10 / 19
10.シャルロッテ視点
しおりを挟むお母様が亡くなってから、全てが変わってしまった。
お父様は葬儀の直ぐ後からセリーナお義母様とパメラを家に招き入れた。
お母様が死んだのにお父様は悲しくないみたい。パメラもお父様の血の繋がった娘なんだって。お父様はお母様が生きていた頃から、セリーナお義母様と関係があったって事?
そして、喪が明けてすぐに二人は正式に夫婦になった。
セリーナお義母様が家に来てから、私は使用人と同じ部屋に移された。
もう、私はソレイクス伯爵令嬢だと思うなってお義母様から言われた。
それからの事はよく覚えていない。
気が付いたら私は侯爵家に住んでいた。
いつも、アルヴィン様が一緒にいてくれる。そして、とても悲しそうな目で私を見るの。
昔は『アル』って呼んでいたんだって。彼は私と幼馴染だって言う。だけど、よく覚えていない。
私の記憶は霧がかかったように朧気だもの。
断片的に残っている記憶の中のあの子がアルかしら?少しふっくらとした陽気な男の子がおどけて私を笑わせてくれた。
侯爵家のお抱えのお医者様が、私の記憶は「きっと辛いものだから思い出さない方がいいです。」って悲痛な表情を浮かべた。
アルヴィン様は黙っていたけど、その表情は怒っているようだった。
「シャノンは一体何をしてたんだ……。シャルがこんなになるまで放っておくなんて……。」
アルヴィン様の乾いた声が聞こえた。
「シャノン?」
私は記憶の一部が無いみたい。私はそのシャノンって人と婚約してたらしい。その人と私は幼馴染で婚約者だったってアルヴィン様は言うけれど、私はその人の顔も思い浮かばない。
その人との婚約は解消されてて、シャノンって人は今はパメラと婚約をしているんだって。
私は時々どうしようも無く落ちつかない気持ちになって泣きじゃくったり、ご飯が食べられなくなったりした。
特に明け方……お母様の亡くなった時間になると、自然に目が覚めて窓の外を眺めて泣いていた。
アルヴィン様はそんな私を心配して、夜明け前の庭園を二人で散歩するのが日課になった。
アルヴィン様はパリッと白いシャツにラフなズボンで私の部屋に迎えに来てくれる。朝のひんやりした空気は澄んでいて心の中も洗われるよう。
気持ちよくて、手を少し開いて大きく息を吸った。
「昨日は眠れた?」
「は、はい。」
未だに話をするのはちょっと怖い。叩かれそうな気がして身体が震えちゃう。
(くちごたえするなっ!!)
女の人の怒鳴り声が聞こえるみたい。
だけど、アルヴィン様が手を繋いでくれると、安心する。
アルヴィン様は私に『触って大丈夫?』って、何度も確認してくれるけど、私は手を繋ぐのが一番好き。手を繋いでる時なら少しずつ話も出来るようになった。手の温もりが私に『大丈夫。俺は味方だよ』って教えてくれてるみたい。
「やっぱり手を繋ぐ方がいいの?」
「は、はい。手を繋いだ方が……怖くない……から。」
夜露が残る庭を歩くのは気持ちが良かった。緑の匂いが濃いみたい。虫も鳥もまだ眠っていて、木々の呼吸の音と私たちの足音だけが聞こえる世界。
アルヴィン様は忙しくて朝食を食べると直ぐに出かけてしまう。それからの時間はまた寂しくて、不安で、胸がぎゅうっとなる。
だけど、アルヴィン様が悲しい顔をしないようにご飯はちゃんと食べるようにした。私のそばにいてくれるアニーも私がご飯を残さないとほっとするみたい。
私の記憶がはっきりしてきたのはミアと再会してから。
生まれ育った家で辛い事がたくさんあった事を思い出した。私は伯爵家の令嬢だった。たくさん守らなきゃいけない人がいたのに、守れなくて悲しかった。
未だに、セリーナお義母様やパメラにされた暴力の記憶は断片的。
そして、シャノンっていう人は記憶から綺麗になくなっていた。その人の事だけ覚えていないっていうのが不思議。
きっと私の心が思い出すなって警告してるんだと思う。
今滞在しているサンチェスカ侯爵家は私の家じゃ無い。
これからの事、真剣に考えなくちゃ。いつまでもアルヴィン様に甘えている訳にはいかないもの。
もう少しだけアルヴィン様のそばに居たい気持ちもあるの。だけど、サンチェスカ侯爵家に迷惑を掛けないように、この気持ちには蓋をしなくちゃ。
42
あなたにおすすめの小説
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する
紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。
私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。
その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。
完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる