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第3章 ひとりぼっちの誠

18 牧場の真実を見た

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親友夫婦の幻覚か?と思ったが、姿を見ただけで、他人の空似かもしれない。
すぐに結論を出すのは、今後の行動にも影響があるだろうし、何よりも、栞の両親だ。
栞が詩織に戻ることも考えておく必要があるかもしれないけど、目下のところ、家族とは連絡手段がない。
釈然としないながらも、当初の目的であるギルドへ向かう。

ギルドの建物に入ったとたん、依頼完了おめでとう!という横断幕が…。
恥ずかしい。

牧畜ギルドに入会する人は意外に少ないそうで、依頼完了のたびに、宴会になるのだそうだ。
もっとも、参加するのは受付さんなどのギルド運営側だけらしいが。

宴会の途中で、ギルド長に話すことができた。
そう、夫婦のことだ。
だが、回答は、トモエ天国だから、何でもあり。
何が起こるか分からないから、楽しい面もあるし、怖い面もある。
それ以上は、言えないとのこと。

親友夫婦との絆は、あの事件で途切れたかと思ったけど、もしかすると違うのかもしれない。
そうであれば、いつかまた再会するはず。
栞のこともあり、できれば会わせてあげたい。
そして、栞が詩織に戻る日が来れば、栞にとって最高の日になるだろう。

とは言うものの、今はシナリオを進行させる必要がある。
ギルド内でのランクが上がらないと肝心の牧場を持つことができないという。
これは、勝手に牧場を作っても、放置する可能性が高い他に、牧場を構築できる場所が限られているかららしい。

トモエ天国では、四季があるエリアだけではなく、雪が降り続ける場所や雨が降り続ける場所。砂漠のように降雨がなくとても暑いところ、海と湖、川などが多数ある、通称水のエリア、昼の時間が全くなくずっと夜の場所、地上ではなく、地下空間。地上でも地下でもない宇宙空間、宇宙空間でもない異空間などなど、多種多様なエリアが存在する。
王城自体も他とは違うエリア設定になっている。

牧場が作れる場所は、牧畜ギルドだけが使用可能なエリアで、他のエリアからは隔離されている。牧場主だけが外から牧場で扱う動物などを招き入れることができるのだ。

俺の場合は、ドラゴンを招き入れるとしているが、動物に限らず魔物を招き入れる者もいる。もちろん、サブシナリオによるものなのだが、おかしなサブシナリオ…理解不能なものもある。牧場シナリオで招いた中でとびきりおかしいのは、霞(かすみ)というガス状生命体。
こういうものだよ。とギルド職員が見せた映像を見たけど、薄く雲のようなものが周囲の強風を無視するかのように牧場の上を漂っている。

俺が、つぶやくように
「あれ、どこまでが1匹なんだろうか。」

疑問に答えたギルド職員は、
「私たちでも分かりません。あの牧場の経営者は分かっているようですが。」

もしかすると、群体なのかも。
1つの固まりに見えても数千、いや、数万、もしかして数億の生き物の固まりだったりする?
増え方も気になるところだけど、あの牧場に行くのは何が起こるか分からないから、やめておこう。

「他にもどういう牧場があるか、聞いてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。一番多いのは、牛ですね。お肉にもなりますし、お乳も出ます。繁殖方法もノウハウも分かっていますし、なぜか島外で実際に牧場経営をしてらっしゃる方が選ばれることが多いようです。」

へぇ~島外知識を島内に持ち込んでいるんだ。しかも島外と同じ状態になるシナリオで。

ギルド職員は、続けて
「次に多いのは、鶏です。以下、豚、ダチョウ、イノシシ、オーク、ビックベア、エリマキトカゲ、カピバラ、猫、熱帯魚、コウモリ、クジラ、チョウザメ、ヤマタノオロチ、魔王…ええと。」

ちょっと待て。今のは何だ?

「ちょっと待ってください。よくわからないものがあったのですが。」
「はいはい、お答えしますよ。何でしょうか。」
「ダチョウは、何のためですか。」
「卵ですね。とても大きいので、重宝しますし、単価も高いので、経営者には人気です。ただし、飼育するのは大変だそうですが。」
「オークは?」
「オークは、豚のようなものです。ただし、豚よりも多くの肉が取れるのと、ある程度の自意識があるので、意識誘導が可能な点からでしょう。」
「ビックベアとは、熊。大きい熊のことですよね。字をそのまま考えれば」
「そのまま、ですね。ビックベアは、主に毛皮目的です。もちろん、肉料理もありますが。」
「エリマキトカゲは?」
「ペット目的です。意外と飼っている人が多いのです。」
「カピバラ?」
「ペット目的ですね。こちらも。」
「かなり大きくなるのでは?」
「エリマキトカゲの小ささに不満を持つ方々がこちらを選択するようですね。」
「猫は、まぁ分かります。」
「島外と島内の猫は、かなり違います。」
「島内の猫は?意思疎通ができるので、ペットというより話相手という位置づけになりますね。粗暴なことをすると見限られますし、それが周囲の動物に広がると、いろいろな攻撃対象となって、島外から生命力がなくなって島外にはじき出されることもあります。ですから、野良猫でも邪険にしてはいけません。」
「野良猫っているんですか。」
「話相手を見限った猫が野良猫です。ただし、新しい話相手を探していると思いますので、出会ったら、あいさつくらいはしましょう。」
「熱帯魚は魚ですよね。牧場とは関係がないと思うのですが。」
「熱帯魚であっても繁殖行為がある以上、牧場となります。もちろん、そこでは牧草はなく、大きな池のようなものがあるのですが。」
「なるほど。そうすると、クジラとかチョウザメも同じですか?」
「そうです。ただし、その2つは、広大な土地を必要とするので、かなりの経験を積んだ方ではないと、飼育困難です。」
「コウモリの牧場というのは、考えにくいのですが。」
「ここで言うコウモリは、果実をエサとするコウモリです。まぁ、ミツバチの代わり…ということでしょうか。牧場と言いましたが、このコウモリに関しては、何もせずに放置が基本です。寝るところを用意すれば、勝手に動きますので。農家などが受粉としての費用を払っています。」

ここまでは、なんとなく辻褄があっている。
残る問題は2つ。

「ヤマタノオロチと魔王って、牧場で何をするんでしょうか。」

ギルド職員は、よく聞いてくれましたというか、人の悪い笑みを浮かべて、

「それはね…」
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