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第9章 理の使命2
88 天涯孤独
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そして、いつまで経っても帰ってこなかった。
それと時期を同じくして、私たちのことを知っている人が全員いなくなった。職業案内所や自宅、今の職場を紹介してくれたエリーさんは、2人が出発したその日、体調を崩してしまい、自宅療養よりも王城内の自室療養を、王族から勧められ、いつ帰ってきてもいいように準備していた、成人前まで使っていた自室に入った。
あの人もいつの間にかいなくなっていて、元々どこで何をしているのか分からなかったこともあり、話したくても話せない状況。
2人の子供は、エリーさんが王城内に移動する時に、王城でエリーさんの侍女をしていた人が、英才教育をするという事で連れて行ってしまった。
パン屋の主人トリアさんも、修行のためとかで、お店が休業になっていた。修行先は、極秘事項らしく、向かいのパン屋さんに門前払いされてしまった。ただし、街区のパンは近くに別のお店がオープンしたらしく、問題はないという説明。
門衛も知っている人はいなくなっていて、事情を聞くと王城へ栄転したという。
学校のみんなは、そこから離れられないこともあって、何も知らなかった。でも、今までも同じようなことがあって、最長で1年は来なかったこともあり、心配していないらしい。
孤児院にも行ってみた。しかし、こちらも学校のみんなと同じ話。しかも、職業案内人でありながら、魔物討伐に出かけることもあるので、1年も戻ってこないことは、今までにも何回もあり、帰ってきたら王城へ報告に行き、そこで拘束された(妹が離してくれない)こともあったと、笑いながら聞いたことがあるそうだ。
みんな理由はそれぞれだけれど、2人の新婚旅行を契機として、私は2人だけではなく、知り合い全員がまるで示し合わせたかのように、いなくなってしまった。そんな状況でも、学校の先生としての仕事は続く。生徒も私のことを気遣って、いろいろ助けてくれている。みんないなくなり、1か月、2か月と時間が経っていく。その時間経過とともにみんなことを忘れていく。あんなに充実していた日々が霞んでいく。
身体の不調は、記憶が霞めば霞むほど回復していき、今ではなんともない。そんな毎日を送っていた。
学校の生徒数も様変わりした。
仕事を始める前のレクチャーで、エリーさんは、こんなことを言っていた。
生徒はここで、他種族への対応などを学ぶ。生徒によっては3か月。長くても3年で学校を卒業していく。卒業後は、出身地に戻る、その他へ移住する、元の居住地を見に行く、一旦ここを出てからしばらくして帰ってくるなどに別れるという。
私が学校に赴任した時、生徒数は40体だった。私より先に入学して就学していた10体は、2~3か月で卒業していった。後に残る私のことを心配していたが、エリーさんに許可を得ないとこの場所に再度入れないらしく、許可が出たら絶対戻ってくると約束した子もいた。仕事を始めてからも、生徒数は減り続け、今は前の半分にあたる20体しかいない。この20体もあと1年経つとわずか5体になってしまう。しかも、この間に追加された生徒はなく、2年半で全員が卒業してしまい、名実ともに無職になってしまう。
少しずつ少しずつ、真綿で首を絞められるような感じがしてきたが、それに対抗する方法がない。この学校で仕事をしていることは、別の職業案内所に相談できなかったからだ。話そうとすると、なぜか声がでない。筆談の場合も、それについては頭が真っ白になって書けなかった。
1年前に知り合いが全ていなくなった時点で、私は天涯孤独を味わうことになった。何度もエリーさんに会いたいと王城にも言ったが、門前払いされてしまう上に何度も面会を希望するうちに要注意人物となってしまったらしく、業務妨害として厳重注意を受けてしまった。
いろいろなことがあって、気分も悪くなったけれど、なんとか生きている。
その時には、お姉ちゃんのことも、あいつのことも、2人の子供のことも、あの人のことも、エリーさんのことも、トリアさんのことも、王族の方々も、みんなあったことがなかったかのように遠い記憶になっていた。
いつも通り、学校に行こうとして、自宅を出た時、忘れていた頭痛が再発して、あまりの痛さにのたうち回ってしまった。学校から生徒が飛び出してくれて、私を保健室に運び入れて、どこかに連絡を取っているようだった。
しばらくして、保健室に飛び込んできたのは、職業案内所にいたエリーさんだった。
すぐに、エリーさんは、生徒みんなに手伝ってもらって、学校の外にある草原に私を運んだ。
エリーさんに、今までの事情を聞こうとしたけれど、難しい顔をしていたので、それ以上何も聞けなかった。しかも、なんだかエリーさんの顔を見たら安心してしまったのか、涙が出てきた。草原に横たわった私は、エリーさんの魔法か、浮き上がり始めた。地面から1mくらい上昇して止まり、エリーさんの傍らに2人、いつの間にか出現していた。1人は、あの人。もう1人は、去年別れたままの2人の子供だった。
エリーさんの詠唱とあの人の詠唱が、完全に一致した形で紡がれていく。私より上の空中に、なぜか見覚えのある魔法陣が見える。
昔の記憶の端に、引っ掛かるものがある。
「反転魔法陣?」
それと時期を同じくして、私たちのことを知っている人が全員いなくなった。職業案内所や自宅、今の職場を紹介してくれたエリーさんは、2人が出発したその日、体調を崩してしまい、自宅療養よりも王城内の自室療養を、王族から勧められ、いつ帰ってきてもいいように準備していた、成人前まで使っていた自室に入った。
あの人もいつの間にかいなくなっていて、元々どこで何をしているのか分からなかったこともあり、話したくても話せない状況。
2人の子供は、エリーさんが王城内に移動する時に、王城でエリーさんの侍女をしていた人が、英才教育をするという事で連れて行ってしまった。
パン屋の主人トリアさんも、修行のためとかで、お店が休業になっていた。修行先は、極秘事項らしく、向かいのパン屋さんに門前払いされてしまった。ただし、街区のパンは近くに別のお店がオープンしたらしく、問題はないという説明。
門衛も知っている人はいなくなっていて、事情を聞くと王城へ栄転したという。
学校のみんなは、そこから離れられないこともあって、何も知らなかった。でも、今までも同じようなことがあって、最長で1年は来なかったこともあり、心配していないらしい。
孤児院にも行ってみた。しかし、こちらも学校のみんなと同じ話。しかも、職業案内人でありながら、魔物討伐に出かけることもあるので、1年も戻ってこないことは、今までにも何回もあり、帰ってきたら王城へ報告に行き、そこで拘束された(妹が離してくれない)こともあったと、笑いながら聞いたことがあるそうだ。
みんな理由はそれぞれだけれど、2人の新婚旅行を契機として、私は2人だけではなく、知り合い全員がまるで示し合わせたかのように、いなくなってしまった。そんな状況でも、学校の先生としての仕事は続く。生徒も私のことを気遣って、いろいろ助けてくれている。みんないなくなり、1か月、2か月と時間が経っていく。その時間経過とともにみんなことを忘れていく。あんなに充実していた日々が霞んでいく。
身体の不調は、記憶が霞めば霞むほど回復していき、今ではなんともない。そんな毎日を送っていた。
学校の生徒数も様変わりした。
仕事を始める前のレクチャーで、エリーさんは、こんなことを言っていた。
生徒はここで、他種族への対応などを学ぶ。生徒によっては3か月。長くても3年で学校を卒業していく。卒業後は、出身地に戻る、その他へ移住する、元の居住地を見に行く、一旦ここを出てからしばらくして帰ってくるなどに別れるという。
私が学校に赴任した時、生徒数は40体だった。私より先に入学して就学していた10体は、2~3か月で卒業していった。後に残る私のことを心配していたが、エリーさんに許可を得ないとこの場所に再度入れないらしく、許可が出たら絶対戻ってくると約束した子もいた。仕事を始めてからも、生徒数は減り続け、今は前の半分にあたる20体しかいない。この20体もあと1年経つとわずか5体になってしまう。しかも、この間に追加された生徒はなく、2年半で全員が卒業してしまい、名実ともに無職になってしまう。
少しずつ少しずつ、真綿で首を絞められるような感じがしてきたが、それに対抗する方法がない。この学校で仕事をしていることは、別の職業案内所に相談できなかったからだ。話そうとすると、なぜか声がでない。筆談の場合も、それについては頭が真っ白になって書けなかった。
1年前に知り合いが全ていなくなった時点で、私は天涯孤独を味わうことになった。何度もエリーさんに会いたいと王城にも言ったが、門前払いされてしまう上に何度も面会を希望するうちに要注意人物となってしまったらしく、業務妨害として厳重注意を受けてしまった。
いろいろなことがあって、気分も悪くなったけれど、なんとか生きている。
その時には、お姉ちゃんのことも、あいつのことも、2人の子供のことも、あの人のことも、エリーさんのことも、トリアさんのことも、王族の方々も、みんなあったことがなかったかのように遠い記憶になっていた。
いつも通り、学校に行こうとして、自宅を出た時、忘れていた頭痛が再発して、あまりの痛さにのたうち回ってしまった。学校から生徒が飛び出してくれて、私を保健室に運び入れて、どこかに連絡を取っているようだった。
しばらくして、保健室に飛び込んできたのは、職業案内所にいたエリーさんだった。
すぐに、エリーさんは、生徒みんなに手伝ってもらって、学校の外にある草原に私を運んだ。
エリーさんに、今までの事情を聞こうとしたけれど、難しい顔をしていたので、それ以上何も聞けなかった。しかも、なんだかエリーさんの顔を見たら安心してしまったのか、涙が出てきた。草原に横たわった私は、エリーさんの魔法か、浮き上がり始めた。地面から1mくらい上昇して止まり、エリーさんの傍らに2人、いつの間にか出現していた。1人は、あの人。もう1人は、去年別れたままの2人の子供だった。
エリーさんの詠唱とあの人の詠唱が、完全に一致した形で紡がれていく。私より上の空中に、なぜか見覚えのある魔法陣が見える。
昔の記憶の端に、引っ掛かるものがある。
「反転魔法陣?」
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