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〈掌編・番外編〉
7. 海キャンプに行こう 2
しおりを挟む海ダンジョンに潜るには、南の砦を出た先にある浮き島を経由する。
一日に二度、干潮の際だけに姿を表す砂の小道を通り、辿り着いた先の美しい島。
砂浜と豊かな森ーージャングルが広がっており、ダンジョンへの転移扉は深い森を進んだ先の、島の中央部に設置されていた。
「いつもは真っ直ぐ転移扉を目指していたけれど、今日の目的はダンジョンじゃないから」
ダンジョンへの入り口を目指してジャングルを突っ切る冒険者たちの列の最後尾をナギとエドはのんびりと歩いている。
転移扉はグループごとに固まって発動するため、待ち時間は意外と少ない。
エドが念入りに周囲の気配を探り、人の気配が無いことを確認すると、二人はそのまま転移扉を通り越して、さらにジャングルの奥深くに足を踏み入れた。
「ナギ、アキラが代わりたいと伝えてきた。交代するぞ」
「え? もう?」
慌てて振り返った時には、既にエドの姿はない。真っ黒の服の山から仔狼がぷはっと頭を出した。
邪魔な衣服や装備を手早く前脚に嵌めたバングルに収納すると、仔狼はふるふると身震いして、元の巨体へと変化する。
『センパイ、時短ですよ! 俺の背中に乗ってください!』
「いいけど、あんまり飛ばさないでね?」
『了解です! しっかり掴まっていて下さいね』
大森林内のような長距離を駆け抜けるわけではないので、今回は鞍は装着しない。
騎乗しやすいようにしゃがんでくれた黒狼の背によじ登り、ふさふさの首元の毛をぎゅっと握り締める。
「いいよ。ゆっくりとね?」
『はーい!』
上機嫌で返事をすると、黒狼はジャングルの中を駆けていく。スピードは落としてくれているようだが、ナギが歩くよりも、かなり早く到着しそうだ。
「うん、早くて快適!」
『でしょう? ウルフ便いつでも使ってくださいねー!』
自分の脚で駆けることが出来て、アキラも気持ち良さそうだ。
ナギもツーリング気分で頬に当たる風や過ぎる景色を楽しむことにした。
南の砦から続く小道とは反対側、こちらは誰も足を踏み入れないのである意味宝の山状態で。
「わぁ……! 稀少な薬草がたくさんある! それに果物もいっぱい。魔獣は殆どいないみたいね」
『ダンジョンの外だからか、この島にいるのは殆ど普通の動物みたいですねー』
鼻の効くアキラにはお見通しらしい。
島には大人しそうな猿、鮮やかな色合いのオウムの姿は良く目にしたが、魔獣との遭遇はなかった。
ちなみにカラフルな色合いの蛇はそれなりの数がいたが、どれもナギが悲鳴を上げる前に全てアキラが氷の魔法で仕留めている。
「拠点を構えたら、果物狩りもしたいな」
『いいですね! アレ作りましょう、リゾートっぽいトロピカルジュース!』
「いいね、それ」
本当はトロピカルなカクテルを楽しみたいところだが、未成年なので我慢だ。
五年後が心底待ち遠しい。
『到着ー! センパイ、島の裏側ですよー!』
「おお、予想以上の絶景! オーシャンビュー!」
身軽く黒狼の背から飛び降りて、ナギは裸足で砂浜の感触を楽しんだ。
さくさく歩きながら周囲をぐるりと見渡す。砂浜はゴミひとつ落ちていない、綺麗な白砂だ。立派な椰子の木がそこかしこに根を張っているため、拠点としても快適そう。
「ふふっ。やっぱり、この島はリゾートに向いているよね? 初めて目にした時からバカンスにちょうど良さそうな綺麗な島だと思っていたのよ」
海ダンジョン内にも綺麗な景色を楽しめるフロアは幾つかあったが、どこも魔獣や魔物で溢れている。
結界の魔道具はあるし、魔獣は余裕で倒せるが、それだと普通にダンジョンアタックの野営になり、バカンスにはならない。
「その点、この場所ならダンジョンじゃないから、そうそう魔獣は現れないし、何よりも最高のビーチが目の前にある!」
我ながら素晴らしいチョイスでは?
悦に入っているナギをよそに、アキラはまるで犬のように砂浜を駆け回って遊んでいる。うん、デカいけど、かわいい。
ビーチは大きな黒狼が余裕で駆け回れるほどの広さがあり、左右をちょうど大きな岩が塞いでいる。
ちょっとした崖になっているため、余程の物好きでなければ、わざわざ崖を抜けて来ようとする者はいないはず。
(冒険者も目当てはダンジョンだし、わざわざ島の反対側まで来る人はいないよね。私たちみたいに)
おかげで、この美しい風景は自分たちで独占が出来る。プライベートビーチ状態だ。
浮き立つ心をどうにか抑えて、ナギは【無限収納】内から荷物を取り出していく。
『センパイ、俺も手伝いますよー! 拠点作り!』
「んー、ありがたいけど、こっちは私が設置するから果物を採って来てくれる?」
『! 了解です! トロピカルジュース!』
キャン、と一声吼えると、アキラはジャングルに突進していった。
「今回は三泊四日のキャンプ。遊ぶことが目的だから、快適に過ごせるように拠点を作りたいわね」
快適に、ということならば収納してあるコテージを取り出せば済む話だが、アキラの望みはキャンプなのだ。
コテージ設置は先に拒否されていたので、おとなしくテントを取り出した。
「とりあえず、辺境伯邸から貰って来た中でもいちばん立派な魔道テントを設置!」
これは辺境伯である父がおそらくは作戦本部として使っていたのだろう。一際大きくて立派なテントだ。外観は前世で見たモンゴルのゲルテントに似ている。
さすがにワンタッチ方式の組み立ては不可能で、エドと二人でせっせと組み立てておいた物だ。
組み立てた状態で収納したため、場所を決めて設置するだけ。一時間近くかかった組み立て作業を繰り返さないで済むのだから、収納スキルは本当に便利だ。
「ゲルテントの中は十五畳くらいあるから、入り口から奥にベッドを設置」
取り出したのは客室用のダブルベッドを二つ。並べて置いてみる。シーツは新品、南国仕様のタオルケットは肌触りがとても良い。
「あとは、ベッドサイドテーブル。着替えがすぐに出来るように小さめのクローゼットかな」
テントの中央部分には支柱があるので、そこを避けて家具を出していく。
ソファセットとダイニングテーブルのセットは必須だ。
調理は外でするとしても、テント内でもお茶やお菓子は楽しみたいので作業用のテーブルと卓上サイズの魔道コンロも設置した。
当然、その隣には魔道冷蔵庫と魔道冷凍庫も忘れずに。
「水魔法は使えるけれど、水甕の魔道具も置いておこうかな」
浄化魔法で手は綺麗にできるが、冷たい水に直に触れる心地よさはまた別なので。
「バスルームとトイレもそれぞれ別のテントを用意しましょう」
今回はダンジョンでの野営ではないので、場所を取っても誰にも文句は言われない。
落ち着いて風呂やトイレを使いたいので、小さめの魔道テントをそれぞれの用途別に設置した。
「バスルームにはちゃんとお風呂セットと着替えを入れたワゴンも置いたし、トイレも完璧! あとはタープを設置して簡易キッチンを作れば良いかな?」
のんびりと海を眺めながら、テーブルや魔道コンロなどを取り出していると、嬉々として採取に出掛けていたアキラが戻ってきた。
『センパイ、果物とってきましたよー!』
「おかえりー。バングルの中かな?」
『はい、出しますね!』
テーブルの上に色とりどりのフルーツがどっさりと載せられた。椰子の実にパイナップルにバナナ、オレンジ、マンゴー。
短時間でこれほど集めてこれたのは素直にすごいと思った。
「たくさんありがとう。じゃあ、さっそくトロピカルフルーツジュースを作っちゃおうか」
『やったー!』
手伝います! とアキラは率先して簡易キッチンに入ってくる。
巨体が邪魔になるのは理解しているらしく、ちゃんと小型化スキルを使い、ポメラニアン体型の仔狼に変化して。
「えっ、大丈夫……?」
『大丈夫です! フルーツは俺が切ります!』
「えええっ?」
その可愛らしいあんよでどうやって? と焦ったが、仔狼は器用に氷魔法を扱い、氷の刃でさくさくとフルーツを刻んでくれた。超有能!
「ベースはパイナップル果汁で炭酸水と混ぜて、と」
ちなみに炭酸水はエドと二人で作った。
ナギは作り方を知らなかったのだが、サバイバル動画を良く見ていたアキラの記憶から「松葉と砂糖と水で炭酸が作れる」と知り、試しに作ってみたのだ。
松の木は海ダンジョンの海岸沿いで見かけていたので、素材はすぐに揃えられた。
松葉は浄化で綺麗にして、砂糖水と共に瓶詰めして日向に一日置いておく。
これだけの作業で不安だったけれど、翌日しっかり発酵しており、炭酸水は完成していた。
「ちょっと松葉の独特な香りはするけど、果汁と混ぜれば気にならない!」
アキラに作ってもらった氷を投入し、マドラーで丁寧に混ぜる。あとはカットしたフルーツを見栄え良く飾るだけ。
オレンジをグラスの縁に飾り、カットしたマンゴーはジュースに投入! パイナップルも飾り切りした。
「こっちのグラスはエド用だね。アキラにはボウル型の器が飲みやすいかな?」
椰子の木の陰に置いた、ラタン製の椅子に座り、トロピカルフルーツジュースを堪能する。久々の炭酸ジュースはとても美味しい。
アキラも気に入ったらしく、忙しなく尻尾を振りながらジュースを舐めている。
「うん、三泊四日の海キャンプ、心置きなく楽しめそうね」
青い空と白い雲、寄せては返す美しい白波を独占した、このプライベートビーチでのバカンスがこうして始まった。
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