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17.誕生日①
もうすぐ、シャルの誕生日。
実母が亡くなってから一度も祝ってもらってない自分の生まれた日。俺はとっておきの思い出を作りたくて、一緒に領地へと旅行することにした。
侯爵領は海沿いのリゾート地を有する風光明媚な場所。領地を案内しながら名物料理を食べたり、若いカップルに人気のデートスポットを見て回ると、シャルの気分も晴れるだろう。
最近は結婚式に向けての準備で忙しかった。伯爵や義母子の裁判も重なって心労があったろう。それでも侯爵夫人教育にも真摯に取り組むシャルのことを母は大絶賛していた。
「シャルちゃんがアルヴィンの婚約者で良かったわ。勉強熱心だし素直だし可愛いし。まだ二人の結婚に横槍を入れてくる人もいるから、しっかり牽制しておくわね。」
俺との婚約を打診していた令嬢たちの中に諦めきれない者がいるらしい。けれど両親はシャルのことを気に入っていて、何としてもシャルを守り抜いてくれるはずだ。
もちろん俺も……。
シャルの父親は有罪となって爵位は剥奪、強制労働所に収監されることになった。あの年齢だともう出てくることは無いだろう。
そして、セリーナとパメラは平民となり、暴行した元侍女に慰謝料を払うことになった。全て払い終わるまでは監視もつく生活。二人は裁判で文句を言い続け、判決がでると発狂したように叫んでいたそうだ。
彼女たち二人は遠くの街に移送された。もう会うことも無いだろう。
シャルは相変わらず伯爵家で何が起こったのかは話さない。ただ淡々とやるべきことをして日々を過ごしていた。
☆
「わあ!あれが海?なんてきれい……。」
馬車の小窓から景色を眺めていたシャルは大きな目をキラキラさせて、俺を振り返った。
「ああ、そうだよ。今日は波が穏やかだな。」
薄曇りの空で日差しもそれほど強くない。海の透き通ったエメラルドブルーはシャルの瞳を思い起こさせた。
「風の匂いが違うみたいね。」
「ああ、海沿いは潮の香りがするんだ。少しそばに行こうか?」
馬車を止めて、浜辺に降りていくと波の音が聞こえてきた。今日はちょっと裕福な平民のような服装を選んだ。正式に結婚する前にシャルにのんびりした時間をプレゼントしたかった。
もちろん護衛も変装して潜んではいる。完全に平民のように自由というわけにはいかないが……。
「不思議……。何度も水が押し寄せては戻るなんて……。」
はじめて海を見るシャルは珍しいのかずっと海の方をぼんやりと眺めていた。
シャルは俺にも母にも弱音を吐いたことが無い。その小さな身体にどれほどのものを抱えているのだろう。
その背中が儚くて、今にも消えてしまいそうで……。
おれはたまらない気持ちになって背後からそっと抱きしめた。
「ア、アル……?人に見られちゃうわ。」
恥ずかしそうに俯いたシャルの髪にキスを落とした。
ふわりと清潔な石鹸の匂いが鼻腔を擽る。
「関係ないよ。俺たちは婚約者なんだから……。」
観光客だろうか?人々が俺たちを横目でチラリと見て通り過ぎていく。シャルの耳は燃えそうなほど真っ赤になっていて、このまま食んでしまいたい衝動を必死に抑えた。
こんな場所でこれ以上の事をしたら、シャルは本気で怒ってしまうかもしれない。
シャルの小さくて柔らかい身体をいつまでも抱きしめながら、彼女が自分の腕の中にいる喜びをかみしめていた。
☆
浜辺には露店が並んでいて、魚や貝を串焼きにして売っていた。
「海のお魚って美味しいんでしょう?私、湖や川に住むお魚しか食べたことないの。」
ニコニコしながら、シャルは露店に並ぶ魚を見ていた。
「食べる?」
「え、でも……ここで?」
食べ歩きなんてした事は無いのだろう。
戸惑うシャルに魚の串焼きを一本買って渡した。
「ここで食べるの?」
シャルは齧るのが恥ずかしいのか、困っているから俺は自分の串焼きの魚を手で小さく千切ってシャルの口元に差し出した。
「ほら、食べてみて。」
おずおず小さく口を開けてシャルは魚を口に入れた。
「あっ。美味しいっ!!」
「良かった。」
シャルの嬉しそうな顔を見ながら、俺も一口齧ると白身の魚はホロホロと口の中で崩れた。
「うん。旨いね。」
「ええ!川で捕れるお魚と違うわ。」
俺たちは観光で来たカップルのようにあちこちの露店で食べ歩きをして、時々海を眺めて、そうやってのんびり時間を過ごした。
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