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第5章 奥さまたちの冒険

35 千代田 真知子

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メインシナリオ:”今の伴侶ともう一度”
固定シナリオ:”舞踏会でダンスを楽しもう”
選択シナリオ:”万能魔法使い伝説始まる”

選択シナリオはこれ。
最近、よく思うのが、”おかしな世界”のこと。

魔法だけじゃなく、様々なオカルト的なことが起こると聞くけど、私がどんくさいのか、鈍いのか、そういうことに合った事がないと思う。

他の奥さんたちも至って普通で、だれも、そういうことには無関係だと思っていた。

ニュースなどでも、誰かが土魔法を使って機械も動物も使わずに農地を地盤改良したとか、精霊を使って砂漠を森林に変えたとか、樹木の魔法を使って、海に溶け込んでいる有害物質や貴重な金属類を取り出すのに成功したとか、言っていたけど、私には何のことか全く分からない。

隣の子供が、お家の生垣を育てすぎてお家よりも高い樹木壁(生垣のとても高い版)になったのは、樹木の精霊をおだてすぎたとか、私のハムスターがこの前、野良犬を咥えてきて、はっきりとした言葉をしゃべり頭をなでてほしいとかも、私には何のことか分からない。
きっと、夢でも見たのだろう。あり得ないから。

でも、私にも夢を見ていたことがあった。
それは、魔法というもの。
魔法が使える少女…魔法少女というもの。
他の人はどうだか分からないけれど、私はその魔法少女になりたかった。
今の私の年齢からすると、少女は無理。なら、魔法女…魔女になりたいけれど、なる方法が分からなかった。魔法に関する知識もないので、なおさら。
そんなときに、夜見さんから、トモエ天国の事について聞くことができ、他の奥さんたちやその家族とともに、新しいシナリオに参加することができた。
ただ、家族一緒に来るのには、私一人の説得ではダメだった。
元々、ご主人様は夫婦でありながら、”あなた”とか、名前呼びも嫌う。私がご主人様のことを言う時も”夫”なども使うことを禁じているし、私が言った事もお願いした事も聞いてくれない。全て、ご主人様が命令したことを忠実にこなすことを求めている。それ以外の事は、何も聞いてくれないのが、いつもの事だった。
しかし、今回は違った。
私以外の19人の奥さんたちが、ご主人様の嗜好を分析して、奥さんの中でかなり強気で喧嘩っ早い”旗さん”が、ご主人様を篭絡?して、トモエ天国に家族で来るようにできた。
どうやって、説得したのか知りたいけれど、旗さんは笑っているだけで、しゃべってくれない。

「いいから!その時が来たら教えるから、トモエ天国であなたの思うことをそのまま体験すればいいの。」

強気で喧嘩っ早い旗さんだけど、夫と子供2人をとても愛していて、また夫も妻を、子供は夫婦を、と溺愛というより既に溺死愛レベル。誰も立ち入れない、立ち入ったら、旗一家に瞬殺されそう。

だから、今回のように、ご主人様と別れてシナリオをすることになって、少しの不安とそれ以外のやる気の私の珍しい気持ちになっていた。
だからだろうか、メインシナリオを見て複雑な感情が湧いたのは。
今の…伴侶…か。伴侶というより、お手伝いさんかな。

固定サブシナリオの舞踏会に出ることになるのは、16歳。
ところが、選択サブシナリオの開始年齢は6歳だった。
メインシナリオによって、性別固定なので、私は6歳の女の子として始まった。

サブシナリオ開始直後は、魔法基礎学校の入学式。
ところが、その入学式で学校長が演台に上がったと同時に、周囲が凍り付き、動きが止まった。
何が起こったのだろうと思っていたら、天使さんが、入学式までに起こった内容と受験時の情報、それに似あう形の魔法の情報などをパッケージ化したものを記録領域に投入。内容は、記録領域にあるものの、普通の記憶と同じように読み出しもできる。遅延もない。記録領域にあるものは、島外などシナリオ終了時に失われてしまうものだが、繰り返し学習で記録の補強と自分本来の記憶にも反映されるので、シナリオに関係なく、魔法の勉強については、損になることはないので、頑張ってほしいと天使さんたちに言われてしまった。
追い打ちをかけるように、ともえ様が、天使さんの後ろの方から、笑いながら。

「目覚めるといいね。」

と、意味不可解なことを言っていた。

凍り付いていた入学式が、元通りとなり、入学生のうち、一番成績が良かった、貴族の女の子。
宮本 美穂さんが、お礼の言葉などを言っていた。

忘れていたけど、私の身体は6歳の女の子。
でも、中身は30歳オーバーのおばさんだった。
見た目と中身がここまで違うと、周囲からどう見られるだろう。ちょっと不安になったので、メインシナリオ開始前に与えられた相互通信で運営に問い合わせをしたら、自動的に調整が入るので、気にしなくても大丈夫…だった。

入学試験の序列は、こうなっていた。

1位(最優秀者)
貴族 女 宮本(みやもと) 美穂(みほ)
ランク7

2位(優秀者)
平民 男 佐野(さの) 正(ただし)
ランク6

3位(優秀者) 
平民 女 江戸川(えどがわ) 舞子(まいこ)
ランク6

4位
貴族 男 荒川(あらかわ) 文雄(ふみお)
ランク5

5位
平民 女 千代田(ちよだ) 真知子(まちこ)
ランク5

ランクだけを見れば、トップの宮本さんとは2つ違い。
だが、魔力量は段違い。
私の魔力量は、1,500MP。ランク5の最高量
しかし、ランク7の宮本さんの魔力量は、6,000MP。

なんと、私と4倍以上もある。
しかも、宮本さんのランク7での上限の半分くらいの魔力量というから、こんなにも差がついてしまうのかとため息が出た。

とは、言うものの、大規模かつ高ランクの魔法がどうしても使ってみたい私は、宮本さんとお友達になるべく、どきどきしながら席の方へ行った。

宮本さんはこちらを見たものの、すぐに興味を無くして順位外の貴族らしい人と話を続けていた。

気が弱くて、声を掛けられず、そのまま入学式後の自己紹介に移った。
宮本さんは、
「今後、卒業までのすべての試験でトップを取ることを宣言する。上がってくる者を容赦なく落とすから、覚悟なさい。」
と息巻いていた。

私の番では、
「魔法をいっぱい勉強して、強く優しい魔法使いになりたいです。」
と、精一杯のあいさつにした。

宮本さんは、そのあいさつをじっと見ていた。

全員の自己紹介が終わったところで、この学校のクラス分けは成績順になっていること。
座席は、成績順に指定ができること。
成績上位者が、それよりも下位の者に対して、座席を指定できること などがあり、その気になれば、最優秀者が全ての座席を決めることも可能だと言う。
しかも、いつでも変更可能。

最初は、成績順の座り方だったが、自己紹介も終わったので、今日はこれで終わりということになった。
また、宮本さんのところに行って、なけなしの声と共に、私の希望を言った。
「あ、あの~、宮本さんに魔法を教えてもらいたいの。お願いできるかな。」
宮本さんは
「………」
何も言わず。
そんな声なき様子だったので、さらにかすれて聞きずらくなった声で、
「お友達になってほしいの。」
なぜか、笑顔になる宮本さん。
「いいわよ。お友達になりましょう。魔法も教えてあげる。」
「ありがとう。でも、いいの?」
「人に教えるということは、その教える内容について熟知している必要があるわ。でも、教えるということをしない人が多いので原因不明の問題が起きた時に、教えるという視点がないがために、どこが問題なのかが分からない人が多いと聞いたことがあるわ。その意味でも、今回のお願いは願ってもないことだと思うの。もちろん、お友達…という方が重要だけどね。それから、お友達なら、呼び方も宮本さんではなくて、美穂がいいわ。」

友達だから、呼び捨ては基本…とか言われて、私は宮本さんを美穂と言うことになった。
当然、私の方も真知子と呼ばれるはずだったが、長いというよく分からない理由から、”ちこ”と呼ばれるようになった。

それから、美穂さんに魔法を教わるようになってから、魔法にますますのめりこんでいくことになった。
教室でも、私の座席を美穂の隣に変更。
美穂は、実家から学校へ通学している。そちらへお邪魔したりしている。
(私は、寮生活)

ただ、たまに来る宮本さんの婚約者。
無手(むて) 雷(いかづち) は、脳筋なのか、魔法などを軟弱者が使う姑息な手段で、肉体に変わるものはないと、喚く。

私はいつも、美穂の婚約者としては、不適格だと思っていたし、美穂自身もできれば、婚約を破棄したいと言っていた。
しかし、無手は美穂の家族の前では、その爪を隠して、人当たりのいい青年を演じていた。家族はそれに騙されており、美穂の方が、魔法は優秀でも無手さんの事を分からない愚か者と言われていた。

その無手の行動を見ていた時に気が付いた。
私のご主人様と似ているような気がしない?
家族がいない。美穂と私が魔法の勉強をしているところに、入ってきてあれこれ命令する…そんなところが。ただし、美穂は私と違って気が強く、相手に委縮せずに、突っ込んでいく。
弾丸トークみたいで、相手を口調で圧倒していることが何度もあった。

いつもと同じ、相手を口だけで撃退したのを見ていた私は思わず、美穂にこんな言葉を投げていた。

「どうやったら、あの人を負かすくらいの言葉が出るの?」

その言葉に、美穂は少し驚いたようだったけど、すぐに、その言葉遣いも教えてあげる。だから、あの脳筋から婚約破棄をもらうための協力をしてほしい。と言われたので、これからもよろしくとなった。

美穂から魔法だけではなく、口調や人間関係の改善法、自己主張やイメージの湧出方法など多岐に渡る知識を記録と記憶を駆使して覚えていく。
内容的に、記録した場合に消えていくことが、今後同じように教えてくれる人はいないと思ったので、途中から記録領域を閉鎖。記憶していくことにした結果、魔法のランクが上昇し始めた。

当初、
美穂は、6歳にしてランク7、未覚醒、魔力量6,000MP
(ランク7、同年齢の最大量の半分。※制限前60,000MP✕制限率20%=12,000MP※)
私は、6歳で、ランク5、未覚醒、魔力量1,500MP
(ランク5、同年齢の最大値。※制限前7,500MP✕制限率20%=1,500MP)

基礎学校を優秀な成績だった場合は、無試験でその上位学校である、応用学校に入学できる。
私も美穂も、当然その学校へ進学した。

応用学校に進学した私たちの能力は、こうなった。
美穂 13歳、ランク7、未覚醒、魔力量30,000MP
(ランク7、同年齢の最大値の約70%。※制限前60,000MP✕制限率70%=42,000MP※)
私 13歳、ランク6、未覚醒、魔力量14,000MP
(ランク6、同年齢の最大値。※制限前20,000MP✕制限率70%=14,000MP※)

まだ、昔に比べると、私はランクを1つ上げて、魔力量の差も4倍から約2倍程度まで上がってきた。

美穂にばっかり教えてもらっていた時もあったけれど、今は親友というだけではなく、学習内容を競い合うまでに仲良くなった。しかも、いつも一緒にいることが多く、宮本一家にも、ほぼ毎日出会う形になってから2年目の春。美穂の両親から、寮を出て、私さえよかったら、美穂も喜ぶので、ここで一緒に暮らさないかというお誘いがあった。平民だから、貴族の美穂の両親に気を使ってもらうなんてという思いから、何度も断っていたけれど、私の両親が美穂の両親と話合っていたらしく、両者で何らかの話がまとまり、私は美穂の家に養子となって入ることになった。
私と美穂は、年齢は同じだが、生まれた時期が違い、美穂はお姉ちゃんになる。
1か月違いだけど。

しかし、無手の事は、私も美穂も嫌い。婚約破棄を美穂は真剣に考えるようになった。家族も、昔とは違い高飛車な態度が目立ってきたとして、薄々と何かを感じ始めているようだった。

応用学校卒業が迫ってきたある日だった。
私も美穂も、昔の小さい女の子という容姿から、女性という容姿に変わってきた。
それなりに出るところは出て、引っ込んでいるところか引っ込んでいるという、女性らしい体型。無手は、それまで、美穂の方ばかりを見ていたが、家族が婚約破棄を考え始めたころから、私の方に照準を変えたようだった。

そんな時、とうとうあの事件が起きた。
家族会議の結果、無手が家にあったお金を盗み出すに至って、美穂との婚約を破棄。無手家に盗んだお金の返済と婚約を破棄すること、被った被害をお金として請求するという決断を下したのだ。
無手は、家から勘当された。
しかし、無手は既に美穂については、何のしがらみもなかったらしいが、たまたま外出中だった私を捕まえて、既成事実を作ろうとしてきた。

美穂からの自己主張や口調などの勉強で、相手を言い負かそうと口撃をするも、口をふさがれていて、何もできない。身体もひもなどで身動き取れず、目隠し、耳栓もあるので、周囲も分からない。
耳栓だけは、浅ましい考えとこれから何をするかを、相手に言い聞かせるように、威圧するように話す無手。

と、そんなときに漏れた言葉で、無手の雰囲気が変わった。

「まるで、ご主人様みたいな言い方。」

「ほう、そう言えば、雰囲気が真知子にそっくりだな。もしかすると、お前は真知子か。ちょうどいい、俺の言う通りにしろ。まずは、お前と既成事実を作ってやろう。あとは、あの貴族家を乗っ取ってやろう。愉快だぞ、あの女も自由にできると思うとはな。」

そう言って、大笑いしている無手。いや、ご主人様。

”おかしな世界”になる前に、見つけられ、いじめられ、踏みにじられ、望みもしない妊娠、今までの奴隷のような扱い。そして、トモエ天国でも、似たようなことが繰り返されると思った。

美穂との毎日の楽しさと無手の暴虐な日々の落差から、それまでにない何かが私の奥底から飛び出してきそうだった。

ご主人様が、自分の事を強く意識させようと、音を立てながらこちらへ来る。
最初から抵抗をなくすためだろう。身動きできない私をそのまま、蹴り飛ばす。
身体に走る激痛もあったが、それ以上の何かが目覚める感覚があった。

天使たちの島内外の監視室
*******************!警報!*******************
シナリオ実行中の者で、島内シナリオ内の体験から、島外本体の魔法覚醒シークエンスが動いています。
シナリオ自体の影響は最小限に抑える見込みですが、該当者及び被害者への影響は避けられないと思われます。覚醒時ランクは、最高ランクと推定されます。
余剰エネルギーの魔界への逆流通告済み。
*******************!警報!*******************

ともえ様は、その警報が来るのが分かっていたかのように、監視室で私のことをじっと見ていたと、聞いたのはシナリオが終わった時だった。

島外の私が、突然魔法覚醒を起こした。

”おかしな世界”になった時、そこに住む人、全てが何らかの魔法を無意識に使うようになっていたらしい。しかし、魔法がなかった世界に魔法が導入されても、変わるわけがない。
その後、魔法が浸透していく過程で使われたのが、このトモエ天国。
外にはない魔法情報が大量にあったから、”おかしな世界”に魔法というものが、少しずつ根付いていった。

ちょうど、私もそんな1人だったようだ。

島外の外。すなわち”おかしな世界”で、魔法が使えなかった私が、先人者と同じく、トモエ天国で学び、記録に頼らず、記憶して魔法の神髄に触れ、確実にランクを上げていく。ランクが上がっても、魔法量はその時にある最高値。

覚醒によって、増加する魔力量は、その時のランクによる。
私の場合は、”シナリオ中でランク6”、覚醒しても美穂の魔法量には届かないはずだった。
しかし、私がその目覚めと同時に、、無手に放った魔法は、明城(みょうじょう)だった。
明(あけ)と城(しろ)の混合魔法。しかも、明は、最上位魔法。
ランクの最上位魔法をランク6の私が使うことは、普通はできない。
とすれば、最初から使える下地はあった…ということ。

何はともあれ、その明城の魔法が無手に向かい、その効果がはっきり出た。
明城は、
明(最上位、ランク9)で、光と闇の効果を消し、
城(上位、ランク8)で、空間を操作。
結果として、あらゆる加護を消して隔離する魔法。

突然、球体の檻に囚われてしまったと気が付いた、ご主人様は、暴れたが、その檻を壊すことはできなかった。しかも、音も遮断するらしく、檻の中の音は全く聞こえなかった。
仕草から、脅しているようだったが、よく分からなかった。

そのうちに、眠くなってきてしまった。
慣れないことをしたからかもしれない。

本来なら、今すぐに無事を美穂や家族に知らせないといけなかった。
でも、そのことを思い出すよりも先に、意識が落ちてしまった。

目覚めたのは、島外の医療機関だった。
天使さんから一通りの説明を受けた。
選択サブシナリオは、クリアした。意識を失う前に、放った魔法は、最上位魔法の1つで、その使用できるランクは、9なのは確定。
覚醒もほぼ同時だったので、”おかしな世界”でも、数人しかいないランク9だが、今のところランク9での唯一の覚醒者となったことを。

ともえ様が、続いて説明を始めた。
それは、悲しい話だった。
選択サブシナリオは、クリアしたが、その時に出会った美穂さんや家族たちに最後の挨拶ができなかった。
島内から緊急切断、島外に移動したことで、島内データが破棄されたからだった。本来の私が魔法ランクが最上位の9になったことで、同じシナリオを選択することができなくなった。
だから、美穂たちに会うことはできない。ちょっとショックだった。

そして、あまりに高い魔法量、その効果の大きさや精度を考えると、日常生活に戻るのは危険が大きすぎると言う。
ともえ様は、しばらく、トモエ天国の運営側、天使としてここで生活してみないか?と言う。
性格には、ともえ様の部下となるようだが。

結果的に、私はともえ様の部下となり、ご主人様…あの男とは離婚することに決まった。
メインシナリオは、島外に出たことで中断扱いになっていたが、シナリオに戻ることなく、離婚成立したため、シナリオもクリア失敗で終了。むしろ、そうなって良かったと思った。

他の奥さんたち(夜見さんや何人かは除く)が、島外から、”おかしな世界”に帰っていく際、挨拶をした。
離婚したこと、魔法のこと、そしてみんなの事。みんなから、ここに来るまでの私よりも、自己主張などがはっきりできていると驚いていた。これも、美穂がいてくれたから、と思って感謝すると同時に、寂しくなった。
しかし、いつまでも、お話をしていたかったけど、そうもいっていられない。
夜見さんのことをお願いされて、みんなと別れ、ともえ様のところへ。

私を見ると、

「ちょっと、親戚の子の事をお願いしたいの。今、連れてくるから、しばらく時間を潰していて。」

そう言って、ともえ様が、隣室から、二十歳前の女性を連れてきた。
なんとなく、美穂を思い出させるような雰囲気だったのが気になる。でも、私の方を見ても、仏頂面。

ともえが、私に笑いかけながら、そんなに時間はかからないと思うけれど、頼んだわよ…と言って、部屋を出ていった。

ともえ様が出て、2人とも無言。
でも、私からその女性に声をかけた。

「私は、清水(旧姓) 真知子、あなたの名前を教えてもらえる?」

女性は、さっきまでの仏頂面をやめて、微笑を浮かべると、

「宮本 美緒(みお)と言います。”ちこ”、お久しぶり。元気になったって、聞いて遊びに来たよ。」

その女性は、あのシナリオで出会った美穂だった。

あの微笑みは、シナリオで自己主張をすることの大事さを今も持っていること、再会することができた、私の事を忘れていなかったということの発露だと言う。

のちに、ともえ様の屋敷の神社側で、2人して巫女をすることになろうとは、この時は思いもしなかった。

***
清水家は、聖域の清浄化を主流として行ってきた家系で、屋敷にも何人かおり、そのうちの1人は、ずいぶん前に亡くなった母だった。
宮本家は、元々神社仏閣の補修を行う宮大工の元締め的存在の家。宮大工の本家が縮まった名前だった。美緒は、元々ここで、細工物の補修をしていた。あの時は、ともえ様に唆されて、シナリオ運営協力をしていた。でも、途中から”ちこ”の事が、好きになってしまい、本来の仕事そっちのけになった。魔法のランクも、元々7で、魔法量も年齢制限で制限していただけで、ほとんど変化なし。

ちょっと”ずる”してたね。と2人で笑った。

***
とある屋敷の、とある2人の会話

???「それで、増えた部下は何人だ。」
???「さぁ、なんのことでしょう。」
???「・・・」
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