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51 諦める者→公爵令嬢⑨ 記憶

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騎士爵&専属侍女という微妙な身分に変わった元男爵令嬢とお茶をしています。

いつもは、侍女の何人かと情報収集というなのお茶をしているのですが、今回は乙女ゲームの本来の攻略の摺り合わせ。


「すると、全ての始まりは、男爵に轢かれそうになったことからなのね」

「ええ、何故か」


他の乙女ゲームの場合であれば、私生児の女児が男爵令嬢として貴族家に入り、学園での行動により逆ハーレム。身分が一番高い王太子や王子との“真実の愛”を経て、既存の婚約者を断罪して排除。その後は、幸せに暮らしました…という感じ。

もちろん、ゲームなのだから、その後の事は書かれず。

現実なら、そんなことはあり得ない。


「貴族系の馬車に轢かれそうになる事故はかなり多いわ。それなのに、その一例で男爵家か…」

「その事は、男爵令嬢の時から不思議に思っていました」

「はて?」

「そうだ。おかしな事を聞きますが、転生者ですか?」

「え?私のこと?」

「ええ」

「うーん」


聞かれて、記憶を探る。

「分からない。でも、こうしている以前の記憶がないわね。すると、この攻略情報はどこから来たのかしら」

「私は少しあります」

「転生前の?」

「いえ、そもそも死んでいないという薄い記憶ですが」

「死んでいない??」

「病室みたいなところで、夢を見ている感じ。ずっと昔の記憶を追うとそんな感じが…」

「病室…ということは、元の世界のってことよね」

「転生する前の世界なのか、違うのか分かりませんが」

「やっぱり、おかしいわね」

「あのナゾな人たち。何しに来たのか。どこから来たのか。考えたことあります?」

「場を面白くするため…でしょうね」

「それです。世界をどこからか見ていると思いません」

「…ゲームは、見るよりも実際にゲーム内に入って、遊ぶのが一番面白い…か」

「それ、有名な言葉ですよね」

「そうなの?兄が好きな小説に書いてあったことなのだ…け…ど。兄?」


兄って?なに?

頭が痛くなってきた。



「不可思議なことは、慣れないとひどい頭痛がしますから、今は考えずに。それよりも楽しいこと、考えましょう」

渡された…どら焼き?

「どうして、こんなものが…」

「持ってきた方が、頑張って再現したそうですよ」

「私たちだけじゃないのね。前世だか以前だかの記憶って」


世の中は、不思議に満ちあふれているのね。
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