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14.夜会②
しおりを挟む「シャルロッテ!貴女が何故ここにいるの?」
「止めてください。ソレイクス夫人。」
シャルに詰め寄ろうとしたソレイクス夫人と彼女との間に身体を滑り込ませた。堂々として見えるシャルだが、内心は怯えているはずだ。
やっと癒えた傷。シャルの心を守らなければ。
シャルの姿を見て平静さを失っているソレイクス夫人は目を吊り上げている。
このような夜会の場で淑女が見せていい表情ではない。
「ソレイクス夫人、今、ご自分がどのような顔をしているかご自覚ください。俺の大切な婚約者にそのような目を向けられては困ります。」
「え、ま、まあ、おほほ。」
ソレイクス夫人はサッと表情を変えて扇で口元を覆い取り繕うように笑った。
「まさか、ソレイクス夫人はご自宅でいつもシャルにそのような態度を?」
「まさか!勘違いよ。その子がわたくしたち親子を虐めていたのに……。ただ、王都に居るはずのないその子がどうしてこの場所にいるのかと思って、驚いただけで……。わたくしたち親子の方がシャルロッテには傷つけられてきたのに……。」
周囲へのアピールなのか……。ソレイクス夫人は悲しそうに目を伏せた。
白々しい演技だ。
もう既に本性はバレている。もうすでに会場中の視線がこの場に集まっていた。
「シャルロッテお嬢様がセリーナ奥様を虐めたことなどありませんよ。」
いつの間にか近くにいたミアがきっぱりと声を上げた。周囲には他にもソレイクス伯爵家に勤めていた使用人たちが集まってきて、ソレイクス夫人を取り囲む。
会場の入り口に向かっていたソレイクス伯爵は、自分の妻が注目を浴びているのにやっと気が付いたようだ。
慌てて方向転換し、此方の方に向かってきた。
ハリスンに気を取られていて、騒ぎに気が付くのが遅かったようだ。
しかし、すでに夫人は醜態を晒した後。
周囲の人々の目は冷たい。
「お、お前たち、何をしているんだ?」
ソレイクス伯爵の声を聞いた夫人は、幾分ほっとしたような表情を浮かべ、伯爵に向かって助けを求めた。
「わたくしたち親子を虐げていたシャルロッテが戻って来たのです。わ、わたくし……また酷い言葉を浴びせられるのかと不安で……。だから、どういうことか尋ねようとしていたのですわ。」
証言者が揃っているのにも関わらず、夫人はまだ被害者のように振る舞った。
どうにか出来るとでも思っているのか?
「また嘘を吐くんですか?逆です。貴女たち親子が来てお嬢様に暴力を振るったんです。わたくしたち使用人も、貴女たちに暴行を受けました。」
ミアやその場にいた使用人たちが、腕や手についた傷痕をソレイクス伯爵に見せつけた。
「シャルロッテお嬢様も同じです。ソレイクス夫人やパメラ様に言葉が話せなくなるほどの暴行を受けていました。」
話を聞いたソレイクス伯爵は真っ赤な顔。怒りが爆発するのをギリギリのところで抑えているようだ。
「お前たち、そんな事をしていたのか……。使用人とはいえ、暴行したのなら罪に問われる事になる。離婚だ。直ぐに屋敷を出ていってくれ。」
ソレイクス伯爵は厳しい顔で二人を睨み付けた。
「え?」
庇ってくれると思っていた伯爵に、切り捨てられた二人は慌ててソレイクス伯爵にしがみついた。
「ギデオン様、……そ、そんな……出ていけだなんて……。」
「お父様!酷いわ。私たち住むところも無くなってしまうわ!」
夫人とパメラは涙目で必死にソレイクス伯爵に許しを乞うが、謝る相手が違う。周囲に居る元使用人たちは冷ややかに二人を見ていた。
「愚かなのは伯爵も同じです。同じ屋敷に居ながら、シャルロッテお嬢様の窮状に気が付かなかったのですから。そして、ルピナス奥様の死も不自然でしたねぇ。」
「ハリスン……。誤解を招くような事をこの場で言うのは止めてもらおう。」
入り口にいたはずのハリスンもいつの間にか移動して、シャルを守るように私の隣に立っていた。
「アルヴィン様が色々とお調べになって証拠を集めたようですよ?私も少々協力はしましたが……。お金を払って口止めしても、更にお金を積めば人間すんなりと秘密を話すものです。 」
ハリスンの言葉にソレイクス伯爵はサッと顔色を変えた。自分自身もすでに窮地に追い込まれていることをようやく理解したようだ。
「ルピナス奥様付きの侍女だったハンナを覚えていますか?彼女……何かの罪で自首したようですよ。ねぇ、伯爵。何かご存知ではありませんか……?」
「な、な、な、何のことを言っているのか、わ、分からないな。わ、私は気分が悪い。もう失礼しよう。」
『ハンナ』という名前はよほど効果があったのだろう。
ソレイクス伯爵は妻子を置いて、逃げるように会場を出ていった。
恐らくは証拠隠滅のために……。
けれど、既に遅効性の毒の取引記録は商会から提出されているし、実行犯の証言もある。
そして、ハリスンはソレイクス伯爵家を辞める時に証拠を持ち出していた。
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