モテ男でインキュバスな彼は、魅了の力をなくしたい

無月兄

文字の大きさ
39 / 45

第39話 伝えなきゃダメなのに

しおりを挟む
 この数日、私はずっと、意図的にオウマ君を避けていた。
 だって、近くにいたらドキドキしてしまうから。自分が魅了の力にかかっていると、嫌でも自覚してしまうから。

 それを認めたくなくて、今だって早急に離れようとしていたけど、そんな私の態度は全部バレていた。

「ねえ、何で?」

 急にそんな態度をとられたんだから、気になるのは当然だ。そして私も、ちゃんと事情を話さなきゃいけない義務がある。魅了にかかってるって、今度こそ言わなきゃいけない。
 そう思っていながら、出てきた言葉はさっきまでと何も変わっていなかった。

「そ、そんなことないって」

 違いがあるとすれば、そう告げた私の声が、僅かに震えていたこと。そして、それを聞いたオウマ君が、明らかに納得していなかったことだ。

「じゃあ、どうして今も逃げようとするんだよ!」

 見え透いた言い訳に苛立ったのか、またも掴むように、こっちに向かって腕を伸ばしてくる。
 だけど、オウマ君の手が触れようとしたその瞬間、私の手が素早く動き、反射的にそれを弾いた。

「やっ──!」

 バシッと辺りに音が響いたかと思うと、それっきり、オウマ君の動きが止まる。
 それから少し遅れて、彼の顔が悲しそうに歪む。

「ご、ごめん──」

 告げられた謝罪の言葉。だけど悪いのは、明らかに私だ。いきなり変な態度をとって、なのに何も話さない。こんなんで納得しろって方が無理な話だ。

「───っ!」

 だけど私は、何も言う事ができなかった。一言も発っせないまま、彼に背を向けると、逃げるようにしてその場を去っていく。
 そして、オウマ君の姿が完全に見えないところまで歩くと、立ち止まり、盛大に頭を抱えた。

「うわぁー、なんで逃げたりしたの! あそこはちゃんと謝らなきゃいけないとこでしょ。それに、魅了されてるってこと、ちゃんと言わなきゃいけないのに!」

 やらかしてしまったと後悔しながら、胸の奥にこもった思いを吐き出すように叫ぶ。
 だけどその後、今度はそれとは反対に、小さな声で、ボソボソと呟く。

「でも、私まで魅了されたって知ったら、オウマ君どう思うのかな? ショックだろうな。それに、もうオウマ君の側にはいられなくなるかも」

 口にした瞬間、もう何度目かも分からない胸の痛みを感じた。
 ただ今回はいつもと少し違っていて、そこにドキドキはなく、ただ苦しいだけだ。

 何度も本当のことを言わなきゃいけないと思って、だけど未だ言えない理由がこれだった。

 私がオウマ君の側にいられたのは、魅了の力がきかない、唯一の女の子だったからだ。それにより、力を制御する特訓に付き合えたからだ。

 その大前提が崩れてしまったら、もう彼の側にいる理由がなくなってしまう。オウマ君にとって、私はもう必要なくなってしまう。そう思うと、モヤモヤとした嫌な気持ちが広がっていく。

「変なの。このままじゃ、どのみち側にはいられないってのに。こんな風に思うのも、魅了にかかってるせいなのかな?」

 大きくため息をつきながら呟くけれど、その声に答えてくれる人は誰もいなかった。








 オウマ君に謝って、ちゃんと全ての事情を話した方がいい。そうは思っても、再び話しかけることもできないまま放課後になり、憂鬱な気分で家に帰る。
 そんな私を出迎えたのは、傍らにレイモンドを従え、満面の笑みを浮かべたお父さんだった。

「お帰り、愛しの娘よ。今日も良き日だったかい?」
「はぁ──」

 質問の答えは、このため息だけで十分だろう。元々楽天的な人だったけど、オウマくんの家から資金援助を受けるようになって以来、いよいよ頭にお花畑ができたような浮かれっぷりだ。
 もしこれで、実は依頼を果たせてませんなんて言ったら、いったいどうなってしまうのだろう。

「何か用? 何もないなら、部屋に戻りたいんだけど」

 悪いけど、今はとても付き合える気分じゃない。
 いつもなら私がこんな対応をした時、お父さんはしょんぼりしながら引き下がる。だけど、今回は違った。

「待て待て、用ならあるぞ。実は、お前に新しいドレスを買ってやろうと思ってな。既に服屋も呼んである」
「ドレス? 別にそんなのいらないんだけど」

 一応貴族の娘として全く必要ないわけじゃないけど、お母さんが昔着ていたお古がある。わざわざ新しい買わなくてもと思うのは、染み付いた貧乏性のせいだろうか?
 そう思っていると、レイモンドが助け船を出すように耳打ちしてくる。

「旦那様は、お嬢様の晴れ姿が見たいのですよ。ここはひとつ、親孝行だと思ってつきあってもらえませんか?」
「まあ、いいけど」

 私だって、何が何でも嫌ってわけじゃない。頷くと、お父さんはますます上機嫌になる。

「それは良かった。ちょうど、もうすぐ聖夜祭があるからな。御披露目はちょうどいい」
「聖夜祭?」

 ああ、そういえばそんなのもあったっけ。もうすぐ学校でもパーティーがあるけれど、今まですっかり忘れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

処理中です...