生贄花嫁はアヤカシ狐からの溺愛を受け入れられない

無月兄

文字の大きさ
35 / 48

開く扉

しおりを挟む
「この扉をくぐれば、人間の世界に行けるのよね」
「そうだよ。アヤカシの世界と人間の世界の間では、空間歪んでるから、紬がこっちに来たお堂とは、かなり遠く離れた場所に通じているはずだよ」

 その辺りの理屈はまるでわからないが、こうして別の世界に来ているのだ。今さら不思議なことがひとつくらい増えても何も思わない。

 それよりも、どうして詩はわざわざこんなところに連れてきたのか。そちらの方がずっと気になる。

 詩が扉に手をかけ、呪文のようなものを唱えると、その瞬間、辺りの空気が少し変わったような気がした。

「さあ、これで人間の世界と繋がった」

 そう言って、ゆっくりと扉を開く。
 この先にあるのは、人間の世界。紬にしてみれば、嫁入りして以来、初めて戻ることになる。

 いったいどんな場所に通じているのか。
 緊張しながら、扉を通り外に出るが、次の瞬間、僅かに拍子抜けする。

「ここが、人間の世界?」

 正直なところ、戻ってきたという実感は、特にはわかなかった。
 扉の先には、何かがあったわけでもない。ただの荒れた山道が広がっていた。

(まあ、嫁入りの際に使ったお堂も、こんな山の中だったか。そもそも二つの世界を繋ぐなんて場所が街中にあっても大変よね)

 詩が連れていきたい場所というのは、ここから更に歩くことになるのだろうか。
 そう思ってくると、詩がこんなことを言ってきた。

「ねえ、紬。この場所を見て、何か思うことってない?」
「えっ?」

 もう一度、辺りを見回す。
 だがそう言われても、お堂以外には何も無い場所。思うことなんて、特にあるわけがない。
 そのはずだった。

(…………あれ?)

 何の変哲もない、ただの山道。そのはずなのに、なぜか頭の中に引っ掛かりを感じる。
 不思議に思い、少しだけ、山道を進む。

(多分この道、もう少し先に行ったら、二つに分かれてる)

 なぜかそんなことがわかって、実際に行ってみたら、本当に道が二つに分かれていた。

「どういうこと?」

 戸惑いながら、後ろからついてきていた詩を見る。
 しかし彼はそれに答えず、もう少し先に進んでいく。
 そこは周りの木々が刈り取られていて、端の方によると近くにある町を見下ろすことができた。
 町といってもそう大きくはなく、どこにでもあるような田舎町といった雰囲気だ。

 だが町の様子をよくよく見た時、紬の頭の中にある引っ掛かりが、ますます大きくなる。

(私、あの町を知ってる。というかあれって、昔私が住んでいた町じゃない!)

 それは、月城の家に引き取られる前。まだ、母親と一緒に暮らしていた時の話だ。
 一度離れて以来戻ることなかったが、遠くに見える建物のいくつかには、覚えのあるものもあった。
 それに気づいて、ハッと息を飲む。

「ねえ。いったい、どういうことなのよ!」

 さっきとほとんど同じ質問を、もう一度ぶつける。
 ここに来る途中のお堂は、詩の父親が管理していたと言っていた。そこから繋がる先が、自分が昔住んでいた場所のすぐ近くなど、とても偶然とは思えない。

 問われた詩はというと、少し前まで見せていた笑顔は消え、真剣な表情で紬を見ていた。

「うん、全部話す。と言うより、思い出させる」
「どういうこと……?」

 詩の言っていることがわからず、困惑する紬。そんな彼女に向かって、詩は手を伸ばす。
 一度頬に触れ、それから、額へと指先を移動させた。

「詩……?」

 ますますわけがわからず、小さく声をあげる。
 だがその時、頭の中で声が響いた。

『紬────紬────』

 幼い男の子の声。だが、それが誰のものなのかはわからない。全く聞いたことのない声。最初は、そう思っていた。
 だが……

『紬────紬────』

 また、頭の中で声が響く。同時に、遠い昔の記憶が蘇えってくる。
 まだ幼かった頃の、かつてこの町に住んでいた頃の記憶だ。
 なぜ急にこんなことが。
 混乱する紬を見ながら、詩の顔が歪む。

「ごめんね。本当は、もっと早くこうするべきだったかもしれない。けど、あの時俺が何をしたのか、紬に知られるのが怖かった」

 そこまで聞いたところで、閉じられていた記憶の扉が、一気に開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...