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ご主人様は苦労性
気になるあいつ
しおりを挟む「昴陽~」
クラスで俺のことを下の名前で呼ぶ人間は限られている。
振り返ると、クラスのムードメーカーである朝倉怜央が、ヤンチャな笑顔で手を振っていた。
「飯、食べようぜ」
修学旅行明けの月曜日から連続して、水曜日の今日で三日目。1年の時に同じクラスだったり、中学が一緒だったり、部活が一緒だったり、といった知り合い同士で構成された、朝倉を中心とした四人組に、昼食に誘われるようになった。呼び方も、班決め以降、「川嶋君」から「昴陽」に変わっている。
修学旅行前なら、朝倉に名前で呼ばれ、昼食に誘われれば、少なからず気持ちが浮き立っていただろう。だが、今は正直、少し面倒に感じ始めていた。
机を寄せて一緒に弁当を食べるだけならいいが、このグループはその後も昼休みが終わるぎりぎりまで、だらだらと雑談していることが多い。さして興味のある話題もなく、作り笑いを浮かべて聞き役に徹する時間は、時間の無駄としか思えない。
旅行中は六人組の班だったのに、名前で呼ばれるようになったのも昼食に誘われるのも俺ばかりということにも、釈然としないものを感じていた。
それでも、昨日までは断る理由も見つからず、呼ばれれば輪に加わり、食後も雑談に興じるふりをしていた。
三日目ともなれば、今日も一緒に食べたら、クラスが変わる3月までそれが続くのではないかという億劫な気持ちが湧いてくる。
朝倉のことは好きだ。
修学旅行中、夜中にこっそりキスをしたくなるような衝動が、友愛の域を越えていることは自覚している。
昔から俺がひそかに好意を抱くのは、朝倉のような、自分とは真逆のタイプの素直で愛嬌のある男子だった。
告白されて何人か女子と付き合ったこともあるが、子どもの頃から母親に過剰に構われていたせいか、ベタベタと馴れ馴れしく接してくる女子に母親と同じ匂いを感じてしまって、二人きりの時間が苦痛だった。
可愛いと思う相手が全員男だったことから、高校に入る頃には、自分の恋愛対象は同性だと自覚していた。
でも、俺にとっては好ましく思うのと「一緒にいたい」は必ずしも同義ではない。
人と話をすることに義務的なものを感じるから、人といることを素で楽しんでそうな人間に憧れるのかもしれない。
誘いに乗るか、何か適当に理由をつけて断るか――そんな迷いから無意識に視線を泳がせていた。逸らした先で、渡辺がバッグを手に椅子から立ち上がるのが目に入る。
「あ、俺……、昼休みに熊さんに呼ばれてたから、先にそっち行ってくる」
咄嗟にそんな嘘が口を衝いて出ていて、教室を出る渡辺の後を追っていた。
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