネクタイを返すのは、もう明日にしよう。
なぜだか猛烈に腹が立ってきて、二人のいた空き教室から十分離れたところで、足取りが急に荒くなる。面倒を覚悟で、わざわざ二つ上の人々の巣窟に足を踏み込んだ結果がこれである。ちょっとくらいやさぐれたって、バチは当たらない。
そのまま歩いていると、ふと嗅いだことのある香りが鼻をついた。何だっけ、この匂い…と考えること、ひと呼吸分。そうだ、生徒会長の匂いだ、と気がついて、慌てて辺りを目玉だけ動かして確認する。もしかしてさっきのやりとりを見ていたことに気がついて、追いかけてきた? いやいや、まさかそんな。いやでも…とひとりで百面相をしていると、ふと手に握りしめたくしゃくしゃになったネクタイの存在に気がついた。
…そっか、このネクタイについた匂いか、と納得した瞬間、すとんとそのことが腑に落ちたと同時に、なぜか少しだけ、気分も下がる。
そのまま手に持っているとさすがに無くしてしまいそうなので、むしゃくしゃしながらカバンのファスナーの隙間に突っ込んだ。
こっちだってこんなところに1秒たりとて存在していたくないけれど、生徒会長のクラスを知らないのだから、しょうがない。悪友は知っていたかもしれないが、着いて来てほしいと頼んだら、露骨に嫌な顔をして逃げ帰っていった。あいつ、許さない。
何となく居心地が悪いし、かといってじっと立っているとますます居心地は悪くなる一方なので、ひとまずこの階の廊下を何となくウロウロと彷徨い続ける。こうやって移動中の雰囲気を醸し出せば、少しは不審者感が薄れる、はず。
そもそも人のいるところにいなければ、お目当ての人は見つからないとはわかっていても、やっぱり何となく居づらくて、足は自然と外れへと向かう。授業でも滅多に使わない、空き教室が並んでいる端っこは、通る人なんて誰もおらず、静かだった。
多くの目線が外れたことに安堵して、窓の外を見ながら何となく廊下の一番端っこに向かって歩いていると、ふと誰も使っていないはずの空き教室から話し声が聞こえる。こんな空き教室から声が聞こえてくるなんて、どう転んでもろくな事態が発生していないとわかってはいても、好奇心に負けて、ついついドアの隙間から教室を覗いてしまう。人間なんてみんなだいたい一緒なのだ。
放課後の空き教室という、夢と妄想とが詰め込まれたようなその空間には、二人の学生の姿があった。ひとりはドアに背中を向けた、黒髪を高い位置でひとつ結びにしているスカートを履いた生徒。そしてもうひとりは、こちら側を向いている、あの生徒会長。
「伊佐野さん、あの」
「昨日はありがとう。今日の会議も、よろしく」
今まで俺にかけたこともないような猫撫で声で、しかもタメ口で、しかも俺に見せたこともないような綺麗な笑顔で、そうのたまった生徒会長は、話し相手に一歩近づくと、手を伸ばし、髪の毛のひと房を優雅に耳にかけてあげていた。そしてそのまま、耳たぶに細長い指を絡ませると、それに合わせてポニーテールがふるりと動く。
「いつもきちんと仕事をしてくれて、助かってるよ」
そう言って、今度は反対側の耳たぶを薄い唇で食んでいる。にわかに教室内に満ちた甘くて濃い雰囲気が、僅かに開けられたドアの隙間から、廊下に漏れ出してくるような気がした。思わず眉根に力が入る。やってらんない。ネクタイを返すのは、もう明日にしよう。
なぜだか猛烈に腹が立ってきて、二人のいた空き教室から十分離れたところで、足取りが急に荒くなる。面倒を覚悟で、わざわざ二つ上の人々の巣窟に足を踏み込んだ結果がこれである。ちょっとくらいやさぐれたって、バチは当たらない。
そのまま歩いていると、ふと嗅いだことのある香りが鼻をついた。何だっけ、この匂い…と考えること、ひと呼吸分。そうだ、生徒会長の匂いだ、と気がついて、慌てて辺りを目玉だけ動かして確認する。もしかしてさっきのやりとりを見ていたことに気がついて、追いかけてきた? いやいや、まさかそんな。いやでも…とひとりで百面相をしていると、ふと手に握りしめたくしゃくしゃになったネクタイの存在に気がついた。
…そっか、このネクタイについた匂いか、と納得した瞬間、すとんとそのことが腑に落ちたと同時に、なぜか少しだけ、気分も下がる。
そのまま手に持っているとさすがに無くしてしまいそうなので、むしゃくしゃしながらカバンのファスナーの隙間に突っ込んだ。
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