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推しから下僕へ
自業自得
しおりを挟む「お餞別一万円もあげたのに、これ? 高校生なら、西陣織とか京象嵌のアクセサリーとか、もっと気の利いたものがあったでしょ」
「一万で買えるか! そもそも旅行の積み立ては俺のバイト代だし。小遣いくらいくれるのは当然だろ」
「あんたが、自分でお金出すから行かせてほしいって言ったんじゃない」
そんな昔の話を持ち出されても、修学旅行に行ったことを後悔しているだけに、余計に苦々しい気分になるだけだ。
旅行の積み立てを自分のバイト代で払っていたのは、積み立ての話をしたときに、母親が「修学旅行、行きたいの?」と聞いてきたからだ。その口ぶりに金を出し渋るニュアンスを感じ取り、自分で払うことにした。キャンセル料が発生する前にキャンセルすれば全額返金されるという話だったから、生活が苦しくなるようなら途中でやめたらいいと思っていた。
無事に払い終え、旅行には行くことができたが、実際のところはかなりぎりぎりだった。
バイト代やら母からもらった餞別やらでそれなりに懐に余裕があるつもりだったが、同じ班の奴らがみんなそこそこ裕福なのか、班行動のランチで高級料亭の懐石料理なんかを食べていたせいで、終わってみれば財布の中はほとんど空っぽだった。
みんなが紙袋いっぱいのお土産を買う中、一つも紙袋を持っていない惨めさを思い出せば、「一万ごときで大きな顔するな!」と当たり散らしたい衝動に駆られる。
でも、悔しさも惨めさも、修学旅行に行きたがった自分のせいだということもわかっている。
「いらないんならいいよ。自分でつける」
テーブルの上に放り出されていた小袋とキーホルダーを鷲掴みし、自室へと向かう。
「ちょっと、いらないとは言ってないでしょー」
背中越しに聞こえる声を無視し、扉を閉めた。
バッグを床に下ろし、握りしめていたもう片方の手をゆっくりと開く。
光沢のあるアクリル製の人形はアニメキャラっぽい可愛らしい見た目で、頭が大きく体が小さい、いわゆるデフォルメ仕様だ。明らかに子供なのに、長い髪を後ろで一つに結い、太刀を腰に佩いた姿はいっぱしの武士のようで頼もしい。
自由行動のとき、川嶋は「一緒に回る?」と言ってくれたが、その瞬間、グループの他の人たちは、明らかに表情を曇らせた。
修学旅行にあわせて髪は黒に戻していたけれど、自分がクラスメイトと一緒にいてあまり喜ばれる人間でないことは子供の頃からわかっている。一緒にいたくないという彼らの内心を察し、「俺は行きたいところがあるから別行動にする」と断った。
かと言って、本当に行きたいところがあったわけではない。
どこで時間をつぶそうとスマホで京都の観光地を眺めていて、鞍馬寺が目に留まった。
源氏の頭領だった父親を殺され、敵の妾となった母親と引き離された源義経――牛若丸が預けられた寺であることを思い出したら、自然と足が向いていた。
11歳で寺に預けられた牛若丸は、寺のある鞍馬山で天狗に出会い、武術を学んだという逸話が残されている。
きっと俺なんかよりずっとずっと辛い思いをたくさんしたに違いない。人は孤独でも、貧しくても、目標さえあれば心を強く保ち、生きられる。山道を歩いていたときに思ったそんな気持ちが胸に込み上げてきて、殺伐とした気持ちが少しだけ軽くなった。
子供の頃から期待しないことには慣れている。
川嶋のことも、別に何かを期待していたわけじゃない。あんなにみんなから慕われて、人としてもできた人間を怒らせてしまった自分という人間のくだらなさに、思いのほか落ち込んでいるだけだ。
「じゃ、響。おかあさん、もう出るからね」
「行ってらー」
返事をした直後、玄関ドアが閉まる音がする。
バイトに行くために制服を着替え始めて、思い出した。母親から金をもらわないと、現金の持ち合わせがほとんど底をついていたことを。
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