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第3章 ひとりぼっちの誠

16 依頼を受けた

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受付さんから、簡単な依頼と言うことで、お届け物をすることになった。
お届け先は、なぜか王城内の革職人。
王家のお抱えらしく、王族のご用達だと言う。
ギルドから革職人に持っていくのは、手提げ袋。中身は分からない。重さは、とても軽い350mlのペットボトル1個分みたいな感じ。

王城内へ行く際の入城は、その手提げ袋を持っていれば、入れるという。
お届け物は、王城内の工房に届けるが、王城は3重の堀に囲まれている上に、王城側には高い石組。表面が揺らいでいる。これは、生体フィルター。

生体フィルターは、決められた生命体しか通さない。
しかし、それ以外の物-空気とか雲、酸素などのこと-は通すという変わった性質をもつ防御機構の1つ。島内外を分けているシールドの1つでもある。

今回のお届け物で手提げ袋を持っていれば、入れると言われたということは、これがカギなんだろう。

工房は、1つ目の生体フィルターの先にあるというのを案内掲示板を見て確認。
城門の手前には、フィルター&門衛が5人いた。
ちょうど交代の時間だったらしい。

門衛は2人で組みを作り、1人はその上司らしい。
門衛の組み合わせは、毎回違う形。
近くに詰所があって、常時20人が詰めている、しかも、組み合わせは詰所に入った当日に発表。
その詰所で管理している門は、3か所。
どのくらいの頻度で交代しているかは、警備上の問題で教えてくれなかった。

工房へは、案内表示の他、交代時に合わせて詰所から出てきた上司の門衛…上門(じょうもん)係長さんが案内してくれると言う。

上門係長さんいわく、王城は三重の堀と三重の石組、様々なフィルターなどの認識阻害防衛システムで、できている。ただし、この情報は、結構知られているそうで、秘密でもなんでもない。
島自体も同じようなシステムが稼働していて、島外からの侵入はできないはずとか、すごく自慢げに話してくれた。

そんな話を聞くと、ちょっと、こそばゆい感じがする。
なにしろ、それはともえに言われて、俺がいろいろやらかした結果だから。
王城中心部には、トモエ天国というか、このおかしな世界で唯一、宇宙に到達できることの施設”軌道エレベーター”が設置されている。
ただし、この施設もおかしい部分が多い。
総延長は約10万キロと言われているのに、どう見ても、月まで届く距離(30万キロ)はある。最上部まで行くと、すごく月が大きいなどなど。
最重要施設だが、これの管理はともえしかできないだろう。
元々、そのつもりで構築したらしいが、途中で用途変更していたし。

上門係長さんに、案内してもらった工房についた。
工房はから3本の煙突とか、屋根に伸びている金属製の何かとか、外から中へ引き込まれている大量の配管とか、何かのタンクはずらーっと並んでいる場所だった。
でも、とても静かだったので、上門係長に聞くと、”中に入れば分かります。”の一点張り。
工房の入り口に工房案内図があるので、それを参考にしてほしい。門衛たちは、工房に入ることができないので、ということで、案内を終えた上門係長は一礼してから、来た方へ戻っていった。

工房への扉を開けると右側に工房全体の案内図があった。
それによると、工房は5階建て。広さは、かなり広い。500m×500m。
様々な工房があって、案内図と反対側の扉が工房へ行くための搬送システム(3次元エレベーター)、この案内図で行きたい場所を指し示すと、後ろの扉が開き、目的の場所まで運んでくれるという。
案内図で革職人工房入口を選択。
後ろの扉が開いたので、その中に入る。
大きさは、5m四方くらいか。
目の前の扉が閉まり、と思ったらすぐに扉が開いた。
開閉時間のあまりの短さに、故障したのか?と思ったけど、扉の前には、さきほどと違い、受付窓口と書かれている。その下には出窓みたいなものがある。
搬送機から降りて、受付窓口のところに置いてある、ベルみたいなものを弾く。

きーーーーーーーーーーーん

ベルがここまでの高音を出すのか?というくらいの音響だった。
窓口が開かないまま、どこからともなく、来訪の目的などを聞いてきた。
牧畜ギルドからのお届け物と言うと、ちょっと待ってろ…という声。

その時には、搬送機の扉があったはずのところが、壁になっていたのに気が付いた。

受付窓口と書かれた場所が丸ごと消え、単なる入口になった向こう側から、扉を開け、小さい男の子がこちらを見ていた。

「え、えっと。工房は、ここから入ればいいのかな?」
「お届け物を見せて。」

ギルドから渡された手提げ袋を見せる。
それを見た、男の子は、その手提げ袋に手をかざし、うんうんと頷いている。

「ギルドからのお届け物を確認しました。受け取り受領書は、ギルドの方に送っておきましたので、このままお帰りになって結構です。なお、搬送機は再接続しましたので、後ろの扉よりお帰り下さい。行先は、王城へ入ってきた城門に設定させて頂きました。お届け物、ありがとうございました。」

後ろを向くと、搬送機の扉があった。さっきまでは、壁だったのに。
思わず、窓口があった方を見ると、壁になっていた。

そのまま搬送機に乗り、扉が閉まった次の瞬間、扉が開き、城門に立っていた。
搬送機その他がそこにはなかったのように。
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