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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
目覚めて夢の中 4
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何度目かのため息が漏れた後、天井の雫がピチャリと岸にに押し寄せる波間に落ちた。
たったそれだけなのに大きな変化で光弥は驚き、漂流場の黒い水面を見つめていた。
漂流場は現世から絶え間なく魂が流れてくるので波が止まる事はない。
溜まった湿気が天井で水滴となって落ちるのも自然だろう。
ただ、どうしても光弥には捨てられない想像があり、ほんのわずかな変化にも大げさに反応してしまう。
「カンダタ?いるのか?」
建物の裏に隠れるよりもこの漂流場の中で隠れたほうがいい。なぜなら、黒い水面はカンダタをうまく隠せて、人数も減らせる。
目覚めたら行動すると考えるのは当然だ。その場に留まっていないと考えるのも当然だ。それを探しに行く考えるのも当然だ。
2人が外で探しに行けばカンダタの思惑通りだったが、清音は途中で赤眼の少年だけを行かせた。
そこまで想像してしまい、水面にいるのは危険だと判断する。
やっぱりここにいるのは間違いだ。母に会う前に消滅されてしまう。一刻も早くこの場から離れるべきだ。
光弥は漂流場の光源でもある階段を見遣り、影が濃い波に背を向けた。
「どこ行くつもり?」
光弥の視線から悟った清音が腕を掴み、責めるような口調で問う。
「いや、ちょっと」
口ごもりながらもどう答えるか悩む。逃げ出したいが、清音の握力が強い。
黒い水面から目を離した瞬間を相手は待っていたのだと単純なことでさえ光弥は見落としていた。
浅瀬に沈み、光弥の様子を観察していたカンダタはゆっくりと起き上がった。
どれだけ気配を消そうと心掛けてもカンダタの体中に纏わりついた黒い大粒の雫がいくつも滴る。それらが水面に落ちて静寂に目立つ音となる前にゆっくりとした動きを止めた。
大股で波を踏み、素早く光弥の背中へと近づく。
大粒の雫が落ちる前に波があれ、静寂を乱す。これには流石に清音も光弥も振り向いてそこにいた化け物じみたカンダタに短い悲鳴をあげた。
漂流したものは時間をかけて人の形に戻る。髪の毛だったり、眼球だったり、中途半端に戻った人の一部が液体と絡まり、カンダタにへばりついていた。黒い液体はカンダタの肌を隠し、赤い眼球が目立って荒野を睨む。
カンダタだと理解できたが、どう見てもB級映画のクリーチャーにしか見えない。
そんなカンダタが手を伸ばしたのは近くにいた清音であった。腰と首に腕を巻き付け身体を抱き寄せ、黒い水面へと引きずり込ませようとする。
「離してっ離せっ変態っ!」
清音に罵倒されても拘束する腕から逃れようと暴れてもカンダタは強い意志を持って沈めようとしていた。
暴れ抵抗する清音に光弥はどうすることもせず、唖然となっていた。
「助けろよっ役立たずっ!」
逃げるか助けるか迷う光弥に清音は怒鳴りつけた。
この一言が光弥の行動を決めた。逃げよう。自分を傷つける奴を助ける理由がない。
光弥は走り出し、段差を踏む。しかし一歩を踏み出せなかった。
外に繋がる階段の光が強い。太陽のような眩しさの中に一点の影が浮かんだ。
いや浮かんでいるんじゃない。落ちているんだ。
こちらが下敷きになる前に段差から足を離し、壁際に避難する。階段を転げ落ちてきたのはケイと白鬼であり、組合をし、決着がつかないままここまで来たのだ。
これにはカンダタも瞠目する。それでも清音の拘束を緩めなかったが、乱入したケイと白鬼に視線を奪われた事実であり、一瞬だけ清音が視界から外れていた。
この一瞬、清音の身体半分を支配していた黒蝶の模様が広がった。
「失せろ」
黒い羽根が喉、顎、唇へと到達するとカンダタに向けて言葉を放った。この声が耳に侵入した途端、片耳の鼓膜が破れたのを頭の中で聞いた。
何をしたのか、何をされたのかわからない。平衡感覚も失われ、立つのも困難になる。
緩やかに力が抜けていく拘束。カンダタは浅瀬の波に倒れた。
カンダタから逃れた清音はケイと白鬼にへと向かう。白鬼は鉤爪を地面に食い込ませ、大きな顎と牙でケイの頭を噛み砕こうとしていた。
ケイは並ぶ牙の合間に刀を挟ませて迫る白鬼の牙を食い止めていた。こちらに走ってくる清音も見える。彼女は邪魔者になったケイを消すつもりでいる。
白鬼と戯れている場合ではない。残り僅かな力を振り絞り、上腕と腹筋で白鬼を押し上げた。
拮抗していたお互いの力が突然に崩れ、白鬼には尻持ちをつくように倒れる。近くまで来ていた清音にはケイに向かって口を開かける。
清音が声を発した瞬間、カンダタは倒れた。事前に起こることを知れば対策も容易かった。
ケイは地面の砂を片手分に切り、それを清音に投げた。
開かけていた口に砂が入り、舌や口蓋に纏わりついた砂が発言の機会を奪い、異物を吐き出そうと咳き込んでも砂は落ちない。
ケイは体勢を直し、刀を構える。しかし、2本脚で立つのも辛いのか少しだけ蹌踉めいた。
尻持ちをついた白鬼も立ち上がり、ケイの様子を探りながら牙を剥き出す。
口内に入った砂を取り除きながら清音はケイを睨む。
ケイの相手をしていた白鬼は2体いたが、一匹は殺されたようだった。ケイも無傷ではない。見るからに消耗も激しい。
白鬼で押していけばケイは消滅できると清音は確実な確信を持っていた。白鬼単体で押しきるのが難しそうなら女子高生も呼び出せばいい。
ここでケイにトドメを刺してしまおうと思っていたが、それはやめるようにと先程、蝶男から指示を受けた。
たったそれだけなのに大きな変化で光弥は驚き、漂流場の黒い水面を見つめていた。
漂流場は現世から絶え間なく魂が流れてくるので波が止まる事はない。
溜まった湿気が天井で水滴となって落ちるのも自然だろう。
ただ、どうしても光弥には捨てられない想像があり、ほんのわずかな変化にも大げさに反応してしまう。
「カンダタ?いるのか?」
建物の裏に隠れるよりもこの漂流場の中で隠れたほうがいい。なぜなら、黒い水面はカンダタをうまく隠せて、人数も減らせる。
目覚めたら行動すると考えるのは当然だ。その場に留まっていないと考えるのも当然だ。それを探しに行く考えるのも当然だ。
2人が外で探しに行けばカンダタの思惑通りだったが、清音は途中で赤眼の少年だけを行かせた。
そこまで想像してしまい、水面にいるのは危険だと判断する。
やっぱりここにいるのは間違いだ。母に会う前に消滅されてしまう。一刻も早くこの場から離れるべきだ。
光弥は漂流場の光源でもある階段を見遣り、影が濃い波に背を向けた。
「どこ行くつもり?」
光弥の視線から悟った清音が腕を掴み、責めるような口調で問う。
「いや、ちょっと」
口ごもりながらもどう答えるか悩む。逃げ出したいが、清音の握力が強い。
黒い水面から目を離した瞬間を相手は待っていたのだと単純なことでさえ光弥は見落としていた。
浅瀬に沈み、光弥の様子を観察していたカンダタはゆっくりと起き上がった。
どれだけ気配を消そうと心掛けてもカンダタの体中に纏わりついた黒い大粒の雫がいくつも滴る。それらが水面に落ちて静寂に目立つ音となる前にゆっくりとした動きを止めた。
大股で波を踏み、素早く光弥の背中へと近づく。
大粒の雫が落ちる前に波があれ、静寂を乱す。これには流石に清音も光弥も振り向いてそこにいた化け物じみたカンダタに短い悲鳴をあげた。
漂流したものは時間をかけて人の形に戻る。髪の毛だったり、眼球だったり、中途半端に戻った人の一部が液体と絡まり、カンダタにへばりついていた。黒い液体はカンダタの肌を隠し、赤い眼球が目立って荒野を睨む。
カンダタだと理解できたが、どう見てもB級映画のクリーチャーにしか見えない。
そんなカンダタが手を伸ばしたのは近くにいた清音であった。腰と首に腕を巻き付け身体を抱き寄せ、黒い水面へと引きずり込ませようとする。
「離してっ離せっ変態っ!」
清音に罵倒されても拘束する腕から逃れようと暴れてもカンダタは強い意志を持って沈めようとしていた。
暴れ抵抗する清音に光弥はどうすることもせず、唖然となっていた。
「助けろよっ役立たずっ!」
逃げるか助けるか迷う光弥に清音は怒鳴りつけた。
この一言が光弥の行動を決めた。逃げよう。自分を傷つける奴を助ける理由がない。
光弥は走り出し、段差を踏む。しかし一歩を踏み出せなかった。
外に繋がる階段の光が強い。太陽のような眩しさの中に一点の影が浮かんだ。
いや浮かんでいるんじゃない。落ちているんだ。
こちらが下敷きになる前に段差から足を離し、壁際に避難する。階段を転げ落ちてきたのはケイと白鬼であり、組合をし、決着がつかないままここまで来たのだ。
これにはカンダタも瞠目する。それでも清音の拘束を緩めなかったが、乱入したケイと白鬼に視線を奪われた事実であり、一瞬だけ清音が視界から外れていた。
この一瞬、清音の身体半分を支配していた黒蝶の模様が広がった。
「失せろ」
黒い羽根が喉、顎、唇へと到達するとカンダタに向けて言葉を放った。この声が耳に侵入した途端、片耳の鼓膜が破れたのを頭の中で聞いた。
何をしたのか、何をされたのかわからない。平衡感覚も失われ、立つのも困難になる。
緩やかに力が抜けていく拘束。カンダタは浅瀬の波に倒れた。
カンダタから逃れた清音はケイと白鬼にへと向かう。白鬼は鉤爪を地面に食い込ませ、大きな顎と牙でケイの頭を噛み砕こうとしていた。
ケイは並ぶ牙の合間に刀を挟ませて迫る白鬼の牙を食い止めていた。こちらに走ってくる清音も見える。彼女は邪魔者になったケイを消すつもりでいる。
白鬼と戯れている場合ではない。残り僅かな力を振り絞り、上腕と腹筋で白鬼を押し上げた。
拮抗していたお互いの力が突然に崩れ、白鬼には尻持ちをつくように倒れる。近くまで来ていた清音にはケイに向かって口を開かける。
清音が声を発した瞬間、カンダタは倒れた。事前に起こることを知れば対策も容易かった。
ケイは地面の砂を片手分に切り、それを清音に投げた。
開かけていた口に砂が入り、舌や口蓋に纏わりついた砂が発言の機会を奪い、異物を吐き出そうと咳き込んでも砂は落ちない。
ケイは体勢を直し、刀を構える。しかし、2本脚で立つのも辛いのか少しだけ蹌踉めいた。
尻持ちをついた白鬼も立ち上がり、ケイの様子を探りながら牙を剥き出す。
口内に入った砂を取り除きながら清音はケイを睨む。
ケイの相手をしていた白鬼は2体いたが、一匹は殺されたようだった。ケイも無傷ではない。見るからに消耗も激しい。
白鬼で押していけばケイは消滅できると清音は確実な確信を持っていた。白鬼単体で押しきるのが難しそうなら女子高生も呼び出せばいい。
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