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10.シャルロッテ視点
お母様が亡くなってから、全てが変わってしまった。
お父様は葬儀の直ぐ後からセリーナお義母様とパメラを家に招き入れた。
お母様が死んだのにお父様は悲しくないみたい。パメラもお父様の血の繋がった娘なんだって。お父様はお母様が生きていた頃から、セリーナお義母様と関係があったって事?
そして、喪が明けてすぐに二人は正式に夫婦になった。
セリーナお義母様が家に来てから、私は使用人と同じ部屋に移された。
もう、私はソレイクス伯爵令嬢だと思うなってお義母様から言われた。
それからの事はよく覚えていない。
気が付いたら私は侯爵家に住んでいた。
いつも、アルヴィン様が一緒にいてくれる。そして、とても悲しそうな目で私を見るの。
昔は『アル』って呼んでいたんだって。彼は私と幼馴染だって言う。だけど、よく覚えていない。
私の記憶は霧がかかったように朧気だもの。
断片的に残っている記憶の中のあの子がアルかしら?少しふっくらとした陽気な男の子がおどけて私を笑わせてくれた。
侯爵家のお抱えのお医者様が、私の記憶は「きっと辛いものだから思い出さない方がいいです。」って悲痛な表情を浮かべた。
アルヴィン様は黙っていたけど、その表情は怒っているようだった。
「シャノンは一体何をしてたんだ……。シャルがこんなになるまで放っておくなんて……。」
アルヴィン様の乾いた声が聞こえた。
「シャノン?」
私は記憶の一部が無いみたい。私はそのシャノンって人と婚約してたらしい。その人と私は幼馴染で婚約者だったってアルヴィン様は言うけれど、私はその人の顔も思い浮かばない。
その人との婚約は解消されてて、シャノンって人は今はパメラと婚約をしているんだって。
私は時々どうしようも無く落ちつかない気持ちになって泣きじゃくったり、ご飯が食べられなくなったりした。
特に明け方……お母様の亡くなった時間になると、自然に目が覚めて窓の外を眺めて泣いていた。
アルヴィン様はそんな私を心配して、夜明け前の庭園を二人で散歩するのが日課になった。
アルヴィン様はパリッと白いシャツにラフなズボンで私の部屋に迎えに来てくれる。朝のひんやりした空気は澄んでいて心の中も洗われるよう。
気持ちよくて、手を少し開いて大きく息を吸った。
「昨日は眠れた?」
「は、はい。」
未だに話をするのはちょっと怖い。叩かれそうな気がして身体が震えちゃう。
(くちごたえするなっ!!)
女の人の怒鳴り声が聞こえるみたい。
だけど、アルヴィン様が手を繋いでくれると、安心する。
アルヴィン様は私に『触って大丈夫?』って、何度も確認してくれるけど、私は手を繋ぐのが一番好き。手を繋いでる時なら少しずつ話も出来るようになった。手の温もりが私に『大丈夫。俺は味方だよ』って教えてくれてるみたい。
「やっぱり手を繋ぐ方がいいの?」
「は、はい。手を繋いだ方が……怖くない……から。」
夜露が残る庭を歩くのは気持ちが良かった。緑の匂いが濃いみたい。虫も鳥もまだ眠っていて、木々の呼吸の音と私たちの足音だけが聞こえる世界。
アルヴィン様は忙しくて朝食を食べると直ぐに出かけてしまう。それからの時間はまた寂しくて、不安で、胸がぎゅうっとなる。
だけど、アルヴィン様が悲しい顔をしないようにご飯はちゃんと食べるようにした。私のそばにいてくれるアニーも私がご飯を残さないとほっとするみたい。
私の記憶がはっきりしてきたのはミアと再会してから。
生まれ育った家で辛い事がたくさんあった事を思い出した。私は伯爵家の令嬢だった。たくさん守らなきゃいけない人がいたのに、守れなくて悲しかった。
未だに、セリーナお義母様やパメラにされた暴力の記憶は断片的。
そして、シャノンっていう人は記憶から綺麗になくなっていた。その人の事だけ覚えていないっていうのが不思議。
きっと私の心が思い出すなって警告してるんだと思う。
今滞在しているサンチェスカ侯爵家は私の家じゃ無い。
これからの事、真剣に考えなくちゃ。いつまでもアルヴィン様に甘えている訳にはいかないもの。
もう少しだけアルヴィン様のそばに居たい気持ちもあるの。だけど、サンチェスカ侯爵家に迷惑を掛けないように、この気持ちには蓋をしなくちゃ。
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