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第5章 奥さまたちの冒険

40 時機 聖子

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***天使(運営)側
A 「なぁ、これ見た?」
B 「見た。びっくりした。」
A 「これ、実現可能なのか。」
B 「メインプログラマーは、可能と言っていたけど?」
A 「投入とか、拡張でなんとかなるとか?」
B 「拡張じゃないらしいよ。なんだったか・・・。」
C 「やっぱり説明しずらかったか。」
AB 「おっ!メインプログラマ-の降臨だ。」
C 「そんなに大したことない。」
A 「で、拡張じゃなければ、実体でも半分でもないだろうし、何だ?」
C 「昔ながらの表現で言えば、”憑依(ひょうい)”が一番近いかな。」
AB 「どうやって?」
C 「企業秘密(^^ゞ」
AB「・・・」

***
運営が、戸惑っていることも知らず、サブシナリオを探す際の、検索用語として入れたものは…

「ネコ」、「のんびり」、「なりきり」

検索結果は、0件。

たぶん、そうなんじゃないかなと、思っていたけれど、結果がこう出ると、落ち込みたくなる。
ネコの自由奔放さを見て、絶対、次に転生する場合は、ネコがいいと思っていた。
トモエ天国でも、同じようなことができるはず、と確信していたけれど、何かつまらないなぁ~
一部の友達は、メインシナリオの”あなたの伴侶ともう一度”を真面目にやろうと思っていた人もいたけど、半分くらいが、どうでもいいという感じだった。
私も、どうでもいい派。
だから、ここでは、自分の思ったことをしたかった。

仕方なく、他のシナリオを選ぼうかと思って、また検索をかけてみた。

「ねこ」、「一緒」、「お世話」

検索結果 0件

諦めない。

「猫」、「・・・」、「・・・」

検索結果 0件

・・・・・・検索の最初にまず「ネコ」や「ねこ」や「猫」を入れまくって、検索をする。
単にネコだけなら、十何件か出る。
そんなことを1時間もやって、諦めかけた時、何かが頭の中を走った。
それを忘れないうちに、最後の検索のつもりで、入力した。

「クロネコ」、「跳ぶ」、「幸せ」

検索結果 1件

!!!!!!
やった、1件出た。これだ、これにしよう。他には考えられない。絶対これを選ぶ。

シナリオ名:クロネコと一生涯
シナリオ詳細:クロネコに憑依して、クロネコの生涯を楽しみましょう。大丈夫、クロネコには説明済み。あとは、お二人で話し合ってください。あなたの一生をクロネコと共に(は~と)。

シナリオ開始前の注意事項なんて読んでいなかった。早く、ネコ・・・いや、クロネコと対面したかった。私がクロネコになりたかった。
ふっと浮かんだような感覚の次に来たのが、爽快感だった。意識を周囲に向けると、空が見えた。一瞬の後に、地面が急激に迫ってきたけれど、それを恐れることなく、足から着地。身体中の筋肉をバネの様に収縮させて、衝撃を緩和させて、軟着陸。思わず、自分で10点満点という感じで、「にゃ~ん」と鳴いてしまった。

気が付くと、クロネコになっていた。でも、他の存在も隣にいた。
そう、このクロネコの元々の持ち主だった。
どうやって、ネコ相手に挨拶すればいいんだろう、と思ったのは一瞬でした。
反射的に、いつも通りの挨拶になってしまった。
ネコという存在が感じられる場所に、

「こんにちは。」

って。

クロネコさんは、ちょっとびっくりしたような雰囲気が伝わってきて、

「お、おう。こんにちは。」

と、挨拶してきた。

「クロネコさんは、話せるのね♪」

と返せば、

「そんなの当たり前だ。他の動物や植物だって、意思疎通ができるんだぞ。出来ないのは、人くらいだ。」

私は、やっぱりという感じだった。そうでなければ、ネコと犬という異種で仲良しになるとか、考えられなかったから。

「私も人だけど、これから仲良くしたいの。お願いできる?」

「できる。ただし、人であることをやめてもらうことが条件だ。ネコ…いや、元々の名前で言えば、ナオ…かな。」

「ナオ?」

「そう、”おかしな世界”に、世界が変容した結果、ネコは元々の設計体に戻った。今、”おかしな世界”にいる動植物、いや、土地や海すらもは、全て元の世界の形…元々の性質から切り離され、それぞれの元の設計に戻っている。だから、ネコという生き物は、あの世界にはいない。人だけが、変わったわけではない。スケールが大きい話かもしれないが、動植物だけではない。変わった影響は、星や銀河までに及ぶ。ともえ様がうっかりしたと言っても、あれでも神々の一柱だ。…なんか今、すごい抗議が来たようだが。まぁ、それは置いておいて、だから、元の設計体の名称は、”ナオ”となる。」

「ともえ様って、神様なの?」

「そっちに反応したのか。ネコの方に反応すると思ったのだけど。」

「あの愛らしいネコを殺したのが、ともえ様なのね。」

「・・・すごい連想だな。殺されていないぞ。変わったというだけだ。それで、どうする。ネコになるか?」

「私がなりたいのは、”ナオ”じゃなくて、”ネコ”よ。いいえ、”クロネコ”よ。あなたに説明がされていると言うことなら、”クロネコ”になることも可能よね。」

「そりゃそうだ。今は、別物になっているが、”クロネコ”だった時の記憶もある。見た目は変わらないから、それの模倣もできるし、記憶を重ねてクロネコ気分じゃない、本当のクロネコになることも可能だ。」

「じゃあ、問題ないわよ。私をあなたと同じにして。」

「本当にいいんだな。人に戻れなくなる可能性がある。憑依しているということは、元の身体から一時的に切り離されている状態だ。このまま同一化すれば、精神は同一化する代わりに、元の身体は休眠状態に移行する。下手すれば、死ぬぞ。」

「問題なし。元々、ネコになりたかった。転生したら、次はネコがいいと思い続けてきた。ちょっと、願いが叶うのが早くなったと思えばいいし。子供のこともあるかもしれないけれど、それはパパがやってくれる。2人も、私のネコ好きは知っているから、シナリオを見れば、大丈夫。こんな機会は、絶対今後ない。だからお願い。」

「本当に、いいんだな。」

「本当にいい。」

「分かった。ああ、そう言えば、おれ、オスだから。じゃあ、融合する。」

「え??ちょっと、聞いて…。」

***融合シークエンスが開始されました。

***天使(運営)側
C 「あっちゃー。まさか、ここまでやってしまうとは、停止!」
A 「どうし…、瀕死状態だぞ。何をした。」
C 「”ナオ”と融合しようとした。憑依で。」
A 「そんなのできるのか?」

ともえ 「はぁ、”七生(なお)”から、緊急通報で来た。でも、手遅れだね。同系統だから、浄化率の関係で大丈夫だと思ったのだけど、検討が甘かったか。身体の方は、止めた上で停止カプセルに入れて、屋敷へ。家族には、私から説明する。」

ABC 「…」
ともえ様 「Cについては、責任は当然ある。それについては、後日。でも、屋敷へ引き上げる以上は、こちらから、事実上消える。連れていくことはできないから、やっぱり”死亡宣告”かな。死亡理由については、一般的なものにしておこう。身体から髪の毛を1本とって、促成培養器へ。あとは、こっちで作業するわ。天神さまは、屋敷待機してる。Cも一緒に行きなさい。」

C 「シークエンスは、停止していますけれど、どうしますか。」

ともえ「”七生”。聖子と融合し、屋敷へ来なさい。説教してあげる。兄弟姉妹たちも、手ぐすね引いて待っているから。もう、屋敷から外へは出してあげない。」

”七生”「申し訳ありません。調子に乗りすぎました。まさか、本当に融合希望とは思わずに、最後の意向確認で止めようと思っていたら、自動で融合シークエンスがスタートしてしまいました。」

”聖子”「えー、そんなに大層なことじゃないよー。私は、希望が叶えられたから満足。ともえ様。ありがとうございました。私は、なんだか、ここで消えてしまうようですけど、ナオといつまでも一緒。だから、あまり、ナオを叱らないであげてください。それと、家族や知り合いには、ゴメンって、伝えてください。」


ともえ・・・
どうする。
選択は3つ。
このまま。
やり直す。
直前複写。
そっちの判断で、
こっちは操作する。
職権で介入は可能。

***
ともえ以外は動けない。

ともえ「3つ目」


コードオープン。
監視者権限によって、命令する。
現状維持、直前存在複写。複写体、停止体接合。
維持体、系統外、下位世界・天界へ封。

***
C 「今、何かあったような。」
ともえ「気にしないこと。あなたたちは、一緒に来なさい。」
C 「はい。」
七生「はい。」

ともえ「そっちは、通常業務。時機さんを島外へ、しばらく極集治療室(きょくしゅうちりょうしつ)へ。説明はあとから、私が行うから、それまでは意識を沈めておいて。当然、周囲遮断と遅延処理は忘れない事。」

***
あれは、夢だったのかな。
ネコになれたと思ったのに。
気が付いたら、病院のベットの上で、点滴を受けてた。
シナリオ中に、心肺停止状態になって、緊急輸送されたって、ともえ様から説明をもらった。

意識が戻ってから、説明を受けてから…
ううん。
今も、私の一部がなくなっているような気持ちがする。
何か、大事なものを無くした、そんな気分。

ともえ様は、しばらくトモエ天国より外には行けないって言ってた。
私が、心肺停止になった際、命の温存のために、魔法を使ったって言って。
何でも、龍魂生制(りゅうこんせいせい)という、4つの最上位クラスの術だとか。
別名、死者復活。
完全な復活じゃなくて、元に戻せない部分もあって、その部分を切り離したから、喪失感がある…とは、ともえ様の話。

でも、きっとそんなのじゃないと思うんだ。
喪失した部分は、どこかでネコになっているんじゃないかって。
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