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16.シャルロッテ視点②
しおりを挟む※少し遡ります。
夜会を控えたある日
アルヴィン様の求婚を受け入れた私は、毎日の淑女教育に加え、夜会の招待状を準備したり、婚約発表に向けた準備に追われた。
初めは家庭教師の先生方と話すことも怖かったけれど、今はもう女の人の怒鳴るような幻の声は聞こえない。
何より、アマリリス様が選んでくださったアルの瞳のような深い蒼のドレスを着るのが楽しみだった。
そんなある日、アルに大切な話があると言われて、二人だけでお茶を飲みながら話をすることにした。
「シャル、落ち着いて聞いて……。とてもショックな話だと思うんだけど……。うーん、本当に話をしても大丈夫かな……。」
アルはとても話しにくそうで、私を気遣ってくれているみたい。どうしても伝えなければならない大切な話なのだろう。私はそんな彼の気持ちが嬉しかった。
「アル、大丈夫よ。話をして?」
「……君のお母さんなんだけど……恐らくソレイクス伯爵に殺されたんだと思う。」
実は少し予想してたことだった。お父様の態度、そしてハリスンが侯爵家に来てからアルは何かを調べているようだったから。
「はい。もしかしてそうかな??って薄々感じてたから。」
「ごめんね。シャルにはショックだと思うんだけど……。母親が殺されて、犯人が実の父親なんて……。」
私が落ち着いて話を聞いていたのでアルは安心したようだった。
アルは当時お母様付きの侍女だったハンナが実行犯であることを教えてくれた。
「今度の婚約発表の夜会、ソレイクス伯爵家の人たちも参加することになった。先に身柄を拘束されるかと思っていたが間に合わなかったようなんだ……。本当はもう二度とシャルには会わせたくなかったんだけど……。」
アルの話によると、全ての証拠は既に捜査機関に提出されているのだけれど、高位貴族であるお父様を捕縛するためには、色々と手続きが必要らしい。
「平気よ。アルとお似合いに見えるようになりたいもの。頑張るわ。」
任せて、と言う意味を込めてアルに向かって小さく拳を握った。
婚約発表の夜会当日、私はやっぱりお義母様とパメラを見て身体が強張ってしまった。
刻み付けられた恐怖は直ぐには消えないみたい。
そんな私の変化にアルは直ぐに気が付いてくれた。
力強いアルの手が、ぐっと私を引き寄せてくれた。その手はいつも私を守って勇気を与えてくれる、ゴツゴツした手。
お義母様とパメラが私に詰め寄ろうとした時、アルは私を背中に庇ってくれた。
お父様やお義母様、パメラの罪が暴かれるのをアルの背中ごしに見ていた。
きっと皆、逮捕されてしまう。
家族だったのだから、心配しないといけないのに、何故か同情する気持ちも起こらなかった。
私は冷たい人間なのかもしれない。
元婚約者だったというシャノンを見たのはほんの一瞬。しっかりと目を合わせたはずなのに、記憶に残らなくて直ぐに顔を忘れてしまった。
アルはシャノンを思い出して欲しく無いみたい。
「独占欲が強いのかな?」って彼は笑うけれど、同じ立場になったら私も思い出して欲しく無いって思う。
だから彼のことはこのまま忘れていよう。
☆
シャノン様がお義母様とパメラを連れて会場を出ていった後、夜会はようやく本来の華やかさを取り戻した。
「シャル、踊ろう?」
その逞しい背中で私を守ってくれたアルが照れ臭そうに手を差し出してくれた。
久しぶりに踊る夜会でのダンス。
きっと、注目を浴びてる。
だけど、アルの婚約者として、相応しくありたいから堂々としていよう。
私は彼にしか見せない、とびきりの笑顔を浮かべて彼の手に自分の手を重ねた。
楽団の奏でるワルツは楽しげで華やか。
アマリリス様からいただいたダイヤのパリュールはシャンデリアの光を受けて煌めく。
アルの優しいリードと熱の籠った視線が私を更に高揚させてくれる。
大好きな人と最高の舞台でダンスを踊るこの瞬間、私はこれ以上ないくらいの幸せを感じた。
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