23 / 48
霊力を欲しがらない理由
しおりを挟む
「なんじゃ。詩から何も聞いておらんのか?」
紬の言葉を聞いて、沙紀は意外そうに声をあげる。
ただその仕草があまりにも大仰だったので、本気で驚いているのか、そういうふりをしているのかはわからなかった。
「夫のことを何も知らぬとは不憫じゃから教えてやろう。あやつの両親、二人ともとっくに亡くなっているが、母親は人間じゃ」
「えっ……?」
告げられたのは、予想外な言葉。
沙紀の言う通り、そんな話一度も聞いたことがない。
前に喜八が言いかけたのも、そのことだったのだろうか。
「人間って、その人も、私みたいに霊力があったんですか?」
「いいや。アヤカシの姿をかろうじて見ることができるくらいじゃの。あやつの父親と一緒にいるにつれて見る力は強まっていったようじゃが、あの程度の霊力では食っても大して力はつかん。お主くらいの霊力を持っていたら、私が隙を見て食っていたかもしれんがの」
相変わらず、人間を餌としてしか見ていないような言葉。
しかし、そんな人間がなぜアヤカシと一緒になり子どもまで産んだのか、疑問はますます大きくなっていく。
「あやつの父親にとっては、霊力の有無など二の次だったようじゃ。人の世に行った時に知り合い、色々あって好いた惚れたとなって一緒になったと聞く」
「それって、純粋にその人を好きになったってことですか」
「そういうことになるの。詩がお主を愛しの妻などと言うのと似たようなものかの」
そういえば、自分と詩は仲睦まじい夫婦ということになっているのだと、今更のように思い出す。
「私に言わせれば愚かなことじゃがな。霊力のない人間を嫁に迎えても、なんの得にもならん。元々、私と当主の座を争う程度には優れたやつじゃったが、それをきっかけに争いから蹴落とされおった」
「そうなんですか?」
「ああ。人間になどに惚れた軟弱者に当主など務まるものかと冷遇されるようになった。おかげで私が当主となったが、ずいぶんと拍子抜けな幕切れじゃった。その息子である詩も、お主の霊力になんの興味も持たん。親子そろって、いったい何を考えておるのかのう?」
「そ、そんなの、私にはわかりません」
本当に、わかるわけがない。
詩の両親は、本気で愛し合って一緒になったのかもしれない。
だが自分たちは本当は愛し合ってなどいないし、詩が自分を好いているというのも、どこまで本気かわからない。
自分が詩に好かれる理由など何も思い当たらないというのに。
まさか、父親がそうしたから自分もそれに習った、なんてことでもあるまい。
そう、思ったのだが……
「もしかすると、父の無念を晴らそうとしているのかもしれないね」
そう言ったのは、古空だった。
とはいえ、これだけではどついう意味かわからない。
「無念を晴らすって、どういうことですか?」
「思いつきで言っただけなんだけどね。人間の女性と一緒になった詩の父親に対する一族の反応は、ひどく冷たいものだった。こことは違う土地の閑職へと追いやられたばかりか、それまで付き従ってきた者たちも離れていった」
親戚間での酷い扱いと聞いて、自分が月城の家で受けてきた仕打ちを思い出す。
状況はだいぶ違うが、詩やその両親も、苦しい思いをしてきたのかもしれない。
「詩のやつが当主を目指すのは、その悔しさがあったからとして、それならなぜ君から霊力を得ようとしないのか? 君を愛しているからか、それとも……」
「それとも、なんですか?」
急かすように、次の言葉を促す。
詩がどうして自分と結婚しようとしたのか。特別な理由があるのなら、知りたかった。
「人間である君を花嫁として貰い受けるが、霊力には手を出さない。まるで、父親の人生を再現しようとしてるみたいじゃないか。そうして当主になることで、両親の受けた不遇な扱いは間違いだったと、証明したかったかったのかもね」
「──なっ!?」
それは、あまりに突拍子もない話だ。そんなことのためにわざわざ結婚までするわけがない。そう言いそうになる。
だが……
(でも、それじゃあどうして、私を花嫁としてほしがるのよ)
それは、未だにさっぱりわからない。
自分のことを好きだからと言ってはいるが、好かれる心当たりなど、何もないのだ。
(もし本当にそうなんだとしたら、お父さんやお母さんの名誉を守るために、私が必要だったってこと?)
キュッと、心臓が苦しくなる。
もちろんこれは全て想像で、詩本人が何か言ったわけでもない。
だが、見ず知らずの自分と結婚し、霊力目当てでもないのだ。どんなおかしな理由があっても、不思議ではないのかもしれない。
その詩を見ると、未だ戦っている最中だ。仲間に引き込んだ数名と共に、次々と敵を打ち倒していっている。
もちろん、いくらその姿を見ても、何を考えているかなどわかるはずもない。
「まあ僕としては、その辺りの事情なんてどうでもいいことだ。どんな理由であれ、詩にとって君が大切なら、利用する価値はある」
「えっ?」
再び告げられた古空の言葉に、ハッとしたように彼を見る。
するとその瞬間、彼の手が伸び、いつの間にか抜かれていた短刀が、喉元に突きつけられていた。
「やっ──!?」
ヒヤリとした刃が、喉に触れる。恐怖で声をあげそうになるが、喉を押さえられては、それもできない。
震える紬を見て、古空はニヤリと笑う。
「例えばそう、ここで君を人質にしたら、詩はどうするかな?」
この男も、詩と次の当主の座を争う相手だ。そのこと今更ながら思い出し、背中に嫌な汗が伝った。
紬の言葉を聞いて、沙紀は意外そうに声をあげる。
ただその仕草があまりにも大仰だったので、本気で驚いているのか、そういうふりをしているのかはわからなかった。
「夫のことを何も知らぬとは不憫じゃから教えてやろう。あやつの両親、二人ともとっくに亡くなっているが、母親は人間じゃ」
「えっ……?」
告げられたのは、予想外な言葉。
沙紀の言う通り、そんな話一度も聞いたことがない。
前に喜八が言いかけたのも、そのことだったのだろうか。
「人間って、その人も、私みたいに霊力があったんですか?」
「いいや。アヤカシの姿をかろうじて見ることができるくらいじゃの。あやつの父親と一緒にいるにつれて見る力は強まっていったようじゃが、あの程度の霊力では食っても大して力はつかん。お主くらいの霊力を持っていたら、私が隙を見て食っていたかもしれんがの」
相変わらず、人間を餌としてしか見ていないような言葉。
しかし、そんな人間がなぜアヤカシと一緒になり子どもまで産んだのか、疑問はますます大きくなっていく。
「あやつの父親にとっては、霊力の有無など二の次だったようじゃ。人の世に行った時に知り合い、色々あって好いた惚れたとなって一緒になったと聞く」
「それって、純粋にその人を好きになったってことですか」
「そういうことになるの。詩がお主を愛しの妻などと言うのと似たようなものかの」
そういえば、自分と詩は仲睦まじい夫婦ということになっているのだと、今更のように思い出す。
「私に言わせれば愚かなことじゃがな。霊力のない人間を嫁に迎えても、なんの得にもならん。元々、私と当主の座を争う程度には優れたやつじゃったが、それをきっかけに争いから蹴落とされおった」
「そうなんですか?」
「ああ。人間になどに惚れた軟弱者に当主など務まるものかと冷遇されるようになった。おかげで私が当主となったが、ずいぶんと拍子抜けな幕切れじゃった。その息子である詩も、お主の霊力になんの興味も持たん。親子そろって、いったい何を考えておるのかのう?」
「そ、そんなの、私にはわかりません」
本当に、わかるわけがない。
詩の両親は、本気で愛し合って一緒になったのかもしれない。
だが自分たちは本当は愛し合ってなどいないし、詩が自分を好いているというのも、どこまで本気かわからない。
自分が詩に好かれる理由など何も思い当たらないというのに。
まさか、父親がそうしたから自分もそれに習った、なんてことでもあるまい。
そう、思ったのだが……
「もしかすると、父の無念を晴らそうとしているのかもしれないね」
そう言ったのは、古空だった。
とはいえ、これだけではどついう意味かわからない。
「無念を晴らすって、どういうことですか?」
「思いつきで言っただけなんだけどね。人間の女性と一緒になった詩の父親に対する一族の反応は、ひどく冷たいものだった。こことは違う土地の閑職へと追いやられたばかりか、それまで付き従ってきた者たちも離れていった」
親戚間での酷い扱いと聞いて、自分が月城の家で受けてきた仕打ちを思い出す。
状況はだいぶ違うが、詩やその両親も、苦しい思いをしてきたのかもしれない。
「詩のやつが当主を目指すのは、その悔しさがあったからとして、それならなぜ君から霊力を得ようとしないのか? 君を愛しているからか、それとも……」
「それとも、なんですか?」
急かすように、次の言葉を促す。
詩がどうして自分と結婚しようとしたのか。特別な理由があるのなら、知りたかった。
「人間である君を花嫁として貰い受けるが、霊力には手を出さない。まるで、父親の人生を再現しようとしてるみたいじゃないか。そうして当主になることで、両親の受けた不遇な扱いは間違いだったと、証明したかったかったのかもね」
「──なっ!?」
それは、あまりに突拍子もない話だ。そんなことのためにわざわざ結婚までするわけがない。そう言いそうになる。
だが……
(でも、それじゃあどうして、私を花嫁としてほしがるのよ)
それは、未だにさっぱりわからない。
自分のことを好きだからと言ってはいるが、好かれる心当たりなど、何もないのだ。
(もし本当にそうなんだとしたら、お父さんやお母さんの名誉を守るために、私が必要だったってこと?)
キュッと、心臓が苦しくなる。
もちろんこれは全て想像で、詩本人が何か言ったわけでもない。
だが、見ず知らずの自分と結婚し、霊力目当てでもないのだ。どんなおかしな理由があっても、不思議ではないのかもしれない。
その詩を見ると、未だ戦っている最中だ。仲間に引き込んだ数名と共に、次々と敵を打ち倒していっている。
もちろん、いくらその姿を見ても、何を考えているかなどわかるはずもない。
「まあ僕としては、その辺りの事情なんてどうでもいいことだ。どんな理由であれ、詩にとって君が大切なら、利用する価値はある」
「えっ?」
再び告げられた古空の言葉に、ハッとしたように彼を見る。
するとその瞬間、彼の手が伸び、いつの間にか抜かれていた短刀が、喉元に突きつけられていた。
「やっ──!?」
ヒヤリとした刃が、喉に触れる。恐怖で声をあげそうになるが、喉を押さえられては、それもできない。
震える紬を見て、古空はニヤリと笑う。
「例えばそう、ここで君を人質にしたら、詩はどうするかな?」
この男も、詩と次の当主の座を争う相手だ。そのこと今更ながら思い出し、背中に嫌な汗が伝った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる