此の世の地獄を渡りゆく

湯月@岑

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一章 菖蒲(ショウブ) 

焦燥

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 昼。
 いつものように習いが終わって、爾比は少年たちの幾人かの姿が見えないことに気が付いた。もう少し後ろの方まで並べられていた筈の座布団が、今では随分と前の方へと固まっている。途中から小班に分かれてしまった為に(翼殿とも此の時に別班へと別れてしまった)、今まで気付け無かったようだった。
 気付いた途端に爾比の心はざわついた。

 ひょっとして何人かは既に見込まれて、先へと進んだのでは無いだろうか?

 爾比は家紋屋敷でも覚えが悪いと叱られる事が度々あった。ひょっとしたら、此処でも爾比は上手く出来ないのではないか。
 爾比は居室に戻っても落ち着かず、何度も何度も指南書を繰った。
 其の日、爾比の部屋は遅くまで明りが点いていた。 
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