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15.夜会③
急いで会場を出ていくソレイクス伯爵を、夫人とパメラは呆然と見送っていた。
ん?馬車は?
置いていかれたこの二人の馬車は我が家で用意するか……。
そこで漸くやって来たシャノンがパメラの腕を引いた。
自分がパメラの婚約者だという自覚はあったらしい。
「パメラ、どういう事?シャルに虐められていたというのは嘘なのか?」
シャノンはこの騒ぎに圧倒され遠巻きにしていたが、さすがに看過出来なかったのだろう。
彼は他の貴族たちの視線を気にしながらも、一応自分の婚約者を連れにきた。
シャノンはパメラに騙されたことを怒っているのかもしれない。パメラへの口調は問い詰めるような厳しいものだった。
大勢の証言者の前でこれ以上嘘は重ねられないと悟ったのだろう。シャノンに問い詰められたパメラはワナワナと唇を震わせ悔しげに俯いた。彼女の本性が現れた醜い表情。
シャノンは真実に気が付くのが遅すぎた。これだけ大勢の貴族の前で醜態を晒した令嬢の婚約者が自分だという事実に、いつも穏やかなシャノンも苛ついているようだ。
「パメラ、全部、嘘だったのか……。君がシャルを……。」
「だって……。」
シャノンは大きくため息を吐きシャルの方を向いて目を細めた。
「シャル、綺麗になったね。見違えていて驚いたよ。」
呑気な事だ。
あの酷い状態だったシャルをこいつは知らない。
シャノンの事は覚えていないのだろう。シャルは曖昧に微笑んだ。
「ありがとうございます。」
嫉妬かもしれない。
昔好きだった男にシャルの着飾った姿をこれ以上見られるのは嫌だった。
「シャルはお前の事は覚えていないんだ。」
俺はシャノンの視線を遮るようにシャルの前に立った。
「えっ?」
「何故かは分からない。だけどシャルロッテの記憶から、シャノン、お前だけは消えたんだ。」
シャルはパメラの婚約者となったシャノンを忘れようとしたんだろう。その結果、本当に綺麗さっぱり記憶を失ってしまった。
それだけシャルはシャノンの事が好きだったのかと胸が痛む。
義妹のために、きっぱりと想いを絶ち切るために、シャルはシャノンとの思い出を封じ込めたんだ。
「どうして……シャル……幼なじみなのに、寂しいじゃないか。俺の事思い」
「『思い出してよ』なんて言うなよ?」
俺はシャノンの言葉に自分の言葉を重ねた。
相変わらずシャノンの態度は自分勝手で、シャルの苦痛を何も分かっていない。
「彼女がどんな気持ちでお前の事を忘れたと思ってるんだ?お前が彼女にした仕打ちを忘れた訳じゃ無いだろう?」
「お、俺はなにも……。」
「自分の婚約者の窮状にも気付かず、あっさり別の女にのりかえたのに?」
俺はシャルをここまで追い詰めたシャノンにこれ以上彼女に関わって欲しく無かった。
「アル?シャノン様って男性はパメラたちに騙されていたのよ?仕方ないわ。」
シャルが俺の背後からぴょこりと顔を出そうとしたので、俺は振り返って彼女を抱きしめた。
俺の突然の行動に周囲の人々は驚いて、
ーーそして、ため息が漏れる。
人目なんて気にしていられない。そして、ここは俺たちの婚約発表の場。
これぐらいの行為なら許されるだろう。
「俺との婚約発表で、俺の色のドレスを纏って……。そんな美しい姿で他の男の事を考えないでくれ。」
独占欲が強いと思われただろうか?
けれど、呻くよう小さな声で懇願する俺の顔を見て、シャルは宥めるように腕を優しく擦ってくれた。
「アル?……ごめんなさい。そうね、確かに嫌だわよね。」
俺はシャルを胸に抱き込んだまま、シャノンを振り返った。
「君の婚約者はパメラだろう?さあ、彼女たちは疲れているようだ。君が連れて帰ってくれないか?」
居心地悪そうに俯いている母子をシャノンに押し付けると、彼は仕方なさそうに二人を連れて会場を出ていった。
会場の端にはトレスレー伯爵が此方の方を注意深く見ていた。息子と婚約者の醜聞について、頭を痛めている事だろう。
意外に息子をきっぱりと諦めるのかもしれない。確か優秀な弟もいたはずだ。今は寄宿学校に入っているが……。
トレスレー伯爵が息子を見る目は冷ややかだった。
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