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SOS
予想外
しおりを挟むバイトと課外授業に追われた夏休みは、普段より授業数が少ないくらいで、さして変わり映えのない毎日だった。それでも、お盆休みまでは、昼休みや登下校中、川嶋と一緒にいることが多く、人生で初めての「好きな人と過ごした夏」になった。
「バイトがなかったら一緒に花火に行きたかったけど」とも川嶋は言ってくれた。もちろん二人きりとかじゃない。打ち上げ花火の写真を送ってくれて、朝倉たちも同じ日に花火に行った話をしていたから、もともと朝倉たちと行く予定で、おまけで俺も誘おうとしてくれたのだろう。
お盆休みが明けてからは、川嶋が忙しくなり、俺も、遅刻ギリギリの時間に家を出るようになったので、教室で顔を合わせるくらいで会話のない日々が続いていた。
川嶋はお盆休みに朝倉たちと軽井沢に旅行に行っている。旅行の話に触れないのも不自然だし、かといって朝倉との思い出を嬉しそうに話されるのもちょっとキツイ。だから、寂しさを感じつつも少しホッとしていた。
そうして慌ただしく夏休みが終わり、一週間もしないうちに今度は文化祭の準備に追われることになった。今年は9月の連休中に一泊二日の日程で予定されている。うちの学校の文化祭は一・二年生が主体で、三年生は見学のみの自由参加となる。すなわち、俺たち二年生は、主催側としては今年が最後の文化祭になる。
新学期最初のロングホームルームで話し合った結果、クラスの出し物は謎解きラリーに決まった。校内にいくつかチェックポイントを設けて謎を仕掛け、参加者は地図を手に一つ一つミッションをクリアしていく。正解率に応じて景品が当たる仕組みだ。景品代や準備にかかる費用はそれぞれのクラスに割り振られる予算内で準備することになっている。
演劇のように大掛かりな舞台装置も要らないし、模擬店に比べて当日の人手もほとんど必要ない。手間がかからないけど、正直あまり盛り上がる出し物ではなかった。
その日の放課後から準備が始まった。
朝倉たちのグループが物品の買い出しに手を上げ、彼らが帰ってくるまでの間、他の人たちは謎解き用のクイズを考えることになった。
仲のよい人たちで自然に輪ができ、皆がスマホを眺めながらわいわいとクイズの相談を始める中、例のごとく俺はその輪に加わることもなく、自分の席でスマホを開こうとしていた。
「じゃあ、何か途中で他に要るものを思い出したときは電話して。……渡辺君!」
文実委員たちと話していた朝倉が急にこちらを向き、声をかけてきた。川嶋抜きで、俺だけが朝倉に声をかけられることなんてない。内心では「急になに?」とドキドキしていたが、平静を装って顔を上げた。
「渡辺君も一緒に買い出しに来てくれない? 俺たちだけだと荷物を持てないかもしれないから」
なぜ俺が誘われたのかは謎だが、居場所のない教室から抜け出せるのは正直ありがたかった。
「わかった」
けれど、腰を上げると同時に、別の声が飛んでくる。
「買い出しなら俺も行く」
川嶋だった。
彼も、今まで文実委員たちと話し込んでいたから、かなり慌てて名乗りを上げた感じだった。
お盆休み以降、川嶋と相方の女子のクラス委員は、文化祭実行委員の二人から相談され、昼休みも放課後もほとんど四人で膝を突き合わせて話し合っていた。
新学期が始まってから文化祭本番まで一カ月もない。何の叩き台もなしにホームルームで出し物の希望を募り、プランを練ったのでは、話し合いに時間を取られ準備期間がなくなってしまう。
そこで、あらかじめ四人で実現可能な出し物の候補を挙げ、予算や時間をシミュレーションした上でホームルームで提示し、クラスの総意をまとめる方針にしたようだ。おかげで個々が好き勝手に希望を言うこともなく、候補の一つで一番労力のいらなそうな謎解きラリーにすんなりと決まった。
ただ、そんな感じで川嶋が忙しくしていたから、朝倉と喋っているところもほとんど見かけなかった。急に買い出しに行きたいと言い出したのは、久々に彼とゆっくり話したいからかと思った。
「あ……、じゃあ川嶋が行くんなら俺は必要ないよね」
そう言って、川嶋に買い出しの手伝いを譲ろうとしたのだが。
「昴陽は教室に残ってたほうがみんな色々相談できるから、残ってあげて。買い出しは渡辺君が手伝ってくれたら十分だから」
予想外に、朝倉は俺を選んだのだった。
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