初恋の人が妹に婚約者を奪われたそうです。

文字の大きさ
11 / 19

11.決断

しおりを挟む

 

 夜明け前の散歩はずっと続いていた。 仕事に行く前のささやかな楽しみだ。

 初めは手を繋が無いと不安で歩けなかった彼女だったが、今では一人で歩けるし、たどたどしいが会話も長く続けられるようになっていた。

 ミアが来てからシャルの回復スピードもあがったと思う。

 シャルの瞳には理知的な光が戻りつつあった。

「朝の澄んだ空気……アルヴィン様の目……みたいな……色。」
「俺の?」
「濃くて深い蒼。私……好き。」
「……そうか……。」
「アルヴィン様、ありがとう……アルヴィン様が……いて……良かった……。」

 シャルは伯爵家で何をされたのか、話す事は無い。俺も聞きたいとは思わなかった。
 
「シャル……君はこの後どうしたい?」

「……あの家……戻るの怖い……。どこかで働く……メイド……になる。」

 シャルロッテはうちを出た後の事をちゃんと考えていたらしい。俺に紹介状が欲しいのだと言ってきた。
 貴族の屋敷に働くには紹介状が不可欠だから、と……。

「……シャル、俺の事……どう……思う?」

「……?……親切で優しい……。」

「男としては?」

「男と……して?」

「そう、俺は結婚相手としてはどう?」

「……結婚……相手?」

 突然「結婚相手としてどう?」なんて聞かれて、彼女は戸惑っているようだった。
 視線を宙に彷徨わせ、深く考える。

「ねえ、シャル。俺はずっとシャルの事が好きだったよ。俺、シャルと結婚したいんだ……。だけど……。」

「……?」

 シャルは不安そうに俺の顔をじっと見つめた。俺の告白をどう感じているのだろう。エメラルドブルーの瞳が、ゆらゆらと揺れていた。
 
「……俺と結婚すると苦労も多いと思う。俺はこれからも外交官として他国へ行くことも多い。結婚したら妻として同伴してもらう機会も増える。そうなると、シャルに語学を学んでもらわなきゃいけないんだ。やっと少し回復してきたばかりのシャルには辛いかもしれない。母だって次期侯爵夫人として、厳しく君を教育することになるだろう……。」

 俺と婚約した後、シャルが背負う事になる苦労を正直に話す事にした。やっと回復したばかりのシャルには酷なのかもしれない。だけど、黙ったまま、『好き』って感情だけで恋人になって、後悔させたくなかった。

「苦労させるかもしれないけど、それでも俺はシャルと結婚したい。」

「私が……アルヴィン様の奥さんに……?」

「そう、俺の奥さん。」

 シャルは決意したようにきゅっと口を引き結び、少し頷くと、強い目で俺を見上げた。

「アルヴィン様と……結婚したい。私も……すき。語学も、侯爵夫人の勉強……も、頑張る。」

「本当に?……シャル……いいの?大変だよ?」

「私……も、アルのため……に、頑張り……たい。嬉し……いの。」

 シャルは俺を見上げて晴れやかに笑う。それは雲の中から太陽が姿を表したみたいに眩しくて……。俺は、きゅうっと目を細めた。

 ああ、そうだ。シャルはいつもこんな風だった。俺が初めて恋した少女はいつもこんな眩しい笑顔を向けてくれてたんだ。

 いつもどこか不安げだったシャルの表情が変わって、瞳に強い光が見える。
 

 俺はシャルの手を取り、そっと甲に口づけた。
 少し赤くなったシャルは、それでも目を反らさず俺を見つめ返してくれる。彼女の瞳にはきちんと俺が映っていた。


 俺にはもう時間が無かった。婚約者でも無いシャルロッテを屋敷に滞在させるのは限界だと父に言われていた。

 もし、シャルロッテが俺との結婚を嫌がった場合、屋敷に長期間独身女性を滞在させると、俺の婚約者になった女性がシャルロッテの存在を気にするだろうと言われた。

 やっと回復してきた彼女に今から侯爵夫人としての勉強や、婚約準備などの負担を強いたく無かった。

 だけど、どうしても彼女以外の女性と結婚などしたく無くて……。

「私、……こんな話し方……してちゃダメだね。直さなきゃ……。」

 俺の手を握ったまま、腕に額を押し付けてシャルが小さく呟いた。

「シャル……辛かったら俺に言って。俺、絶対に助けるから……。」

「うん。アル……大好き。」

「俺も。」

 シャルロッテが俺の求婚を受け入れてくれた。だからこれからは侯爵夫人教育という名目で屋敷に滞在すればいい。それなら、父も納得するだろう。

 俺は、シャルを抱きしめるのに躊躇して、背中に回しそびれた手を握りしめていた。
しおりを挟む
感想 100

あなたにおすすめの小説

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。 将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。 レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

処理中です...