『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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2章 市街戦

4話 まさかの来訪者

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無機質なアナウンスが遮絶全体に鳴り響く。

「これよりフェーズ2、フェーズ2に移行します」

(どこから…?いや、そもそも『フェーズ2』?)

俺が考えていたその時だった!

ブーーーンと、どこからともなく紫色の光の輪が飛んできて……

「…なに!?」

バチィイイ!!と仁さんを捕縛した。

「仁さん!!」

「……この……!!」

仁さんも必死にもがくが、両腕を含めて、腰の辺りを輪がガッチリと絞めあげている。

ダッ!!
と俺は仁さん救出に動くが…

「くるな……!!」

仁さんの一喝に足を止める!

すると仁さんを絞める輪から、更に紫の膜のようなオーラが広がり……

ブーーーン!
と四角の立方体を形成し、輪によって拘束された仁さんの周りをもう一層囲むように展開する。

『くっ……多重結界か…!!』

仁さんは状況を察したのか抵抗を止める。

「仁さん!!」

『四角の中に入るなよ傑。これは多重結界……しかもこの錬度……素人ではまず破れん。おそらく先程の「ネロ=マーテルの偽者」を倒した者に容赦なく襲いかかる罠だ』

「偽者!?」

『ああそうだ。あまりの手応えのなさで俺も気づいたが、さっき倒したネロは偽者だ。術を使っていたから俺も途中まで本物と思っていたが一杯喰わされた!』

「解除の方法は…?」

『本物を倒すのがセオリーだが……この遮絶はやはり相手の思惑を感じる。遮絶の解除のほうが現実的だな。お前の眼ではどう見えている?』

改めて言われて俺は遮絶の全体を見るように空を視る。

(んー?これって……)

「仁さん、遮絶の結界って『そもそも誰が張っている』んですか?」

『基本的には、向こうの世界……IFの最高機関である「オリュンポス」の12人の誰かが張っているはずだ。なんせ隣の世界に張る結界だからな…難しい話は省くが、ただの魔術師には無理だ。俺達の元の世界でも大魔術を超える「魔法」の領域だ』

「……オリュンポスの魔術師がどれくらいかは俺にもわからないですけど……つまりそれと『同格の魔術師』なら可能ということですよね?」

『………!!…おい、まさか……!』

「この遮絶……視えてるオーラが「ネロ=マーテルと一緒の紫色」なんですよ」

『……っ!……ということは……まてよ……』

仁さんが考え出した。俺もこの事実には何か空恐ろしい予感がする。

『整理するぞ傑、まず1つ。遮絶を張った本人はこの結界の中にはいない。外からじゃないと張れないのが遮絶の条件の一つだからだ。先程の偽者はおそらくネロ=マーテルが遮絶の術式に何か細工をしてあるはずだ』

なるほど、今も消えていない人形の群れ達はこの遮絶がある限り消えないということか。

『2つ目だが、こちらのほうが深刻だ。俺の予想ではあるが今回のIFの目的は『乗っ取りじゃない』』

「えっ……!?」

急に話の方向性が変わり俺は焦るが仁さんの顔は確信に満ちている。

『結界全体に溢れんばかりの式神を投入し、本人もそのブースト役として偽者を送り込み、さらにはこの規模の大きな結界……これだけ手を加えた遮絶が正常に機能するわけがない。あれは先程も話したが、かなりの高位に属する魔法だ』

そうか、そもそも遮絶を誰でも乱発出来る代物ならとっくの昔に乗っ取られてるのか。しかし……

「じゃあ、向こうの狙いは………そうか!!」

マズイ!これは「乗っ取り」よりも厄介だ。

『そうだ。奴らの狙いは「守護者の抹殺」だ。おそらくかなりの数の「ナンバーズ」が投入されている!傑!大樹と急いで合流し、ミユ達を捜すんだ!』

「でも、仁さんをこのままには……!」

『俺は大丈夫だ。この多重結界は捕縛する以上の力はない。なんとか解除の方法は探る!今はミユ達だ!あいつらは俺達よりも戦闘力が落ちる構成だ。ナンバーズ…しかも上位に当たれば全滅の可能性もある!!急げ!!』

「っ!わかりました!必ず後で助けに来ます!」

俺は駆け出した。
ミユさん!無事でいてくれ!!



~B班 ミユチーム~

「やっぱり変ね……」

「……はい、私の感知能力でも、遮絶の基盤が見つかりません………というか、あちらこちらにある感じで……」

「…………」

3人は遮絶に入って当初の予定通り解除のために結界の基盤を探しているのだが見つからない。

(いくら広い結界とはいえ、今回はカナもいるから反応しないなんて有り得ないんだけど……)

ミユもあまり得意ではないが、血の能力を使い辺りを探っているのだが見つからない。


すると、翼が何かに気づいたようにバッ!と振り返る。

「……2人とも動くな……」

翼は2人を庇うように1歩前に出る。
すると何もない闇の中から…


「貴方達は守護者ですね?」


ゾクッッッツツツ!!

と言葉を聞いただけで3人は今までに感じたことのない悪寒を感じた。

(……こ、…れは…!!)

ナンバーズだ!ミユは確信する。

闇から3人現れた。
間違いなく3人ともナンバーズ!

「おいおい、まだガキじゃねーか。こんな奴らとバトんのかよ?」

右側の男は身長が高い。見るからに全身バネのような、しなやかな筋肉。そして身の丈を超える紅い槍。

「ゲオルよ、そう言うな。これも我らの仕事。たとえ相手が子供でも任務なら遂行せねばならない」

左側の男は身長はそこまでないが、弓……か?
古くからあるような典型的な弓を持っているが
背中に収納している矢には恐るべき魔力が宿っている。

2人とも相当な戦闘力を有したナンバーズなのは間違いない!だが…………


(なに!?この女……!!)

ミユも翼もカナも真ん中の女性から目が離せない!
ミユは驚愕している。
そこにいるのに、いる感じがしない!
まるで空気のような存在感なのだが……
強い…!!そう思わせてしまうのは…

(この殺気……バージェスより強い…!?)

先程の言葉に込められた殺気だけで、膝が震えそうになる。
現に隣のカナがガクガク震えているのがわかる!

「私の名前はナンバーズ1、ソフィーです。貴方達に私怨はありませんが…ここで死んで……」

ダッ!と翼がいつの間にか駆け出しソフィーとの間合いを詰める!

(奇襲!!)

ミユが驚愕する。
ミユやカナとは違い、翼はずっと相手の挙動や視線、気配を探り続け、相手の隙を狙っていた!

(この女が相手の要……こいつを殺れればまだチャンスはある)

翼の武器は小太刀と言われる日本刀。
それを2つ持ち、小太刀二刀流として扱っている。

ゲオルと呼ばれた男と、もう1人の男は動けていない。いや、反応できていないのだ。

翼の仕掛けは抜群。相手の虚を突く完璧な奇襲!

仕掛けられているソフィーも言葉の途中であり、腰に提げたサーベルのような剣もまだ鞘の中。
そして、翼は間合いに到達!

(殺った)

翼が確信した瞬間だった

ゾッッ!!

と翼に走る悪寒。
振りかぶっていたモーションを力ずくで止めて全力で後方に跳ぶ!

翼はミユ達のところまで後退したが……

ブシュ!!

と両腕から鮮血が舞う!
ブアッ!と翼の顔から冷や汗が出る。

「…もらいます。話は最後まで聴くものですよ失礼な方ですね……」

「翼!!」
「翼さん!!」

(嘘でしょ!?何!?今のは……?)

視えなかった。
完璧に決まったと思った奇襲……
しかし、翼は何らかの異変を感じて後退してきた。ところが翼は手傷を負った。
反撃?いや、ソフィーは刀を抜いていない。現に今も刀は鞘の中である。

「……いや、抜いてる……でも、視えなかった」

翼が言う。自分の奇襲よりもさらに速く、正に時を超えるような速度でその反撃は繰り出された。
しかし、翼は必死に間合いから避けただけで剣の軌跡は捉えていない!

その言葉に驚愕を隠せないミユとカナだが、ソフィーは翼を視ながら

「騎士道にあるまじき奇襲でしたが、私の攻撃をあの状態から躱すとは称賛に値します。両腕は落としたつもりでしたので」

ミユは目線を外せない。少しでも外したらその瞬間首をはねられている!それを彷彿させるほどの殺気が辺りを覆っている。

「では女性2人の両足から頂きます」

目は離していないのに!
声が……真後ろから……!!

ガキィイイイン!!

ミユとカナ2人とソフィーの間に入った翼が
剣で受ける。

ブアッとミユとカナに冷や汗が流れる。

翼は2人と距離を離すために猛攻を仕掛ける!
小太刀の回転率を生かした連続攻撃で攻める

「………」

攻撃したはずのソフィーの刀は鞘の中。
しかし…………

ガガガガガガガガガキィイイイン!!!

翼の猛攻を受けきる。
受けている間も全く動きが視えない!
刀のところに手は添えてあるが動いているようには視えない!

「ミユ、俺がこの女を足止めする。お前達はその2人を何とかしてA班と合流しろ」

翼の冷静な言葉にハッと我に返ったミユは

(たしかに、これは異常事態!まさかナンバーズのトップが来ているなんて……何とか仁さんと合流しないと……!!)

仁さんならばあの女ともかなり戦えるはずである。
私達3人ではナンバーズ3人相手は荷が重い!

「話は終わったかーー!!」

と、いつの間にか間を詰めたゲオルが槍を振り回してくる!

「っ!壁(ウォール)!!」

ガン!!と血の壁がミユを守る!

「あー?こっちの世界の能力使いか!」

すると今度は空中に跳び上がったもう1人の男が恐るべき魔力を込めた矢をミユに三連放つ!

「『フォール…フォール(全ての厄災は落ちる)』」

しかし、カナの詠唱から発動した魔術によりその矢があらぬ方向に墜落する。

「ふむ、こちらのお嬢さんは我らの世界出身のようですね」

「なるほど!!ちったあー楽しめそうだな」

着地した男とゲオルが並び立つ。
ミユとカナも。

「カナ、あっちの弓使い任せていい?勝たなくても粘っていたら私達の異変を感じてA班が駆けつけてくれると思う」

「わかりました!精一杯頑張ります!ミユさんもお気をつけて!」



一方少し離れた場所では翼とソフィーが戦っている。
戦っているというよりは……

ガガガガガガガガガキィイイイン!!!

翼の猛攻を涼しげな顔で受け続けるソフィー。
力量の差は歴然。
そもそもソフィーの剣筋さえ視えない翼に勝ち目はないのだが……

その攻撃に飽きたのか。
ソフィーが翼の攻撃のほんのわずかな隙間にねじ込むように必殺のカウンターでの突きを放つ!

(終わりです…………っ!)

決まったと思った攻撃は……
バッ!と後方にステップした翼に躱される!
といっても心臓に的確に放たれた突きが少し当たり、胸から流血はしているのだが……

(私がまた外した……?視えている?いや、それはない。それなら今の攻撃くらい完璧に躱せてもいいはず。つまり……)

「なるほど、それが貴方の「能力」ですか?魔術とは違い、こちらの世界特有の能力は発動のタイミングがわからないので厄介なものですね」

「…………」

「私も能力使いとは初めて戦うので、貴方はいい実験台になりそうです」

「……ナンバーズのトップが出てきて何の用だ?」

翼が核心を突く。
組織のトップを出すのはそれ相応のリスクがある。万が一敗れた場合は取り返しがつかないからだ。

「用ですか?言ったはずです。貴方達の抹殺です。それ以外に意図などありません。そして前回、私の部下であるバージェスを倒した者を脅威として排除するために私が出向きました…………貴方達の上司に「無垢なる戦姫」がいますね?」

「……答える義務などない」

「そうですか?貴方がその情報をくれるなら見逃してもいいのですよ?」

「……俺は仲間を売ったりしない」

「そうですか……その心意気に免じて私も少し本気を出しましょう…」

そう言うとソフィーはあれほど視えなかった刀を鞘から抜く。
そしてその刀を胸の前に掲げ

「改めて名乗りましょう。私はナンバーズ1、ソフィー。貴方達「守護者」とこちらの世界の裏切り者「無垢なる戦姫」「零の剣聖」を国の要請により抹殺します」




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