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第15話 女の敵のインキュバス
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オウマ君とホレスの顔合わせを終えた後、ホレスにこれまでの経緯を説明する。オウマ君の抱えている事情や我が家への依頼の件など、普通ならとても信じられないようなことが満載だったけど、それを笑わず聞いてくれるのが、ホレスだった。
いや、正確に言うと笑ってはいたか。
「ヒャッホー! なんだよその話、インキュバスに会えただけじゃなく、そんな楽しい依頼を受けたってのかよ。シアンよくぞ俺を誘ってくれた。さーて、まずはどうしてくれようか?」
「はいはい、嬉しいのはわかったから落ち着いて」
……まあ、こんな感じで大喜びしていたわけだ。オウマ君はそれを見ながらなんだか不安そうな顔をしていたけど、オカルトに関わると変なスイッチが入ってしまうのがホレスだから、これはもう諦めてもらうしかない。
それから、ひとまず三人で私の家へと行くことになる。これ以上の話は、資料もたっぷりある我が家の物置の方がいいという判断だ。
家に帰ると、まずジェシカに、二人が来たことを伝えておく。
「私達、今から物置に行くけど、お茶とか挨拶とかは一切いらないから」
「かしこまりました。例の、インキュバスの力を封じて欲しいと依頼されたオウマ様に対する配慮のためですね」
「そう。女の人が自分を見たらまた魅了させるだろうって気にしてたから、絶対に顔を出さないでね」
ジェシカにも、オウマ君の事情と依頼の件は全て話してある。なるべく人には話さないでほしいとは言われているけど、ジェシカは口が固いし、使用人の少ない我が家にとっては家族のような存在だ。隠しておくのは無理があるし、言っても問題ないだろう。
「ですがオウマ様は、インキュバスの力を抜きにしてもお顔はイケメンなのですよね。それなら私は、例え魅了されても一切困らないのですが。と言うか、イケメンならそれだけで、大いに魅了される自信がありますし、ましてやホレス様とのツーショットが拝めるとなると、むしろ魅了なんてドンとこいです」
そう言えば、ジェシカが言うにはホレスもイケメン枠だっけ。イケメン単体はもちろん、イケメン同士の絡みも尊いって前に言ってたけど、ここで彼女の望みを聞き入れるわけにはいかない。
「ジェシカはそれでいいかもしれないけど、オウマ君は気にするから」
ジェシカのイケメン好きは筋金入りだ。言い聞かせた後もまだ、「ああ、イケメンを見たかった」などと残念そうに言っていた。
ともあれ、そんなジェシカを置いて玄関先に向かうと、そこには待たせていたオウマ君の姿がある。ただ、ホレスの姿はなかった。
「ごめん。ホレス先輩、先に物置行っとくって、止めるのも聞かずに勝手に入って行っちゃった」
「ホレスらしいわ。よくあることだから気にしないで」
「よくあるのか……」
驚いたような、呆れたような顔をするオウマ君を連れ物置に行くと、ホレスは既に中にある本や資料を物色している最中だった。
「なあシアン、もしかして本の場所動かしてたりする? 前に来た時と、微妙に置いてある位置が違うんだけど」
勝手に入って物色しているのを謝る気配もなく、そんなことを言ってくる。
「昨日私もいつくか見たからね。元の場所に戻そうにも、あちこち散らかってて全然わかんないよ。少しは整理してよね」
「いいんだよ、俺にはわかるんだから。今回みたいなことでもなけりゃ、俺以外誰も見ないだろ。だったら、俺さえ覚えていたら問題ない。それより、わかる限りでインキュバス関連の資料いくつか抜き取っておいたぞ」
こんな乱雑に散らばっている中、どこに何があるのか覚えているのは、さすが天才と言われるだけのことはある。あとは片付けさえ覚えてくれたら尚良かったんだけどね。
だけどホレスは、せっかく取り出したそれらの資料を一切開く事なく、爛々とした目でオウマ君を見る。
「それより、今はせっかく生インキュバス君に会えたんだ。学校では話せなかったこと、たーっぷり聞こうじゃないか」
「わ、わかりました。だけど先輩、その生インキュバス君っての、やめてもらっていいですか。確かに俺はインキュバスですけど、あんまりいい気分はしないんで」
オウマ君は、ホレスの遠慮ない態度に早くも疲れぎみの様子だ。
「はいはい。ではオウマ君、まずは基本的な事から確認していこうか。例えばこの資料には、そもそもインキュバスはどんな悪魔なのかが載ってるけど、全て真実と思っていいのかな?」
「なんて書いてあるんですか?」
「えーと、女性の生気を吸い取り、自らの力とする。女性を魅了させる能力をもち、周りには数多の女性を侍らせる。魅了の力を強めると、相手はどんな命令も聞くようになり、つまりはあんな事やこんな事のし放題。女を見れば手当たり次第の見境なし。淫乱、最低、変態、女の敵。ある意味男にとっても敵。リア充爆発しろ。歩くセクハラ大魔王……」
「も、もういい! って言うか、本当にそんなこと書いてあるんですか!?」
全てを言い終わる前に、オウマ君がストップをかける。うん、その気持ちは分かる。なんだかオウマ君の中にある大事な何かが、みるみるうちにすり減っていってるような気がしていたよ。
だけどホレスの持っている資料を開いてみると、そこにはさっき言ったことと一字一句違わぬ内容が書かれていた。
「これ書いたのうちの先祖だからね。モテるのが羨ましくて、思わず私情が入っちゃったんだと思うよ。なんか、ごめん」
「す、全てのインキュバスがこんなんじゃないからな。そりゃやろうと思えばできるだろうけど、実際にそれをやるかどうかは別問題な訳で……」
真っ赤な顔で、自分は違うと訴えて来るけれど、そんなに必死にならなくても分かるから。
さらに資料を見てみると、その隣に、インキュバスの絵が描かれているのが目に入る。紫色の体に、丸まった角を持つ、まさに悪魔と言うべき容姿のそれは、前にオウマ君が姿を変えたものとそっくりだった。
いや、正確に言うと笑ってはいたか。
「ヒャッホー! なんだよその話、インキュバスに会えただけじゃなく、そんな楽しい依頼を受けたってのかよ。シアンよくぞ俺を誘ってくれた。さーて、まずはどうしてくれようか?」
「はいはい、嬉しいのはわかったから落ち着いて」
……まあ、こんな感じで大喜びしていたわけだ。オウマ君はそれを見ながらなんだか不安そうな顔をしていたけど、オカルトに関わると変なスイッチが入ってしまうのがホレスだから、これはもう諦めてもらうしかない。
それから、ひとまず三人で私の家へと行くことになる。これ以上の話は、資料もたっぷりある我が家の物置の方がいいという判断だ。
家に帰ると、まずジェシカに、二人が来たことを伝えておく。
「私達、今から物置に行くけど、お茶とか挨拶とかは一切いらないから」
「かしこまりました。例の、インキュバスの力を封じて欲しいと依頼されたオウマ様に対する配慮のためですね」
「そう。女の人が自分を見たらまた魅了させるだろうって気にしてたから、絶対に顔を出さないでね」
ジェシカにも、オウマ君の事情と依頼の件は全て話してある。なるべく人には話さないでほしいとは言われているけど、ジェシカは口が固いし、使用人の少ない我が家にとっては家族のような存在だ。隠しておくのは無理があるし、言っても問題ないだろう。
「ですがオウマ様は、インキュバスの力を抜きにしてもお顔はイケメンなのですよね。それなら私は、例え魅了されても一切困らないのですが。と言うか、イケメンならそれだけで、大いに魅了される自信がありますし、ましてやホレス様とのツーショットが拝めるとなると、むしろ魅了なんてドンとこいです」
そう言えば、ジェシカが言うにはホレスもイケメン枠だっけ。イケメン単体はもちろん、イケメン同士の絡みも尊いって前に言ってたけど、ここで彼女の望みを聞き入れるわけにはいかない。
「ジェシカはそれでいいかもしれないけど、オウマ君は気にするから」
ジェシカのイケメン好きは筋金入りだ。言い聞かせた後もまだ、「ああ、イケメンを見たかった」などと残念そうに言っていた。
ともあれ、そんなジェシカを置いて玄関先に向かうと、そこには待たせていたオウマ君の姿がある。ただ、ホレスの姿はなかった。
「ごめん。ホレス先輩、先に物置行っとくって、止めるのも聞かずに勝手に入って行っちゃった」
「ホレスらしいわ。よくあることだから気にしないで」
「よくあるのか……」
驚いたような、呆れたような顔をするオウマ君を連れ物置に行くと、ホレスは既に中にある本や資料を物色している最中だった。
「なあシアン、もしかして本の場所動かしてたりする? 前に来た時と、微妙に置いてある位置が違うんだけど」
勝手に入って物色しているのを謝る気配もなく、そんなことを言ってくる。
「昨日私もいつくか見たからね。元の場所に戻そうにも、あちこち散らかってて全然わかんないよ。少しは整理してよね」
「いいんだよ、俺にはわかるんだから。今回みたいなことでもなけりゃ、俺以外誰も見ないだろ。だったら、俺さえ覚えていたら問題ない。それより、わかる限りでインキュバス関連の資料いくつか抜き取っておいたぞ」
こんな乱雑に散らばっている中、どこに何があるのか覚えているのは、さすが天才と言われるだけのことはある。あとは片付けさえ覚えてくれたら尚良かったんだけどね。
だけどホレスは、せっかく取り出したそれらの資料を一切開く事なく、爛々とした目でオウマ君を見る。
「それより、今はせっかく生インキュバス君に会えたんだ。学校では話せなかったこと、たーっぷり聞こうじゃないか」
「わ、わかりました。だけど先輩、その生インキュバス君っての、やめてもらっていいですか。確かに俺はインキュバスですけど、あんまりいい気分はしないんで」
オウマ君は、ホレスの遠慮ない態度に早くも疲れぎみの様子だ。
「はいはい。ではオウマ君、まずは基本的な事から確認していこうか。例えばこの資料には、そもそもインキュバスはどんな悪魔なのかが載ってるけど、全て真実と思っていいのかな?」
「なんて書いてあるんですか?」
「えーと、女性の生気を吸い取り、自らの力とする。女性を魅了させる能力をもち、周りには数多の女性を侍らせる。魅了の力を強めると、相手はどんな命令も聞くようになり、つまりはあんな事やこんな事のし放題。女を見れば手当たり次第の見境なし。淫乱、最低、変態、女の敵。ある意味男にとっても敵。リア充爆発しろ。歩くセクハラ大魔王……」
「も、もういい! って言うか、本当にそんなこと書いてあるんですか!?」
全てを言い終わる前に、オウマ君がストップをかける。うん、その気持ちは分かる。なんだかオウマ君の中にある大事な何かが、みるみるうちにすり減っていってるような気がしていたよ。
だけどホレスの持っている資料を開いてみると、そこにはさっき言ったことと一字一句違わぬ内容が書かれていた。
「これ書いたのうちの先祖だからね。モテるのが羨ましくて、思わず私情が入っちゃったんだと思うよ。なんか、ごめん」
「す、全てのインキュバスがこんなんじゃないからな。そりゃやろうと思えばできるだろうけど、実際にそれをやるかどうかは別問題な訳で……」
真っ赤な顔で、自分は違うと訴えて来るけれど、そんなに必死にならなくても分かるから。
さらに資料を見てみると、その隣に、インキュバスの絵が描かれているのが目に入る。紫色の体に、丸まった角を持つ、まさに悪魔と言うべき容姿のそれは、前にオウマ君が姿を変えたものとそっくりだった。
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