13 / 48
詩の仕事
しおりを挟む
詩の元に嫁入りして三日目。
その間、紬は家の外には一切出なかったため、これが三日ぶりの外出になる。
そして、アヤカシの街を見るのはこれが二度目。
とはいえ一度目は、詩たちから逃げるのに必死だったから、とても周りを気にする余裕などなかった。
「すごい人の数。いえ、アヤカシの数ね」
この世界の街並みは、瓦屋根の和風な建物が多く並んでいるものの、基本的に人間の世界と大きくかけ離れている訳ではない。
だが、行き交うアヤカシたちは、腕が三つも四つもあったり、顔が動物のそれだったりと、驚くほど多種多様だ。
そんな光景を見ていると、急に目の前に団子が突き出された。
「注文していた団子、出てきたよ。食べる?」
「ええ。いただくわ」
ここは、通りの一角にある甘味処。
詩と二人、店先にある長椅子に腰掛けながら、団子を頬張る。
団子には大つぶの餡子がこれでもかというくらいかかっていて、口の中に甘さが広がっていった。
「美味しい」
一緒に出されたお茶を飲むと、香ばしい匂いがスッと鼻を通り抜ける。
「まずは腹ごなしって思ったんだけど、気に入った?」
「まあね。こっちの世界のお菓子って、こんなに美味しいの? それに、団子以外にも色々あるのね」
改めて御品書きを見ると、羊羹やお汁粉など、様々な菓子の名前が並んでいた。
「ここの職人さん、腕がいいからね。特に餡子は評判だよ。他のも食べたいなら追加で注文するけど、どうする?」
「今はこれだけでいいわ」
「そう? じゃあ、他のやつはまた今度食べに来ようか」
詩の口ぶりだと、またここに来るのは決定事項のようだ。
だが、ここの菓子がおいしいので、それに関しては不満は無い。
それから紬は、店の奥にいる、職人風の男に目を向けた。
「それより、その腕のいい職人さんって、もしかしてあの人?」
小柄な体と大きな目が特徴的だが、この街では珍しく、見た目は普通の人間に近かった。
とはいえ、やはり彼もアヤカシなのだろう。
「そうだよ。あの人は、小豆洗い」
「小豆洗いって、『小豆とごうか人とって食おうか』って歌う、あの小豆洗い?」
「そうだよ。洗ったり研いだりするだけじゃなく、小豆の扱いに長けた一族なんだ。ああ、歌とは違って人は食べないから安心して」
「そう。よかった」
今の紬は狐のアヤカシに化けてはいるが、それでも人を食うなどと言われたら、つい反応してしまう。
「もしかして、怖くなった? それなら、これから歩く時は、俺と手を繋いでおく?」
「そんなのしなくても平気よ。と言うか、あなたそんな危険なところに私を連れてきたの?」
「まさか。紬と手を繋ぐ口実ができたら、なんでもいいんだよ」
正直に言いすぎである。
当然、紬が手繋ぎに応じることはなかった。
「まあ、中には柄の悪いのもいるけど、むやみに誰かを傷つけるようなことをしたら捕まるからね。その辺は、人間の世界と似たようなもの」
「ここにも警察みたいなのがあるってこと?」
「そうだよ。って言うか、俺の仕事がそうだから」
「えっ!?」
急に言われた言葉に驚く。
詩が仕事で忙しいというのは聞いていたが、それが警察のようなものとは思ってもみなかった。
「玉藻の家は、アヤカシの秩序を守る武門の家柄でね。代々、警察みたいに悪事を働くアヤカシの取り締まりをやってるんだ。この前紬を襲おうとした奴らが、玉藻って聞いて震え上がったのもそのため。月城の先祖に、人間の世界で悪さするアヤカシを何とかするって契約を結んだのも、そのついでみたいなものなんだ」
「人間の世界って、ついでで守られるようなものなの?」
「その辺は先祖に言って。とにかく、俺はそんな玉藻の次期当主だから、当然そういう仕事についているよ。人間の世界で言えば、警察署の署長みたいなものかな」
「署長って、めちゃめちゃ偉いじゃない! あなたいくつよ!」
アヤカシの歳は見た目ではわからず、中には幼い姿のまま数百年生きる者もいるという。
しかし、詩が自分とそこまで歳が離れているようには思えなかった。
「二十歳だよ」
「私と二つしか違わないじゃない!」
結婚三日目にして初めて知った、夫の年齢。本当に、自分とそう変わらなかった。
「そんなのが警察署の署長みたいなものって、大丈夫なの?」
「アヤカシの世界。中でも玉藻の家は実力主義だからね。力のある俺がやるのは、当たり前のことだよ」
「力こそ正義みたいな理屈ね」
実力主義というのは人間の世界でもあるが、アヤカシの世界ではそれがより極端になっているのかもしれない。
「若くして地位があってハイスペックって、少女マンガのヒーローにありがちな設定じゃない?」
「少女マンガのヒーローは、自分からそんなこと言わないから」
力はあるのだろうが、すぐにこんなふざけたことを言う。
本当に、彼にそんな仕事を任せて大丈夫なのだろうかと、アヤカシ世界の治安について不安になる紬だった。
その間、紬は家の外には一切出なかったため、これが三日ぶりの外出になる。
そして、アヤカシの街を見るのはこれが二度目。
とはいえ一度目は、詩たちから逃げるのに必死だったから、とても周りを気にする余裕などなかった。
「すごい人の数。いえ、アヤカシの数ね」
この世界の街並みは、瓦屋根の和風な建物が多く並んでいるものの、基本的に人間の世界と大きくかけ離れている訳ではない。
だが、行き交うアヤカシたちは、腕が三つも四つもあったり、顔が動物のそれだったりと、驚くほど多種多様だ。
そんな光景を見ていると、急に目の前に団子が突き出された。
「注文していた団子、出てきたよ。食べる?」
「ええ。いただくわ」
ここは、通りの一角にある甘味処。
詩と二人、店先にある長椅子に腰掛けながら、団子を頬張る。
団子には大つぶの餡子がこれでもかというくらいかかっていて、口の中に甘さが広がっていった。
「美味しい」
一緒に出されたお茶を飲むと、香ばしい匂いがスッと鼻を通り抜ける。
「まずは腹ごなしって思ったんだけど、気に入った?」
「まあね。こっちの世界のお菓子って、こんなに美味しいの? それに、団子以外にも色々あるのね」
改めて御品書きを見ると、羊羹やお汁粉など、様々な菓子の名前が並んでいた。
「ここの職人さん、腕がいいからね。特に餡子は評判だよ。他のも食べたいなら追加で注文するけど、どうする?」
「今はこれだけでいいわ」
「そう? じゃあ、他のやつはまた今度食べに来ようか」
詩の口ぶりだと、またここに来るのは決定事項のようだ。
だが、ここの菓子がおいしいので、それに関しては不満は無い。
それから紬は、店の奥にいる、職人風の男に目を向けた。
「それより、その腕のいい職人さんって、もしかしてあの人?」
小柄な体と大きな目が特徴的だが、この街では珍しく、見た目は普通の人間に近かった。
とはいえ、やはり彼もアヤカシなのだろう。
「そうだよ。あの人は、小豆洗い」
「小豆洗いって、『小豆とごうか人とって食おうか』って歌う、あの小豆洗い?」
「そうだよ。洗ったり研いだりするだけじゃなく、小豆の扱いに長けた一族なんだ。ああ、歌とは違って人は食べないから安心して」
「そう。よかった」
今の紬は狐のアヤカシに化けてはいるが、それでも人を食うなどと言われたら、つい反応してしまう。
「もしかして、怖くなった? それなら、これから歩く時は、俺と手を繋いでおく?」
「そんなのしなくても平気よ。と言うか、あなたそんな危険なところに私を連れてきたの?」
「まさか。紬と手を繋ぐ口実ができたら、なんでもいいんだよ」
正直に言いすぎである。
当然、紬が手繋ぎに応じることはなかった。
「まあ、中には柄の悪いのもいるけど、むやみに誰かを傷つけるようなことをしたら捕まるからね。その辺は、人間の世界と似たようなもの」
「ここにも警察みたいなのがあるってこと?」
「そうだよ。って言うか、俺の仕事がそうだから」
「えっ!?」
急に言われた言葉に驚く。
詩が仕事で忙しいというのは聞いていたが、それが警察のようなものとは思ってもみなかった。
「玉藻の家は、アヤカシの秩序を守る武門の家柄でね。代々、警察みたいに悪事を働くアヤカシの取り締まりをやってるんだ。この前紬を襲おうとした奴らが、玉藻って聞いて震え上がったのもそのため。月城の先祖に、人間の世界で悪さするアヤカシを何とかするって契約を結んだのも、そのついでみたいなものなんだ」
「人間の世界って、ついでで守られるようなものなの?」
「その辺は先祖に言って。とにかく、俺はそんな玉藻の次期当主だから、当然そういう仕事についているよ。人間の世界で言えば、警察署の署長みたいなものかな」
「署長って、めちゃめちゃ偉いじゃない! あなたいくつよ!」
アヤカシの歳は見た目ではわからず、中には幼い姿のまま数百年生きる者もいるという。
しかし、詩が自分とそこまで歳が離れているようには思えなかった。
「二十歳だよ」
「私と二つしか違わないじゃない!」
結婚三日目にして初めて知った、夫の年齢。本当に、自分とそう変わらなかった。
「そんなのが警察署の署長みたいなものって、大丈夫なの?」
「アヤカシの世界。中でも玉藻の家は実力主義だからね。力のある俺がやるのは、当たり前のことだよ」
「力こそ正義みたいな理屈ね」
実力主義というのは人間の世界でもあるが、アヤカシの世界ではそれがより極端になっているのかもしれない。
「若くして地位があってハイスペックって、少女マンガのヒーローにありがちな設定じゃない?」
「少女マンガのヒーローは、自分からそんなこと言わないから」
力はあるのだろうが、すぐにこんなふざけたことを言う。
本当に、彼にそんな仕事を任せて大丈夫なのだろうかと、アヤカシ世界の治安について不安になる紬だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる