仮面王子は下僕志願

灰鷹

文字の大きさ
44 / 64
SOS

予想外

しおりを挟む
       

                                               
 バイトと課外授業に追われた夏休みは、普段より授業数が少ないくらいで、さして変わり映えのない毎日だった。それでも、お盆休みまでは、昼休みや登下校中、川嶋と一緒にいることが多く、人生で初めての「好きな人と過ごした夏」になった。
「バイトがなかったら一緒に花火に行きたかったけど」とも川嶋は言ってくれた。もちろん二人きりとかじゃない。打ち上げ花火の写真を送ってくれて、朝倉たちも同じ日に花火に行った話をしていたから、もともと朝倉たちと行く予定で、おまけで俺も誘おうとしてくれたのだろう。

 お盆休みが明けてからは、川嶋が忙しくなり、俺も、遅刻ギリギリの時間に家を出るようになったので、教室で顔を合わせるくらいで会話のない日々が続いていた。
 川嶋はお盆休みに朝倉たちと軽井沢に旅行に行っている。旅行の話に触れないのも不自然だし、かといって朝倉との思い出を嬉しそうに話されるのもちょっとキツイ。だから、寂しさを感じつつも少しホッとしていた。 
                                                          
 そうして慌ただしく夏休みが終わり、一週間もしないうちに今度は文化祭の準備に追われることになった。今年は9月の連休中に一泊二日の日程で予定されている。うちの学校の文化祭は一・二年生が主体で、三年生は見学のみの自由参加となる。すなわち、俺たち二年生は、主催側としては今年が最後の文化祭になる。

 新学期最初のロングホームルームで話し合った結果、クラスの出し物は謎解きラリーに決まった。校内にいくつかチェックポイントを設けて謎を仕掛け、参加者は地図を手に一つ一つミッションをクリアしていく。正解率に応じて景品が当たる仕組みだ。景品代や準備にかかる費用はそれぞれのクラスに割り振られる予算内で準備することになっている。
 演劇のように大掛かりな舞台装置も要らないし、模擬店に比べて当日の人手もほとんど必要ない。手間がかからないけど、正直あまり盛り上がる出し物ではなかった。

 その日の放課後から準備が始まった。
 朝倉たちのグループが物品の買い出しに手を上げ、彼らが帰ってくるまでの間、他の人たちは謎解き用のクイズを考えることになった。
 仲のよい人たちで自然に輪ができ、皆がスマホを眺めながらわいわいとクイズの相談を始める中、例のごとく俺はその輪に加わることもなく、自分の席でスマホを開こうとしていた。

「じゃあ、何か途中で他に要るものを思い出したときは電話して。……渡辺君!」

 文実委員たちと話していた朝倉が急にこちらを向き、声をかけてきた。川嶋抜きで、俺だけが朝倉に声をかけられることなんてない。内心では「急になに?」とドキドキしていたが、平静を装って顔を上げた。

「渡辺君も一緒に買い出しに来てくれない? 俺たちだけだと荷物を持てないかもしれないから」

 なぜ俺が誘われたのかは謎だが、居場所のない教室から抜け出せるのは正直ありがたかった。

「わかった」

 けれど、腰を上げると同時に、別の声が飛んでくる。

「買い出しなら俺も行く」

 川嶋だった。
 彼も、今まで文実委員たちと話し込んでいたから、かなり慌てて名乗りを上げた感じだった。

 お盆休み以降、川嶋と相方の女子のクラス委員は、文化祭実行委員の二人から相談され、昼休みも放課後もほとんど四人で膝を突き合わせて話し合っていた。
 新学期が始まってから文化祭本番まで一カ月もない。何の叩き台もなしにホームルームで出し物の希望を募り、プランを練ったのでは、話し合いに時間を取られ準備期間がなくなってしまう。
 そこで、あらかじめ四人で実現可能な出し物の候補を挙げ、予算や時間をシミュレーションした上でホームルームで提示し、クラスの総意をまとめる方針にしたようだ。おかげで個々が好き勝手に希望を言うこともなく、候補の一つで一番労力のいらなそうな謎解きラリーにすんなりと決まった。

 ただ、そんな感じで川嶋が忙しくしていたから、朝倉と喋っているところもほとんど見かけなかった。急に買い出しに行きたいと言い出したのは、久々に彼とゆっくり話したいからかと思った。

「あ……、じゃあ川嶋が行くんなら俺は必要ないよね」

 そう言って、川嶋に買い出しの手伝いを譲ろうとしたのだが。

「昴陽は教室に残ってたほうがみんな色々相談できるから、残ってあげて。買い出しは渡辺君が手伝ってくれたら十分だから」

 予想外に、朝倉は俺を選んだのだった。



しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

処理中です...