【完結】生意気でごめん、先輩

傘福えにし

文字の大きさ
58 / 71
嫉妬ですか

58

しおりを挟む




「なんでそんな影の薄いところにいるんですか、やっぱ立ってるだけで声かけられるの嫌だからですか?隠れみの術ってやつ?」

「うるさい」

軽く額を小突かれる。先に歩き始めた綴先輩の横に走って並んだ。

「今日俺の家来ますよね」

「勉強な」

「…分かってますよ」

少し口を尖らしてそう言う。分かってるし、綴先輩は受験生だから、あんまり俺のわがままを押し付けてはダメだ。でも、でもさ、やっぱり恋人になったわけだし。綴先輩の片手が視界に入る。
まあ、誰が見てるか分かんないもんな。

触れるか触れないかくらいの距離で俺は、自分の指先を手のひらの中に隠す。我慢、我慢。

「最近ちょっと肌寒くなりましたよね」

「…ああ」

「綴先輩寒がりですか」

「暑いより寒い方がいいかな」

「ああ、綴先輩って冬って感じするかも。常にひゅおおって周りに冷気漂ってますもんね」

「褒めてないな」

「クールってことっすよ、いい意味です」

「あっそう」

他愛もない話をして、あっという間に俺の家についた。玄関の扉をあけて「どうぞ」なんて。なんか自分の家に帰ってきたのに妙に緊張するのは、綴先輩がいるからで、そんでもって、関係が変わったからだろうか。

「今日、兄貴は友達と出かけてて」

家には誰もいませんって、まあ、だからなんだって話なんだけど、だからなんだって話なんだけどっ!

「…お邪魔します」

丁寧に靴を揃えて家に上がった綴先輩。一度家に来たことはあるが、自分の部屋にいれるのは初めてだ。
そんでもって昨日めちゃくちゃ掃除した。

綴先輩が部屋に入って静かに鞄を下ろす。
そして部屋を見渡した。綺麗にしたとはいえやっぱりどう思われているかは気になる。そして、相変わらず綴先輩の表情はそう簡単に感情を教えてはくれない。

「そこらへん、適当に座っててください」

「ああ、ありがとう」

自分の部屋に綴先輩がいる、好きな人がいる、恋人がいる。
それだけで妙に緊張した。絶対こんな感じになっているの俺だけだ、綴先輩余裕そう。
ぎこちなく、「飲み物とってきます」と一度部屋を出る。

「まあ、勉強だもんな、勉強」

そんな独り言を呟きながら冷蔵庫から飲み物を出してコップに注ぐ。
台所からテレビがある方の空間を視界に入れた。
ああ、そういえば綴先輩と初めてまともに話した時、俺クソ生意気だったな、今もだけど。
なんて、そんなことを思い出して小さく笑った。

「…よく俺のこと好きになったよな、ほんと」

そんなことを呟きながら、コップに注がれたお茶を持って部屋に戻れば綴先輩はすでにテーブルに勉強道具を広げていた。

ぶれないな、この人。

「ありがとう」

「冷たいのが好みだろうと思って、氷死ぬほどいれました」

「ふっ、生意気」

笑った、はい好き。

こんなことでキュンとなってるのも俺だけだ畜生。
俺もテーブルの上に問題集やら教科書やらひとまず置いた。そして広げることはなく、頬杖をついて綴先輩を見つめる。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで

中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。 かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。 監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。 だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。 「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」 「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」 生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし… しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…? 冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。 そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。 ──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。 堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートなど、本当にありがとうございます! ひとつひとつが心から嬉しいです( ; ; ) ✩友人たちからドライと言われる攻め(でも受けにはべったり) × 顔がコンプレックスで前髪で隠す受け✩ スカウトをきっかけに、KEYという芸名でモデルをしている高校生の望月希色。華やかな仕事だが実は顔がコンプレックス。学校では前髪で顔を隠し、仕事のこともバレることなく過ごしている。 そんな希色の癒しはコーヒーショップに行くこと。そこで働く男性店員に憧れを抱き、密かに推している。 高二になった春。新しい教室に行くと、隣の席になんと推し店員がやってきた。客だとは明かせないまま彼と友達になり――

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】通学路ですれ違う君は、俺の恋しい人

BL
 毎朝、通学路ですれ違う他校の男子同士。初めは気にも留めなかったのだが、ちょっとしたきっかけで話す事に。進学校優秀腹黒男子 高梨流水(たかなし りう)とバスケ男子 柳 来冬(やなぎ らいと)。意外と気が合い、友達になっていく。そして……。 ■完結済(予約投稿済です)。 月末まで毎日更新。

処理中です...