駒鳥は何処へ行く?

湯月@岑

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駒鳥は何処へ行く?

見送り、旅立つ

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村人の多くは既に事切れて、辛うじて息の在った数人も、夜明けを待たずに帰らぬ人となった。
マチルダも、夜を越えずに逝った。
最期、ゼオに抱き起されたマチルダの手をリゼが取った。

「おばあちゃん」
「嘆かないで、リゼ。少しだけ傍を離れるけれど、我らの行き着く先は同じ。私は少し、先に行くだけ」
貴方はゆっくり来なさいな。

愛おしむ掌がリゼの頬に沿って撫で、吐息の様に笑う。

「ゼオ」
視線が男を捉える。少しだけ申し訳なさそうな光が瞬く。
「ほんの少しだけ、此の子の行く末を見ていてあげて」

抱き起す掌に力が籠る。
「分かった。引き受けよう」


村の中心に煙が立った。
死体を埋めるには埋め地が足らず、墓守の無い墓は獣が寄るので、結局集めて焼く事になった。
出来得る限り集められた屍。一部は余りに酷く痛んで誰やら彼やら判らず。しかし、から、恐らく全員_リゼを除いた全員が、此処に集まっただろうと彼らは云った。
大きく造った篝火に、傭兵達は死体を押し込んでいく。
死体を焼く火が燃えていた。

マチルダを焼く火の前で、リゼは微動だにしなかった。
マチルダを皆と分けて焼きたいと云ったのはリゼで、「祖母は自分は死んだら“真ん中”へ帰ると云った。祖母が帰りたがった地に帰してあげたい」と訴えた。

分が悪かった。
嘗て親しんだ女と、嘗て傍に就かせて共に駆けた男の末葉。
マチルダと約した様に、せめて少女が落ち着く目途が付くまでは、添ってやりたいと思っていた。
顔を見合わせた団員も、困惑の表情ながら少女の同行に反対はしなかった。
此の団に所属するメンバーは、何某かの訳アリ持ちが殆ど。寛容と云うよりは、何時かの先貸しで皆出来得る限りの譲歩をした。
如何にかこうにか村人達の骨も全員分、墓に納めた。
リゼが小さな小さな蓋つきの壺に、マチルダの骨と灰を丁寧に集めて納める。

そろそろ、出発だった。





驚いた事に少女は騎馬に乗れた。
「祖父に教わったのです」
武具一式に、其れを活用する技術。
何なら少女の(マチルダの)家にはちょっとした量の薬草の山があり、少女の目利きの元で、最早使う人も無い其れを傭兵団は回収させて貰っていた。
彼らは_少女の父母は、少女を何にしようと思っていたのだろう?

平和に村で暮らすのに必要な技能からは、少しばかり食み出している_殆ど我楽多に近い其れ。
但しこんな、普通では成り立たぬような状況では、_其れは祝福だった。


リゼの住んでいた村は、元主街道_寂れ掛けた隣国への最短路に沿って在った。
今から目指すのは主街道の主要な目的地の一つである都市_新教の巡礼地である。
人の流れが在る故に、道はかなり通り易い。其の分、擦れ違う人々に注意をしなくてはならないが。
騎馬に揺られて数日。
其の日も朝から騎馬に揺られて、日が傾きかける頃、 其の見事な城壁を見た。

都市を囲む城壁は守備の要。
本来都市とは、中心の点と城壁の円で支え合う構造をしている。
中心なくば収束せず、境界なくば集めたものが四散する。
故に厚く、堅牢に、積み上げられた石の壁。

リゼは初めて、此処まで大きな都市_其の城壁を見た。
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