仮面王子は下僕志願

灰鷹

文字の大きさ
15 / 64
ご主人様は苦労性

口止め料

しおりを挟む



「ノートと教科書、汚れたら困るだろ? 横に避けといたら?」

「あ、いや……、ていうか、なんで……」

 弁当に見入っていた渡辺の声が、急にトーンダウンする。

「なんで?」

 問い返すと、彼は周囲をうかがうように首を小さく左右に振った。

「修学旅行中、俺、あんなこと言ったのに……」

「だからだろ」

 俺は手を動かそうとしない彼に代わり、広げてあった数学の教科書とノートを閉じ、シャーペンと一緒に脇へと寄せた。
 空いたスペースに、蓋の開いた弁当箱を押しやる。

「これは口止め料」

 本気でそう思っているわけではないが、それ以外に答えようがない。
 「昼飯くらい俺にタカればいーじゃん」と言ったとき、渡辺は「そんな犯罪行為、するわけないだろ!」と俺を睨みつけてきた。あの瞬間、だったら、俺の弁当なら食べてくれるかなと思い立った。そう思った理由は、自分でもよくわからない。
 
 渡辺が、ずずず、と弁当箱を押し返してくる。

「それでも、これは川嶋のお母さんが川嶋のために作ったものなんだから、もらえないって。そのかわり、そのパン、俺が食べてもいい? もちろん、お金は払うけど……、ごめん。返すのは少し先になるかもしれない」

 渡辺が顔を俯かせ、髪の隙間から見える耳がまたじわじわと赤く染まっていく。

 廊下で彼の腹が鳴ったときと同じだ。 
 そんな顔をさせてしまうことに罪悪感を覚える。でも、その恥じらいと困惑を刻んだ表情をもっと見てみたいと思う愉悦のようなものが、胸の内でじんわりと熱を帯びていく。思わず彼の前髪に伸ばしそうになった手を一度ぎゅっと握り込み、再び弁当箱を押し返した。すかさず、自分の前には買ってきたコロッケパンを引き寄せる。

「このコロッケパン、前に朝倉が食べて『おいしい』って言ってたから、ずっと食べてみたかったんだ。弁当が残ったら捨てることになるから、食べてくれるとありがたい」

 朝倉の名前を出せば、聞き入れてもらえる予感があった。
 渡辺は俺と弁当の間で困ったように視線を往復させていたが、俺はかまわずコロッケパンにかぶりついた。

 冷えたコロッケは油を吸った衣が歯にまとわりつき、中の具はねっとりとしていて喉につかえそうだ。甘すぎるソースの味は三口目で飽きがくる。リピはないなと思う購買のコロッケパンに、普段の自分がいかに恵まれていたかを思い知らされる。かといって、弁当を渡辺に食べてもらうことに後悔があるわけじゃない。
 ただ、自分の思いつきの行動が施しのように受け取られないかだけが不安だった。



しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

処理中です...