【書籍化】魔法のトランクと異世界暮らし〜魔女見習いの自由気ままな移住生活〜

猫野美羽

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167. セオの提案

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 日本での滞在は二泊三日。
 体調を崩すことなく、リリが楽しく過ごせたのは、ぴったりと影のように張り付いていたルーファスのおかげだ。
 ドラゴンである彼は膨大な魔素の塊のような存在で、近くにいるだけで魔力が回復していくのが分かる。
 疲れたな、とリリがぼんやり考えるや否や、膝の上に抱え上げられるので、回復も早い。
 従兄たちは可愛がっている妹分に対するルーファスの態度に思うところはあったようだが、リリが日本に滞在するには必要な行為であることは熟知していたので、とても複雑そうだった。

 ともあれ、雑貨店『紫苑シオン』の初めての社員旅行は、皆に大好評のまま最終日となったのである。


◆◇◆


 伯父宅では、料理長が腕をふるった魔獣肉料理が振る舞われ、日本組異世界組どちらも舌鼓を打った。
 日中は観光とショッピングを存分に楽しみ、大量の荷物を収納魔法で持ち帰ることに。

 帰宅の準備をしていると、すっかり皆を気に入った伯母が名残り惜しそうに嘆息する。

「また、遊びに来てちょうだい。リリちゃんの異世界での活躍を聞きたいわ」
「うむ。そういうことなら、この俺が詳しく教えてやろう」
「うふふ。ルーファスちゃんにはリリちゃんがたくさんお世話になっているわね。ありがとう」
『ボクもお世話しているよ?』

 ニャーと不満そうに訴える黒猫に気付いた伯母がくすりと笑う。
 言葉は通じないはずだが、何を言いたいのか、何となく分かったようだ。
 その場にしゃがむと、そっとナイトの艶やかな漆黒の毛並みを撫でてくれた。

「ナイトちゃんにもお世話になっているわよね。リリちゃんを癒してくれて、ありがとう。また、いつでもうちに遊びに来ていいのよ?」
『キミはシオンさまの子孫じゃないけれど、リリに優しくしてくれるから、嫌いじゃない。リリと一緒にまた来てあげよう』

 ニンゲン嫌いの黒猫の『嫌いじゃない』は、『気に入った』と同義。
 大切な家族を、ナイトが認めてくれたことをリリは嬉しく思った。

 従兄たちも賑やかな三日間を満喫していたので、名残惜しんでくれた。
 クロエたちのことを妹や弟扱いしているが、彼らの実年齢を伝えたら、どんな反応が返ってくるのか、楽しみだ。

 ちなみに伯父は、クロエたちに「シオンさまの初孫!」となぜか、とても可愛がられており、苦笑していた。
 大魔女シオンの使い魔だった彼らにとっては、リリや従兄たちは『曾孫』、伯父は『初孫』という、可愛がる対象なのかもしれない。

 伯母たちに別れを告げて、ルーファスによるドラゴンタクシーで『魔女の家』までひとっ飛び。
 軽ワゴンではなく、キャンピングカーを抱えて飛ぶのは大変ではないかと心配していたが、重さは気にならなかったようだ。
 空間属性系の魔法を使えるドラゴンにとっては、重力操作も軽々と行えるものらしい。


 そんなわけで、三日間留守をしていたジェイドの街へと帰宅した。

「たくさん買い物をしたので、片付けが大変ですわ!」

 大変と言いつつ、クロエは満面の笑み。お洒落をこよなく愛している彼女にとっては、片付けも幸せな時間なのだ。
 ネージュは片付けが面倒だと、ごっそり収納魔法に放り込んでいる。
 日本のゲームセンターで獲得した、大きなクマのぬいぐるみだけはベッドの上に大切そうに並べていた。

 今回の滞在では懐の暖かいスポンサーがいたため、心置きなく買い物ができたので、お土産が大量にある。

 白黒双子姉妹は日本の服や化粧品、可愛い雑貨類に目を輝かせていたし、セオはゲームに興味を示していた。
 トランプやタロットなどのカードゲームはもちろん、ボードゲームも瑠海ルカにねだって買ってもらったのだ。
 瑠海ルカもレトロゲームを趣味にしていたので、セオと盛り上がっていたようだった。

「リバーシとジェンガなら、ルールもそう難しくないし、向こうの世界でも流行りそうじゃないです?」

 目を輝かせて、雑貨店『紫苑』の新商品にどうだろうかと提案してくるセオ。

「異世界でリバーシを流行らせるライトノベルがありましたね、そういえば」
「へぇ、面白そうですね。僕も読んでみたいです!」
「あとで貸してあげますね。……それで、リバーシやジェンガの販売についてですが、うちは女の子のための雑貨店なので、ちょっと難しいと思います」
「う……やっぱり難しいですよねー」

 肩を落とすセオが可哀想に思えて、リリは思案する。

「うちでは無理でも、他で売ればいいのでは?」
「え、他……? というと……」
「セオは自分が気に入ったゲームをこの世界でも流行らせて、皆と遊びたいんですよね?」
「まぁ、そうですね。一人だとつまらないので、どうせなら」
「流行を作るなら、やはり王都がいちばん。ここは、ヴェローナ侯爵家にお願いするのが最適だと思います」

 雑貨店『紫苑』の王都店の経営を丸投げおねがいしている、ローザの実家。
 王都店の売上げは順調で、リリは仕入れた商品を倉庫に運び込むだけで、かなりの金額を毎月手に入れている。
 商業ギルドの口座は確認するたびに残額が膨れ上がっており、嬉しい悲鳴を上げていた。

「侯爵家の皆さまは社交も商売もお得意です。コネもツテもたくさんあることですし、日本のゲームを持ち込んで相談してみましょう」
「うむ。それがいいな。リリィが主導すると、今以上に忙しくなってしまう」
『それはダメだね。リリは『すろーらいふ』がしたいんだろ? なら、面倒なことは他のニンゲンに任せたらいいさ』

 にこにこと微笑みながら、ルーファスとナイトも頷いてくれた。

「雑貨店『紫苑』ではなく、侯爵家に新しくゲームを取り扱うお店を作ってもらい、そこで販売させるのですね。さすが、リリさま。すばらしい判断力ですわ」
「ん、にほんのゲーム、売れると思う」

 セオだけが「いいのかなぁ……?」と不安そうな顔をしていたが、ゲームが普及すること自体は楽しみなようだ。

「まずは定番のリバーシを売り込みましょうか」

 トランプは似たようなカードゲームがあったので、あとはジェンガだろうか。

「リリさま、タロットカードは人気が出ると思う」

 ネージュが服の袖を引いて、小声で訴えてきた。彼女から積極的になるのは珍しい。

「タロットカードが、ですか? そんなに珍しいかしら」

 カードゲームがあるなら、なんとなくタロットに似たものがあると思ったのだが。

「占いができるカードなんて、すごいもの、こっちにはない」
「そうなのです?」

 それは意外だった。
 ファンタジーな世界なので、なんとなく魔女が水晶玉やカードで占ってくれそうなイメージがあったのだが。

「呪術師が似たようなことはしますが、使うのは魔力を帯びた魔物素材ですから、美しくありません」

 苦々しそうな表情でクロエが言う。
 魔物の骨などを使って、吉兆を占うらしい。大昔に大陸から伝わった、亀の甲羅を使った占いのようなものなのだろうか。
 たしかに、それは美しいとは言い難い。

「その点、タロットカードに描かれた絵は精緻で美しいので、きっと女性に人気が出ますわよ。恋を占うなんて、女の子が好きそうですもの」
「……なるほど。タロットカードは雑貨店『紫苑』でも扱えそうですね。可愛いイラスト入りのものを探して、遊び方のルールブックを付けて売り出すと面白そうです」

 ちょうど明日は、王都への納品日。
 リバーシとタロットカードについては、ローザに相談してみることにした。


◆◆◆

更新、お待たせしました!

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◆◆◆

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