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8.伯爵視点
私は最初の結婚が心底嫌だった。親に決められた政略結婚。私の元々の好みのタイプは従順で愛らしいタイプだった。
今、妻となったセリーナのように。
領地で大規模な疫病が発生し、領地経営が立ち行かなくなった時、援助を申し出たルファリオ子爵家の娘を娶る事になった。
ルファリオ子爵家はイーノ商会を有し膨大な資金力のある貴族。親父は、その資金力をあてにしたようだった。
妻となったルピナスは、しっかりものの気が強い女だった。女のクセに私の仕事に口を出す。金の遣い方に文句を言う。
生意気で鼻持ちならないルピナスに、私は心底うんざりしていた。
一般的には美しいと言われるルピナスだが、全く男に媚びることのないその性格は可愛げがない。
義務として仕方なく一人だけ子供を作った後は、セリーナを愛人として囲い情事を繰り返した。セリーナは男を立ててくれるし、私に逆らわない。彼女と一緒にいると心から安らぐことができる。
ルピナスは女の子を産んだが、その娘だって可愛いとは思えなかった。
ルファリオ子爵家からの資金援助が続いている限り、忌々しいことにルピナスとの婚姻関係を続ける他無かった。
私は十年間以上、ルピナスとの夫婦生活にずっと耐え続けた。
親父は死に物狂いで我が領地の財政を立て直した。そして、やっと領地の経済が安定したころ、親父はなんの前触れもなくコロリと亡くなった。
やっと死んでくれた。馬鹿な親父。領民のために命を捧げたようなものだ。
私がとうとう当主になった。もうルピナスに用は無い。誰にも文句は言わせない。
私は病気に見せ掛けるように、ルピナスに少しずつ毒を盛った。
暫くしてルピナスは死に、彼女の産んだ娘、シャルロッテだけが残った。
私は直ぐにセリーナを後添えに迎え入れた。セリーナとの間に産まれた娘のパメラはシャルロッテとは違って可愛いかった。母親が違うと、私の愛情も全く違う。
私は仕事で家に居ることが少ないから、シャルロッテに対してセリーナとパメラが何をしていたのかは知らなかった。
シャルロッテに対しては興味すら湧かない。
「シャルロッテには、家の中の事をして貰っていたんですけど、精神を病んでしまったようで使い物になりませんわ。最近では、奇声をあげるようになってしまって……。」
「そうか……。どこかに療養させるか。」
命まで奪ってしまうほど憎くはない。けれど、セリーナが気持ち悪がる人間を屋敷に置いておくことは出来なかった。
「ええ、それなんですけどね。あまりお金が掛かるのも困りますし……いい場所があるんです。」
セリーナの提案で、遠く離れた精神病者専用のサナトリウムにシャルロッテを入れることにした。
シャルロッテの顔を見るとルピナスを思い出して気分が悪くなるから丁度良かった。私の血を半分受け継いでいる娘を殺すのはさすがに忍びない。
私の目の前から消えてくれればそれで良かった。
あいつにはサナトリウムでひっそりと生きていってもらおう。
ルピナスを慕っていた使用人はセリーナが全て辞めさせたようだ。
家の事を取り仕切っていた家令のハリスンすら辞めさせてしまった。
親父の代から勤めていたハリスンは口煩くて鬱陶しく思っていたから別に構わない。別に奴でなくても仕事は出来る。
使用人が入れ替わってしまえば、伯爵邸の堅苦しい雰囲気は柔らかく温かなものとなり居心地が良くなった。
毎日着飾って私を出迎えてくれる妻と娘。
食べきれないほど豪華な料理。
仕事を無理に私に押し付ける家令も居ない。
☆
「なんだ!この請求書と督促状はっ??」
「はい。ソレイクス伯爵家宛に届いた物です。此方のどのように致しましょう?」
「払っておけばいいではないか!」
「ですが……お金がありませんが?」
「はあ?それを何とかするのがお前の仕事だろう?」
「無いものは出せませんよ。全て旦那様が決裁なさったものですが?ほら、ここに。」
確かに全てに私のサインがしてある。
請求書のほとんどが、セリーナとパメラのドレスや宝飾品。屋敷の維持費も今までの三倍に上るような金額だ。
ルピナスはいつだって、伯爵夫人としての品位を失わないように、高級なドレスと宝飾品を身に付けていた。
なのに、セリーナの買ったドレスや宝石の値段の方が高いだって?
全くそうは見えないが……。
纏う人間の品位が違うせいなのか?
自分の金では無いと思って深く考えずに散財する女。
いくら可愛げがあったとしても、とんだ外れクジではないか。
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