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本編
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シャワーから上がってソファに腰かける。
照明をつけずに真っ暗な部屋の中から夜景を眺めているとなぜだか頬に涙がしたたり落ちてきた。
「っふぅ」
そうしてしばらく一人で涙をこぼしていた海野の背中になにか暖かいものが触れた。
「どうしたんだ、海野くん」
海野の背に触れたのは神山の手のひらだった。
「しゃちょ…」
海野は神山が帰宅していたことに全く気が付かなかった。
海野が涙は止めようと思えば思うほどあふれ出てくる。
止め方が全くわからなくなってしまった。
「すまない、君をそんなに追い込んでいたなんて気が付かなかったよ」
神山が海野の前に回り込むと頬に手を寄せて涙をぬぐった。
そして膝の上で握りしめられた海野の握りこぶしをゆっくりとほどいて体温を移すかのように冷たい海野の手を上から包み込んだ。
「そんな、俺のせいで、企画が」
しゃくりあげながら言葉少なに海野はなんとか言葉を紡いだ。
伝わっているかはわからない。
しかし神山は何度もうなずいて相槌をうってくれた。
「海野くんのせいじゃないよ、大丈夫、大丈夫だよ」
次第に涙は止まり海野の呼吸は整った。
神山はその間もずっと手を包んでいてくれている。
「でも、前の事務所の社長が盗聴したって」
海野は思い出したくもない言葉を思い出して青ざめた。
「盗聴だなんてそんなドラマみたいなこと起きてないよ。きっとそれはその人の強がりから出た妄言だよ」
「妄言…」
「そう、勝手に言っているだけだと思いなさい。ウチの情報を漏らした社員は厳重に処罰したから」
神山に諭されながら徐々に正気を取り戻した海野は急に恥ずかしくなった。
いい年の大人がボロボロと泣いてしまった上に慰めてもらうだなんて。
「あの、その、手が」
未だに体温を分け合っている手に視線を向ける。
神山は手を握ったままにこりと笑うとその手を離なかった。
手を繋いだまま海野の隣に腰かける。
そして海野の身体を自身のほうに引き寄せるとヒシっと音がするくらい背中に手を回して抱きしめたのだ。
「社長?」
海野は急に手を離され抱きしめられて戸惑っていた。
「海野くん、こちらこそ君を巻き込んでこんなに傷つけてしまった。本当に申し訳ない」
耳元でささやかれた神山の声に海野は抱きしめられたまま目を見開いた。
「しゃ、ちょう」
止まったはずの涙が神山の体温に溶かされて再び流れ落ちてくる。
「忙しいのを理由に君に我慢させすぎたみたいだ。大人だって泣いたっていいんだよ」
神山の言葉が海野の心の傷に薬のように浸み込んでくる。
ポンポンと一定のリズムで背中を叩かれて海野は縋りつくように神山の背に手を伸ばして肩口に顔をうずめた。
お互いの体温が先ほどよりも広い面積で交じり合う。
神山の高級な香水な匂いが鼻をくすぐった。
「落ち着いたかな」
神山が腕の力を弱めると海野も神山の肩から顔をあげた。
二人の視線が交じり合う。
沈黙が一拍。
何かの引力に負けて二人の唇が触れた。
それはそっと柔らかく微かなふれあいだった。
即座に離れてまた触れる。
何度か繰り返すうちに徐々に触れ合う力が強まる。
二人を邪魔するものはいない。
そして離れたはずの腕に力がこもりお互いがお互いの身体を抱き寄せる。
「すまない」
ふれあいが落ち着きお互いが我に返った時だった。
ポツリと神山がこぼした。
海野は首を横に振る。
「ありがとう、ございます」
二人はお互いに考えていた。
今起こったこの出来事をなしにするべきなのだろうか。
二人がこれから先、共に暮らしていく中で避けられないことだから。
「…とりあえず風呂に入ってくるよ。上がってから改めて話をしよう」
「はい」
神山は床に落としていたカバンと上着を拾い上げると浴室に足早に向かっていく。
海野はその背中を眺めていた。
姿が見えなくなるとズリズリとソファから床に降りると膝を曲げて体育座りをした。
自身の膝に顔を埋めると先ほどのことを思い返す。
「どうすれば、いいんだろ」
海野自身、自分は異性愛者だと自覚していた。
しかし先ほどの神山との触れ合いに一切の嫌悪感はなかった。
それどころか口づけに積極的に答えているのだ。
「俺、もしかして…」
それは初めての気づきであった。
…
一方の神山は洗面所でうなだれていた。
「くっそ、あんなことするつもりでは」
ただ慰めたいだけだったのだ。
海野に恋愛感情を抱いていたのは正直、初めて会った時からだった。
神山は恋愛に性別は関係ない人間である。
このプロジェクトが成功したら正式に告白しようと思っていたもののプロジェクトは見事に失敗。
その対応に追われて海野のフォローができずに追い込んでしまった自分が不甲斐なかった。
脱衣所で衣服を脱いで頭からシャワーの水をかぶる。
「はぁ、全く何してるんだよ俺は…」
照明をつけずに真っ暗な部屋の中から夜景を眺めているとなぜだか頬に涙がしたたり落ちてきた。
「っふぅ」
そうしてしばらく一人で涙をこぼしていた海野の背中になにか暖かいものが触れた。
「どうしたんだ、海野くん」
海野の背に触れたのは神山の手のひらだった。
「しゃちょ…」
海野は神山が帰宅していたことに全く気が付かなかった。
海野が涙は止めようと思えば思うほどあふれ出てくる。
止め方が全くわからなくなってしまった。
「すまない、君をそんなに追い込んでいたなんて気が付かなかったよ」
神山が海野の前に回り込むと頬に手を寄せて涙をぬぐった。
そして膝の上で握りしめられた海野の握りこぶしをゆっくりとほどいて体温を移すかのように冷たい海野の手を上から包み込んだ。
「そんな、俺のせいで、企画が」
しゃくりあげながら言葉少なに海野はなんとか言葉を紡いだ。
伝わっているかはわからない。
しかし神山は何度もうなずいて相槌をうってくれた。
「海野くんのせいじゃないよ、大丈夫、大丈夫だよ」
次第に涙は止まり海野の呼吸は整った。
神山はその間もずっと手を包んでいてくれている。
「でも、前の事務所の社長が盗聴したって」
海野は思い出したくもない言葉を思い出して青ざめた。
「盗聴だなんてそんなドラマみたいなこと起きてないよ。きっとそれはその人の強がりから出た妄言だよ」
「妄言…」
「そう、勝手に言っているだけだと思いなさい。ウチの情報を漏らした社員は厳重に処罰したから」
神山に諭されながら徐々に正気を取り戻した海野は急に恥ずかしくなった。
いい年の大人がボロボロと泣いてしまった上に慰めてもらうだなんて。
「あの、その、手が」
未だに体温を分け合っている手に視線を向ける。
神山は手を握ったままにこりと笑うとその手を離なかった。
手を繋いだまま海野の隣に腰かける。
そして海野の身体を自身のほうに引き寄せるとヒシっと音がするくらい背中に手を回して抱きしめたのだ。
「社長?」
海野は急に手を離され抱きしめられて戸惑っていた。
「海野くん、こちらこそ君を巻き込んでこんなに傷つけてしまった。本当に申し訳ない」
耳元でささやかれた神山の声に海野は抱きしめられたまま目を見開いた。
「しゃ、ちょう」
止まったはずの涙が神山の体温に溶かされて再び流れ落ちてくる。
「忙しいのを理由に君に我慢させすぎたみたいだ。大人だって泣いたっていいんだよ」
神山の言葉が海野の心の傷に薬のように浸み込んでくる。
ポンポンと一定のリズムで背中を叩かれて海野は縋りつくように神山の背に手を伸ばして肩口に顔をうずめた。
お互いの体温が先ほどよりも広い面積で交じり合う。
神山の高級な香水な匂いが鼻をくすぐった。
「落ち着いたかな」
神山が腕の力を弱めると海野も神山の肩から顔をあげた。
二人の視線が交じり合う。
沈黙が一拍。
何かの引力に負けて二人の唇が触れた。
それはそっと柔らかく微かなふれあいだった。
即座に離れてまた触れる。
何度か繰り返すうちに徐々に触れ合う力が強まる。
二人を邪魔するものはいない。
そして離れたはずの腕に力がこもりお互いがお互いの身体を抱き寄せる。
「すまない」
ふれあいが落ち着きお互いが我に返った時だった。
ポツリと神山がこぼした。
海野は首を横に振る。
「ありがとう、ございます」
二人はお互いに考えていた。
今起こったこの出来事をなしにするべきなのだろうか。
二人がこれから先、共に暮らしていく中で避けられないことだから。
「…とりあえず風呂に入ってくるよ。上がってから改めて話をしよう」
「はい」
神山は床に落としていたカバンと上着を拾い上げると浴室に足早に向かっていく。
海野はその背中を眺めていた。
姿が見えなくなるとズリズリとソファから床に降りると膝を曲げて体育座りをした。
自身の膝に顔を埋めると先ほどのことを思い返す。
「どうすれば、いいんだろ」
海野自身、自分は異性愛者だと自覚していた。
しかし先ほどの神山との触れ合いに一切の嫌悪感はなかった。
それどころか口づけに積極的に答えているのだ。
「俺、もしかして…」
それは初めての気づきであった。
…
一方の神山は洗面所でうなだれていた。
「くっそ、あんなことするつもりでは」
ただ慰めたいだけだったのだ。
海野に恋愛感情を抱いていたのは正直、初めて会った時からだった。
神山は恋愛に性別は関係ない人間である。
このプロジェクトが成功したら正式に告白しようと思っていたもののプロジェクトは見事に失敗。
その対応に追われて海野のフォローができずに追い込んでしまった自分が不甲斐なかった。
脱衣所で衣服を脱いで頭からシャワーの水をかぶる。
「はぁ、全く何してるんだよ俺は…」
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