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逃げても逃げても追いかけてくる

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「近寄らないでって言ってるでしょ」
「ああ、コメット。君に私の愛を捧げたい」
「「「「コメット」」」」

今日も朝から逃げる逃げる。
男爵令嬢コメットは、第一王子ラスターの愛の告白から。
第一王子の側近候補たちからも様々な愛の告白を受けているが、全て拒否。
それでも彼らはコメットに近づき、下手をすれば捕まえてどこかへ連れて行こうとする。

「またやっていますよ。どうするのですか?あなたの婚約者でしょう」
「頭がお花畑な婚約者は不要です。今、お父さまが国王陛下と協議中です。きっと良い知らせがもたらされると思います。それと、あの子も救わないと」
「そこまでやる必要があるとは思わないのですが。まぁ、見ているだけでも相手をするのは大変そうに見えるのですが」

***

今日は、男爵令嬢コメット、私(公爵令嬢ローザ)、第一王子ラスター、側近候補4人などの卒業式だ。
本当なら私とラスターは卒業したあとに結婚をする予定だったが、それは解消されている。
浮気ではないものの他の女性をつけ回している。
ストーカーと化している者を国王にする訳にはいかないからだ。
既に悪い方で有名になっていた。

ところが…

「公爵令嬢ローザ。壇上へ上がれ」

卒業式が終わろうとしたそのとき、ラスター他4名が壇上へ上がり叫んだ。
厄介なと思ったが、このままでは終わらないと思い壇上へ足を運んだ。

「貴様は、コメットを虐めていただろう。証拠も証言もある。言い逃れは出来ない」
「そのような事をしたことはありません」
「証拠も証言もあると言った。貴様は卑怯者だ。ここにローザとの婚約を破棄し、真実の愛のコメットとの婚約を宣言する」

…いや、卒業式の前に王子との婚約は解消されて、婚約自体がなかったことになっているのですが。
知らなかったの?

「お断りします」

檀下の自席に座っていたコメットは、はっきりそう言った。

「何を言っているんだ。コメット。もう君を虐めていたローザはいない。これで君は私と婚約できるのだぞ。真実の愛に目覚めた私と国を盛り上げていこうではないか」
「ストーカーが何を言っているんですか。それに証拠も証言も偽装でしょうが。私はローザ様に助けていただきました。何度も。虐めなんてとんでもない」
「大丈夫だ。ローザは直ちに拘束して君の前に今後一切姿を見せることはできなくなる」

何か不穏なことを言っていますが、あなたにそんな権限はありませんよ。

「最後に何か言いたいことはあるか。ローザ」
「それでは、ラスター。あなたとの婚約は今から半年前に解消され、婚約自体がなかったことになっています。それから、卒業と同時に王族から廃され平民になることが決まっています。側近候補の方々は、それぞれの家で廃嫡することが決まっています。つまり、平民になるということです。その上で、これまでの問題行動を重く見て、収監されることになります」
「…何だって?」
「婚約した当時は、一緒にたくさん勉強してこの国をもっと豊かにしたいと言っていたのに、いつからストーカーになってしまったのか。あなたには、ほとほと愛想が尽きました」
「ストーカーではない。真実の愛に目覚めたんだ。コメットが私の番いなんだ」

「番いなんて気持ち悪い言い方しないで下さい。ストーカーは嫌い。婚約なんてするかバカが」

コメットもだいぶ切れ掛っているようね。
無理もないか。

「コメット、少し落ち着きなさい」
「はい。ローザ様…、落ち着きました」
「コメット、私の手を取ってくれないのか」
「断固拒否します」

卒業式が行われているホールに、国王陛下が入って来た。
たぶん、バカがバカなことをすると思って呼んでおいたのだ。

「ラスター、貴様は王族の権威に泥を塗った。ストーカーなどに成り下がりよって。貴様は王族から追放する。それとともに、平民の犯罪者として収監する。行き先は、北方国境線だ」

北方国境線は、隣国との間の小競り合いが長年続いている場所。
兵士の定着率も悪く、戦死者が絶えない場所だ

「北方国境線…」
「他の側近候補も連れて行かせる。自分のしでかしたことを反省するんだな」

ラスターは、その場に跪いてしまい、何かをぶつぶつ言っているようだった。
ラスターと側近候補を拘束して、ドタバタのうちに卒業式は終わった。

***

卒業式からしばらく経って、公爵家にメイド見習いとしてコメットが入って来た。
在学中から長期休みの度に来ていたのだが、卒業を機に正式採用になった。

「ローザ様には本当に感謝しています。もう、何度ダメだと思ったことか」
「もういいってば。それに、それが元でこんなに仲良くなれたのだもの。その点だけはラスターに感謝ね」

ストーカーの避難先、相談先としてコメットが頼りにしたのは、ローザだった。
ローザも状況は知っていたから、その都度援助をしていたのだ。

今は、その問題児もおらず、快適な生活を送ることができていた。

「新しい婚約者を決めないとダメなのよね」

目下の問題は、それであった。
浮気、ストーカー、つきまとい…そういうダメ絶対な行動をしない、ステキな男性は現れるのだろうか?

悩みは尽きない。
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