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一章 菖蒲(ショウブ)
見知った人
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朝、朝日の差し込みに起こされた爾比は部屋に運ばれた朝餉を摂ると、先導されて広間へと向かった。入口までしか案内は無かった為、爾比は迷った挙句に端の方へ寄って座った。青々とした藺草の上、贅沢な紫の座布団は厚みがあって座り心地が良かった。
其れから爾比を含めた少年たちは、現れた指南役という御仁から屋敷での心得を受けた。
指南後、自由にして良しの合図で銘々固まり始めるのを少々居心地悪く傍観していた爾比は、其処に見知った顔があるのに気付いた。と、云うよりも、俯いた爾比の視界に特徴的な_右踝の上に黒子がある_足が入って来て、面を上げて確認したのだ。
数人の集まりの中にいる彼は、大きく口を開けて笑っていた。彼は同じく譜代の子息で、今までにも共に過ごした事がある。少々やんちゃが過ぎる人柄で、余り評判も良く無かったと記憶していた。
「爾比殿」
後ろから声を掛けられて、爾比は驚いた猫のように反応した。振り返ると同時に地を蹴って距離をとる。
「…翼殿?」
「申し訳ございませぬ。驚かしてしまいもした」
垂目がちの目尻を一層に申し訳なさそうに下げていたのは、爾比にとって少しは話せるという相手であった。親代_と云っても遠い_の子息である翼殿は物静かを好み、騒がしいを好まぬ爾比とは会えば共に過ごす事が多い。
無作法を大いに慌てて謝りながら、ほんの少しだけ息がし易くなった心地がして、爾比は内心、胸を撫で下ろした。
其れから爾比を含めた少年たちは、現れた指南役という御仁から屋敷での心得を受けた。
指南後、自由にして良しの合図で銘々固まり始めるのを少々居心地悪く傍観していた爾比は、其処に見知った顔があるのに気付いた。と、云うよりも、俯いた爾比の視界に特徴的な_右踝の上に黒子がある_足が入って来て、面を上げて確認したのだ。
数人の集まりの中にいる彼は、大きく口を開けて笑っていた。彼は同じく譜代の子息で、今までにも共に過ごした事がある。少々やんちゃが過ぎる人柄で、余り評判も良く無かったと記憶していた。
「爾比殿」
後ろから声を掛けられて、爾比は驚いた猫のように反応した。振り返ると同時に地を蹴って距離をとる。
「…翼殿?」
「申し訳ございませぬ。驚かしてしまいもした」
垂目がちの目尻を一層に申し訳なさそうに下げていたのは、爾比にとって少しは話せるという相手であった。親代_と云っても遠い_の子息である翼殿は物静かを好み、騒がしいを好まぬ爾比とは会えば共に過ごす事が多い。
無作法を大いに慌てて謝りながら、ほんの少しだけ息がし易くなった心地がして、爾比は内心、胸を撫で下ろした。
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