婚約破棄は、寝言で

夜空のかけら

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寝言で衝撃

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すぴーすぴー
彼女は眠っている。

会社から帰る時間が遅くなるから、先に寝ていてもいいと言ったけれど、なんとなく寂しいと感じるのはなぜだろう。
結婚式の日に入籍をする予定だったけれど、彼女がその前に同居したいと言ったため、今の状況は婚約者同士という形。

しかし、よく寝ているな。
爆睡というのは、こういうことを言うのだろうか。

思わず彼女の頬を指でぷにぷにしてしまう。

すると、突然起き上がって「婚約破棄」と叫んだ。

起きているのか?確かに目が少し開いているような。

しかし、その言葉に衝撃を受けたのは当然かもしれない。

「婚約破棄…婚約破棄なんて、ウソだろう」

思わず声に出してしまう。

すぴーすぴー
衝撃を受けて、気分が落ちている間に彼女はまた眠り始めたらしい。
きちんと布団の中に潜り込んでいるのは、さすがかもしれない。

次の日。
起きた彼女にそれとなく聞いてみた。

「寝言、いつも言うの?」
「え、知らない。何か言ってた?」
「ああ、たいしたことないから気にしないで」
「そう…わかった」

それからだ、帰宅が遅く彼女が寝ているたびに頬をぷにぷにするようになったのは。

「婚約破棄!」
「真実の愛!」
「彼の浮気!」
「結婚阻止!」
「結婚詐欺!」

そのたびに衝撃を受ける。

ある時、おもいきって聞いてみた。

「ああ、そんなこと寝言で言っていたんだ。はずかしいな」
「なんで、あんなこと言っていたんだ?」
「はい。多分コレね」

”円満に彼と別れる方法”

どうやら、彼女の愛読書だったらしい。
安心した。
本の名前に一抹の不安を感じるのは、なぜだろうか?
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