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3章 死神が誘う遊園地
夢みる幸福 8
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様々な話を黙って聞いた。首はハザマ側におり、追放されたこと。夢園は瑠璃を守るために作った楽園であること。
「ここまで築きあげるのにどのくらいの命を奪ったんだ?」
誰かを守る為とはいえ、共感できる話ではない。少なくともカンダタたちの前では2人、命と魂が散った。
「目的を果たす為だ。消費される量は考えていられない」
やはり、塊人だ。道理が伝わらない。
「夢園は完璧な砦としてもうすぐ完成する。そうなれば封鎖された空間になり、誰も寄り付けなくなる。気掛かりがあるなら」
「俺のことか」
首は気まずそうに頷く。
「カンダタの黒蝶は分離しようがない。基板にまで侵食している」
「きばん?」
「魂の根幹にあたる部分だ。輪廻は記憶・思想などを洗い落とし、基板を真っ新な状態にして現世に流す。カンダタの基板も輪廻に流してやたいができない」
「そこも黒蝶に侵略されていているから」
「流してしまえば黒蝶を宿したまま生を受ける。我々は輪廻の先を知らない。どこに流れ、生を受けたのかも把握できない」
「なら俺はどうするんだ?処分か?保管か?」
やけくそになったぶっきら棒な言い方。
「破壊だ」
そんなカンダタにも首は丁寧に教える。
「魂を基板ごと砕く。使える破片は燃料に、黒蝶の部分は冷却する」
自分のことを聞かされているはずが、他人事のようだ。
「生前のカンダタはハザマや亡霊とは無関係の人間だった。だが、紅柘榴と関わってしまったがために君の人生が狂った」
「彼女を知っているのか?」
どんな説明にも関心を示さなかったカンダタが彼女の名前を上がった途端、僅かな生気が戻った。
「知っているよ。カンダタが死んだ後、彼女がどうなったかも」
それを聞くのは躊躇われたが、首は迷う時間も与えず話す。
「紅柘榴はカンダタの後を追って自ら命を絶った。私が見つけた時には遅かった」
僅かに戻った生気は絶望に変わった。
春の匂いを纏って微笑む紅柘榴。カンダタの胸に耳をあてては「生きてる」と安心して微睡み、「隣にいたい」と言ってくれた。
命を絶った?自ら?
紅柘榴と共に生きれたら。それが本望だ。
カンダタが死に、残された紅柘榴が生きていくのは寂しさもある。だが、彼女には幸せになって欲しかった。そんな切ない願いも叶わなかった。
止め処もなく涙が流れる。抑えようと手で瞳を覆っても両の手で受け止められる量ではなかった。涙は指の隙間から溢れては冷たいコンクリートの上に落ちる。
「こう、考えればいい」
首が慰めるように語りかける。
「紅柘榴は輪廻に流されて、新しい人生を歩んでいる、と。そこで彼女は平和に暮らしている」
「それは、違う人だ」
カンダタは涙と嗚咽を混ぜた言葉を吐き捨てる。
「あんたらにはわからない。俺は、俺が幸せになって欲しかったのは」
紅柘榴として生きた彼女だ。紅柘榴の記憶も消え、思想もない。魂の根幹が同じであっても、一から人生を歩み出した彼女は紅柘榴ではない。別人なのだ。紅柘榴として生きた彼女が紅柘榴として幸せになってほしかった。
怒りすら湧いてこない。激情は涙となってカンダタの感情が削れていく。
「翡翠、政蔵博士に伝えてくれ。作業はしばらくしてから行うと」
「はい。只今、翠玉が政蔵博士の隣にいます。翠玉に電令を送り、言伝してもらいます」
「わかった。 作業が開始されるまで泣いておくといい」
それ以上、首が声をかけることはなかった。同情や慰めといったものは無意味だと悟った。
首は踵を返し、暗闇の中を歩いていく。翡翠も父親の後をついて行こうとしたが、不意に立ち止まるとカンダタに戻る。
そして、小さな手が項垂れるカンダタの頭を撫でた。見上げると翡翠の無感情な眼差しと目が合う。
翡翠は何も言わず、手を離すと暗闇の中へと早足で向かった。
暗闇に残ったのはカンダタだけでだった。
「ここまで築きあげるのにどのくらいの命を奪ったんだ?」
誰かを守る為とはいえ、共感できる話ではない。少なくともカンダタたちの前では2人、命と魂が散った。
「目的を果たす為だ。消費される量は考えていられない」
やはり、塊人だ。道理が伝わらない。
「夢園は完璧な砦としてもうすぐ完成する。そうなれば封鎖された空間になり、誰も寄り付けなくなる。気掛かりがあるなら」
「俺のことか」
首は気まずそうに頷く。
「カンダタの黒蝶は分離しようがない。基板にまで侵食している」
「きばん?」
「魂の根幹にあたる部分だ。輪廻は記憶・思想などを洗い落とし、基板を真っ新な状態にして現世に流す。カンダタの基板も輪廻に流してやたいができない」
「そこも黒蝶に侵略されていているから」
「流してしまえば黒蝶を宿したまま生を受ける。我々は輪廻の先を知らない。どこに流れ、生を受けたのかも把握できない」
「なら俺はどうするんだ?処分か?保管か?」
やけくそになったぶっきら棒な言い方。
「破壊だ」
そんなカンダタにも首は丁寧に教える。
「魂を基板ごと砕く。使える破片は燃料に、黒蝶の部分は冷却する」
自分のことを聞かされているはずが、他人事のようだ。
「生前のカンダタはハザマや亡霊とは無関係の人間だった。だが、紅柘榴と関わってしまったがために君の人生が狂った」
「彼女を知っているのか?」
どんな説明にも関心を示さなかったカンダタが彼女の名前を上がった途端、僅かな生気が戻った。
「知っているよ。カンダタが死んだ後、彼女がどうなったかも」
それを聞くのは躊躇われたが、首は迷う時間も与えず話す。
「紅柘榴はカンダタの後を追って自ら命を絶った。私が見つけた時には遅かった」
僅かに戻った生気は絶望に変わった。
春の匂いを纏って微笑む紅柘榴。カンダタの胸に耳をあてては「生きてる」と安心して微睡み、「隣にいたい」と言ってくれた。
命を絶った?自ら?
紅柘榴と共に生きれたら。それが本望だ。
カンダタが死に、残された紅柘榴が生きていくのは寂しさもある。だが、彼女には幸せになって欲しかった。そんな切ない願いも叶わなかった。
止め処もなく涙が流れる。抑えようと手で瞳を覆っても両の手で受け止められる量ではなかった。涙は指の隙間から溢れては冷たいコンクリートの上に落ちる。
「こう、考えればいい」
首が慰めるように語りかける。
「紅柘榴は輪廻に流されて、新しい人生を歩んでいる、と。そこで彼女は平和に暮らしている」
「それは、違う人だ」
カンダタは涙と嗚咽を混ぜた言葉を吐き捨てる。
「あんたらにはわからない。俺は、俺が幸せになって欲しかったのは」
紅柘榴として生きた彼女だ。紅柘榴の記憶も消え、思想もない。魂の根幹が同じであっても、一から人生を歩み出した彼女は紅柘榴ではない。別人なのだ。紅柘榴として生きた彼女が紅柘榴として幸せになってほしかった。
怒りすら湧いてこない。激情は涙となってカンダタの感情が削れていく。
「翡翠、政蔵博士に伝えてくれ。作業はしばらくしてから行うと」
「はい。只今、翠玉が政蔵博士の隣にいます。翠玉に電令を送り、言伝してもらいます」
「わかった。 作業が開始されるまで泣いておくといい」
それ以上、首が声をかけることはなかった。同情や慰めといったものは無意味だと悟った。
首は踵を返し、暗闇の中を歩いていく。翡翠も父親の後をついて行こうとしたが、不意に立ち止まるとカンダタに戻る。
そして、小さな手が項垂れるカンダタの頭を撫でた。見上げると翡翠の無感情な眼差しと目が合う。
翡翠は何も言わず、手を離すと暗闇の中へと早足で向かった。
暗闇に残ったのはカンダタだけでだった。
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