水死体引き上げ人

Nebu

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李追遠(リー・ジュイユアン)の頭にあるのは一つの念だけだった。帰郷網(ききょうあみ)の効果はまだ続いているのか?

潤生(ルンション)も見えないし、網も見えないが、自分はまだその範囲内にいるはずだ。

足元の影がゆっくりと伸び、左に傾きながら揺れている。それは「彼」がゆっくりと近づいていることを意味する。

恐怖が募る。

李追遠は再び、ひざまずいて哀願する豹哥(バオ兄貴)と趙興(チャオ・シン)を見た。彼らの視線は自分に合っていない。

自分が小さくてしゃがんでいることと、背後の「彼」が大きいため、視線の高さが違うのだ。

つまり、網の効果はある。「彼」には自分が見えていない!

だが問題は距離だ。あと数歩でぶつかってしまう。

李追遠はしゃがんだまま、音を立てないように足をずらした。潤生の方へ、横移動するしかない。網の範囲外に出れば終わりだ。

カニのように横歩きする。

最後の一歩。足を動かした瞬間、大きな足が踏み下ろされた。半拍遅れていれば踏まれていた。

視界に入ってきたその足は高度に腐敗していたが、肉が落ちた部分は黄色がかった白い肉腫で埋められていた。

水甕の中の太歳(たいさい)と同じ色だ。

蒋家の連中はこれを宝物として食べ、煮炊きに使っていたのか。

視線を上げる。全裸だ。池の白骨死体と同じく、埋める前に脱がされたのだ。蒋東平だけが服を着ていたことから、これが被害者の成れの果てだと確信できる。

全身が腐敗しているが、太歳のような物質が接着剤のように骨と肉を繋ぎ止めている。

左足が外側に曲がっている。跛行(はこう)していた理由だ。

死倒(スータオ)は墓石の前で止まり、ひざまずいた。

李追遠はその墓石を改めて見た。大きくて隠れやすいと思っていたが、夫婦の合葬墓だった。

夫の姓は「周(ジョウ)」。

やはり、豹哥が埋めた周某だ。彼は蒋東平に殺され、死倒となって復讐を果たし、両親の墓前に来たのだ。

死亡年月は二年前。夫婦の死亡時期は一ヶ月しか違わない。

映画ポスターのカレンダーや梅姐(メイねえ)の店のポスターから推測するに、豹哥は二年前にこの仕事で大金を得て店を開いたのだ。

死倒は声もなくひざまずいているが、周囲には豹哥と趙興の悲鳴が響き渡っている。

わざと殺さずに苦しめたのは、仇の悲鳴こそが最高の供物だからだ。

だが徐々に、死倒の頭が微かに動き始めた。

鼻をひくつかせ、ゆっくりと李追遠の方へ顔を向け始めた。何かを察知したようだ。

心臓が飛び出しそうだ。今日の目的は実戦テストだが、対象は豹哥と趙興という雑魚のつもりだった。潤生と新しい道具があれば勝てる。

だが、伥(ちょう)を操る死倒は格が違う。いきなりボス戦はきつい。

それに、こいつは被害者だ。蒋東平ならともかく、こいつを倒すのは気が引ける。

だが目が合いそうになったその時、死倒の体から黒い霧が立ち昇り始めた。体内の水分が蒸発するように。

死倒は顔を戻し、墓石に向き直った。喉の奥から軋むような音がし、全身の太歳が震え始めた。

猫顔の老女の時と同じだ。怨念が消えようとしているのだ。

『江湖志怪録』にはこうある。

【死倒は江湖の怨気と穢気より生ず。】

【もし怨念解けざれば、江湖沼沢の地を彷徨い、人間に害をなす。天道をもってこれを鎮殺すべし。】

李追遠はこの「怨念解けざれば」という言葉を気にしていた。

怨念が晴れれば消えるのではないか? 黒猫もそうだった。

本では「解けない」ことが前提で鎮殺法ばかり書かれているが、それは当時の「政治的正しさ(邪悪なものは滅ぼすべき)」によるものではないか。

魏正道(ウェイ・ジェンダオ)はわざとこの一句を入れ、裏口を残したのだ。「怨念が解ければ」消えると。

だが正道の士が邪物の復讐を手伝うなど許されない。だから書かなかったのだ。

だが李追遠と太爺が遭遇する事件は、いつも「怨念が解ける」方向へ進んでいる。

やはり、自分たちは「正道」ではないらしい。

……

蒋家の取り調べが進んでいた。

人の死は珍しくないが、殺人となれば話は別だ。一つの池から三つの死体が出れば、大事件だ。市警も注目し、専従捜査班が来るだろう。

譚雲龍はプレッシャーを感じていた。早期解決が唯一の道だ。

彼は蒋家の人間を自ら尋問した。彼らは蒋東平がいなければ烏合の衆だ。誘導尋問で罪を死んだ蒋東平に押し付けさせると、すぐに崩れて余罪を吐いた。

ただ、周姓の被害者の死体が見つからない。

左足骨折の痕跡があるはずだが、白骨死体にはなかった。

蒋東平が周某を騙して殺し、共犯の趙某も逮捕された。趙某は最近息子を亡くしたばかりで、因果応報だと噂されている。

譚雲龍は信じないが、悪人に報いがあるのは歓迎だ。

問題は、消えた周某の死体と、謎の死を遂げた蒋東平の死体の説明だ。

まあ、周某は別の場所へ捨てられ、蒋東平は内輪揉めで殺されたことにすればいい。どうせ悪人だ。

譚雲龍はタバコを吸いながら、あの掘り返された形跡のない池に、どうやって蒋東平の新鮮な死体が埋まったのか考えていた。

だが現場は荒らされており、証明は不可能だ。

「譚隊長、書類ができました」

「よし、徹底的に洗え」

「李大爺はまだいますか?」

「いますよ。王(ワン)法医と話し込んでます。授業みたいでした」

王法医は若いが冷徹で、独身男性警官たちをことごとく撃沈してきた才媛だ。

譚雲龍は李追遠の言葉を思い出し、民間人にも侮れない能力者がいることを認めた。

電話が鳴った。

「はい。分かりました」

譚雲龍は立ち上がり、服を整えた。

「市警の専従班が来た。報告に行くぞ」

……

墓前で、死倒からの黒霧の噴出が激しくなった。もうすぐ解脱する。

なぜこんなに加速したのか? 警察の捜査のおかげか? そんなに効率がいいのか?

ベチャッ! ベチャッ!

黒霧と共に体が縮み、太歳が破裂して膿が飛び散った。強烈な生臭さが漂う。

これが「水屍臭(すいししゅう)」だ。古い水死体特有の臭いだ。

肉が剥がれ落ち、氷が溶けるように体が小さくなっていく。

ドロドロの中に、黒くて丸いものが見えた。銅銭のようだ。

だが、異変が起きた。

死倒が白骨化した手を伸ばし、跪く豹哥と趙興を指差した。

最後の供物として道連れにするつもりだ。だが消滅が早すぎて、上げた手が力なく落ちた。

黒猫のように怨念を抑え込む力がなかったのだ。失敗だ。

束縛を解かれた豹哥と趙興が、ボロボロの体で立ち上がった。壊れたマネキンのようだ。

その目には凄まじい怨毒が宿っていた。拷問が彼らの凶暴性を極限まで高めたのだ。

彼らは別の墓石に向かって歩き出した。現実世界で二人のチンピラが跪いている場所だ。

カチャッ……

溶け崩れた死倒の頭が、辛うじてこちらを向いた。白骨の手もわずかに動いた。

李追遠には彼の言いたいことが分かった。阿璃の微細な表情を読むのと同じだ。

李追遠は頷いた。

「安心して行きなよ。警察が正義を行ってくれる。あの二人は、僕が片付けるから」

少年が言い終わると、頭部の肉も剥がれ落ち、完全な白骨となって崩れ去った。

両親の墓前での消滅。一家団欒だと思いたい。

李追遠は今まで、帰郷網の効果を確信していなかった。だが死倒がこちらを見たということは、やはり見えていたのだろうか?

チリン……

黒い銅銭が転がり、李追遠の前に止まった。

触る勇気はない。これがあの太歳化の原因かもしれない。

突然、めまいと激痛が襲ってきた。何が起きたか分かった。

「小遠、起きろ! 起きろ!」

潤生の声だ。揺さぶられている。

「ふぅ……やっと起きたか」

「潤生兄ちゃん、力強すぎだよ」

「ああ、ごめん。あいつらが立ったんだ」

見ると、二人のチンピラがこちらへ向かってきていた。網のおかげで見えていないが、距離は近い。

「小遠、どうする?」

潤生は黄河鏟を握りしめていた。

「やっておしまい」

「おう!」

潤生は吼え、網を跳ね除けて飛び出した。

チンピラたちは突然現れた人間に驚いて後ずさった。

だが潤生はお構いなしにシャベルを振り下ろし、一人の腕を砕いた。

ボキッ!

腕を折られたチンピラは悲鳴も上げず、潤生に組み付いた。

潤生はシャベルの柄をテコにして引き剥がそうとしたが、もう一人が背後から噛み付いてきた。狂犬のようだ。

「痛っ……」

潤生は痛みに顔を歪めたが、その目は興奮に輝いていた。普段の彼とは別人のようだ。

潤生も口を開け、チンピラの首に噛み付いた。

バリッ!

チンピラはただ噛んだだけだが、潤生は食いちぎった! 皮肉がめくれ、顔中血だらけになったが、さらに興奮している。

伥(ちょう)は所詮下級の霊だ。操っている趙興と豹哥も、根性なしのボンボンとチンピラに過ぎない。

北爺さんが言っていた。「チンピラの中に英雄を探すのは、糞の中に金を探すようなものだ」。

潤生の気迫に押され、彼らは自分が幽霊であることを忘れて逃げ出した。

潤生兄ちゃん、強すぎる。いい道具を持たせれば、さっきの死倒ともやり合えたかもしれない。

李追遠も動いた。

右手で七星鈎を持ち、左手の印泥をつけて振り抜くと、七節が伸びて赤く染まった。

馬歩の姿勢から、逃げるチンピラの足首を払う。先端がカマキリの鎌のように開き、足首を捕らえた。

ドサッ!

チンピラは顔面から倒れた。『正道伏魔録』下巻の技だ。

「ギャアア!」

チンピラは足首を抱えて悲鳴を上げた。李追遠は帰郷網を被せた。

もう一人は潤生に押し倒され、顔面を殴打されていた。一発で顔中血だらけだ。

「潤生兄ちゃん!」

李追遠が叫ぶと、潤生は震えて二発目を止めた。表情が狂気から木訥に戻った。

二発目を打っていれば死んでいただろう。殺すのが怖いわけではないが、面倒は避けたい。

「これを使って」

李追遠は黒帆布を投げた。阿璃が彫った木片入りだ。

潤生が被せると、チンピラはのたうち回り、白煙が上がった。煙の中に趙興の顔が見えたが、すぐに消えた。

潤生が鼻息を確認した。

「生きてる」

黒帆布の効果は抜群だ。

李追遠は網の下のチンピラに、自作の符を貼ってみた。

黒くなって落ちる。二枚目、三枚目……全部黒くなったが、白煙は出ない。

李追遠は沈黙した。黒くなる=反応はあるが、それだけだ。

「潤生兄ちゃん、帆布貸して」

「へいよ」

帆布を被せると、白煙と共に豹哥の顔が浮かんで消えた。

帆布を見ると、真ん中に穴が開き、中の木片も黒くなっていた。作り直しだ。

墓石の前の黒い銅銭を処理する。

「潤生兄ちゃん、穴掘って」

「了解」

しばらくして見ると、潤生は人間が埋まるほどの深い穴を掘っていた。

「何してるの?」

「え、こいつらを埋めるんじゃないのか?」

「違うよ。銅銭を埋めるんだ」

「ああ、そうか」

「手で触らないで。シャベルで」

李追遠はシャベルに印泥を塗り、潤生に銅銭をすくい上げさせて穴に入れた。

「そこの土壁も直して。骨壷が見えちゃってるよ」

「あ、はい」

穴を埋め戻し、石で目印をつけ、骨壷の方角に拝んだ。

「お騒がせしました。銅銭の見張りをお願いします。次回取りに来る時、紙銭を焼きますから」

危険性が分かるまでは触らない。

シャベルを見ると、赤い印泥が白く変色していた。あの銅銭は相当凶悪だ。

「行こう、潤生兄ちゃん」

「帰るのか?」

「派出所へ」

「またか?」

「願解きだよ」

……

譚雲龍は仮眠から覚めてオフィスに戻ると、少年が座っているのを見た。

お茶を淹れて出し、聞いた。

「死体はどこだ?」

「うーん……譚おじさん、話が飛びすぎだよ」

「前回ここに来た時は死体の場所を教えに来た。今回もそうだろう?」

「西郊村と東郊村の境の墓地。気絶した二人の男もいるよ」

「死体遺棄の共犯か?」

「それは警察の仕事だよ」

「ありがとう、小遠。本当に助かったよ」

「太爺の教えさ。警民魚水の情だよ」

「戸籍はどこだ?」

「おじさん、子供を怖がらせないで」

「ただの世間話さ。息子もお前より少し年上だからな」

「息子さんとの仲、悪いでしょ」

図星だった。

「捜査は順調?」

「ああ。この死体が確認できれば結審だ」

「よかった」

李追遠はお茶に口をつけ、すぐに置いた。熱い。

「帰るよ。おじさん忙しいでしょ」

「送らせよう」

「いいよ。運転手が待ってるから」

少年が出て行くと、譚雲龍は廊下の警官を呼び止めた。

「小張、李大爺は帰ったか?」

「さっき帰りました。呼び戻しますか?」

「いや、いい。数人集めてくれ。死体を拾いに行くぞ」

「スペアリブ(排骨)ですか? 今夜は宴会ですか?」

……

派出所の前で、李追遠は看板を抱きしめた。

今回の早期解決は、この看板のおかげかもしれない。

車が出入りできるようになり、反対側を見ると、老人が同じように看板を抱きしめていた。

目が合った。

二人は黙って手を離した。

「いやぁ、見ると抱きつきたくなってな」

李三江は服の埃を払った。

「小遠、まだ帰ってなかったのか?」

「太爺を迎えに来たんだよ」

「おお、そうか。帰ろう」

……

帰宅後、李追遠は二階でシャワーを浴び、潤生は井戸端で水を浴びた。

柳玉梅はそれを見てため息をついた。

夕食前、柳玉梅が呼んだ。

「小遠、ちょっとおいで」

阿璃もついてきた。

東の離れに入ると、位牌の方ではなく、寝室に通された。

ベッドの半分に、健力宝の缶が整然と並べられていた。間隔も均等だ。

柳玉梅と阿璃が寝る場所がない。

「柳お婆ちゃん、空き箱ある?」

「あるよ」

李追遠は缶を箱に詰め始めた。

「この箱をいっぱいにしよう。どう?」

阿璃は顔を上げ、手伝い始めた。

柳玉梅は諦め顔だ。自分の説得より少年のひとことだ。

「小遠、引き返したいかい?」

「ううん」

「険しい道だよ」

「簡単な道じゃつまらないよ」

夕食後、テレビを見て馬歩をし、部屋に戻って反省会をした。

一、墓地などの特殊環境は事前調査が必要。

二、入夢(走陰)前の安全確保。

三、正道を行かない方が解決が早い。

道具のテスト結果も記録した。符の項目でペンが止まる。

「符の効果:付近の汚れを検知し、変色する」

ノックの音がした。

「小遠侯、太爺は風呂に入るから、部屋で待ってなさい」

「はーい」

李三江の部屋に入ると、いつものように蝋燭と陣法があった。

だが今日の陣法は違っていた。

『金沙羅文経』が開かれている。まだ模写が必要なのか。

李追遠は本を見て、床の陣を見た。

「ん?」

もう一度見比べる。

「今回は……合ってる?」

正しく描けている。

だが喜べない。間違っている方が制御可能だ。正しい陣法が何を引き起こすか分からない。

太爺の福運転送の目的は知っている。自分を普通の子に戻すためだ。

だがそれは望んでいない。

それに、太爺の強大な福運をまともに受けたらパンクするかもしれないし、太爺に何かあっても困る。

「太爺、晩年は安らかに過ごしてよ」

李追遠はしゃがみ込み、朱砂と雑巾を取り、正北の角を消して描き直した。

本来内向きの角を、外向きにした。南北の角は内向きが正しい。

陣法全体から見れば小さな変更で、気づかれないはずだ。

「小遠、小遠!」

潤生が呼んでいる。

「今行く」

下りていくと、潤生がアンテナをいじっていた。

「映らないんだよ」

「雷が鳴りそうだから電波が悪いんだよ。明日は山大爺に会いに行くから早く寝なよ。直らなかったら修理に出そう」

「金あるのか? 修理は高いぞ」

「明日には金が入るよ」

……

風呂上がりの李三江が赤パンツ一丁で部屋に入ってきた。

「あれ、小遠侯は?」

タオルを床に投げ、タバコを取ろうとして、タオルを踏んで滑った。

さすがに身のこなしは軽く、手をついて膝を軽く打っただけで済んだ。

膝を見ると赤い。血か? いや、朱砂だ。

床を見ると、正南の陣の一部が消えていた。

「ありゃ、ここはどうなってたっけ?」

何度も描いているので対称性は覚えている。正北を見る。

「ああ、外向きか」

李三江は慎重に朱砂で補修し、満足げに頷いた。

タバコを咥え、蝋燭に火をつける。

李追遠が戻ってきた。

「どこ行ってたんだ」

「へへ、来ましたよ」

「座りなさい」

李追遠は座り、正北を確認した。外向きのままだ。よし。

李三江も座り、符に火をつけ、呪文を唱え、床を叩いた。

「一、二、三!」

パンッ!

暗闇が、瞬時にすべてを飲み込んだ。
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