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19,或る文官の奮闘
「パンデルム帝国の援助は既に不可欠です。我が国は慢性的な食糧難です。どうか、パンデルム帝国との関係を強固にするために、二人の間に世継を。」
アルベート殿下がパンデルム帝国からの縁談を断っているので説得して欲しいと陛下に頼まれ、複数の文官で殿下の説得を試みている。
私はこのために
「我が国の近年の経済状況」
「農作物の収穫量」
「各領地の税収」
「我が国と隣接する国との兵力、武器、軍の予算の比較」
「各地の雨量」
と、殿下が反論出来ない量の資料を準備した。
どうして今さらこんな事を説明しなければいけないのか……
把握していて当然の事柄をわざわざ資料を使って説明する事に、私達文官は苛ついていた。
婚姻後も
「殿下の執務室にはライラール様が来ている。人払いされている。」
「シンシア様が殿下の居住スペースに入ろうとしたら側近が追い払ったらしい。」
「殿下はシンシア様と閨を共にしていないようだ。」
「ライラール様を殿下の部屋の隣室に住まわせているらしい。」
耳に入るのは頭の痛い話ばかり。
幸い、嫁いできたシンシア王女は穏やかな性格で、感情的にはならず、淡々と日々を過ごしていた。良識のある人柄は私達には好ましく見えた。
★★★
私イリュージュは、ユリカ王国で働く文官だ。
財政を担当する部署で働いている。
ユリカ王国は雨が少なく、ここ数年農作物の不作が続いている。
3年前の飢饉では、経済的に困窮していた民のためにパンデルム帝国が食糧を援助してくれた。
軍事的には対立しているのに…懐の深い国だと当時は随分驚いた。
しかし、それ以降も農地は何の改良もしていないため、現在も不作が続いている。
このままでは我が国は豊かになることは出来ない。
危機感を共有出来ていたのは文官のみだった。
「乾燥に強い作物の研究を。」
「水路の整備を。」
「我が国と同じような国で作られている作物の種を持ち帰り栽培するべきです。」
「土の改良を。」
様々な意見が研究者や文官から出ていたが、貴族が封殺した。
「パンデルム帝国との軍事協定で領土を広げ、奴隷を増やせば手っ取り早く食糧難を克服出来る。」
そんな訳あるかっ!奴隷だって動くには食糧は必要だ。
★★★
「パンデルム帝国から宣戦布告がされました。」
アルベート殿下がシンシア王女を刺したあと、我が王宮に働いていた者も何人か姿を消した。
私と同じ部署で働いていた者もいたし、女官、文官、武官、と職種も様々だった。
宣戦布告の後、我が国で一番の武力を誇る辺境の地が一日待たずに攻め落とされた。
「犠牲の少ないうちに、降伏をしてくれれば。」
「国が戦場になったら復興に時間がかかる。」
「結果が見えているんだから、早めの降伏宣言を。」
そんなことを囁くのは文官ばかり。しかし立場上、陛下に進言することなんて出来ない。
★★★
高位貴族は領地を没収されるため、降伏には応じない。
陛下も決断が出来ず、我が国は5日間という短さで攻め落とされた。
その後は驚く程の早さで戦後処理が進んでいく。
パンデルム帝国は既に振り分けを終えていたようだ。
領民にとっての良い統治をしていた貴族はそのまま領地を持つことを許された。一方で税が高く、領民の生活が成り立っていなかった領地を治めていた貴族は領地を没収され、爵位を剥奪された。
良い統治をしていたと判断されたのは全て伯爵家以下の小さな領地を持つ善良な貴族だった。
私達文官は別の働き場所を斡旋された。
★★★
王宮跡地を見る。
瓦礫はまだ残ったままだ。
一年経った今でも雑草はパラパラと生えているだけ。
小石に砂の混ざった地面は白く乾いている。
あの豪奢だった王宮は、中の調度品を運び出した後取り壊された。
跡地の再利用としてこれから作物の研究所を建てる予定になっている。
私が計画書を提出し、パンデルム帝国に承認された。
いつかと思い、コツコツと雨量や収穫量、作物の品種など、細かくまとめておいた資料が役に立った。
同じ作物だと思っていても、良く調べると葉の形や実の形が微妙に違っていることを研究者が教えてくれた。
各地の収穫量の差との関連があるかもしれないと思い、それぞれの種類ごとに乾燥への強さ等を調べたのだ。
研究所はパンデルム帝国のヤイサフリ侯爵家が資金を出してくれることになっている。
私は研究所でこの地に住む人が食べ物に困る事が無いように働くつもりだ。
王族も今は幽閉されており、王族と姻戚関係にある公爵家、侯爵家も全て無くなり、男性は強制労働所、女性は修道院にいる。
ザッザッ、
足音がして振り向くと、ケントがいた。
ケントはシンシア王女と共に姿を消した間諜の一人だ。
「イリュージュ、どうしたんだ?こんなところで。感傷に浸ってたのか?」
「まさか。ケントこそどうしたんだ?」
「ああ、相談したい事があって……。」
研究所が完成したらケントは私の上司になる。
私の長年の調査内容を知っていた彼は、パンデルム帝国に計画書を提出するよう勧めてくれた。
そして、私と一緒に仕事がしたいとこの地に来てくれたのだ。
国が変わろうと、幸せにしたいのはこの地に住む民だ。
アルベート殿下がパンデルム帝国からの縁談を断っているので説得して欲しいと陛下に頼まれ、複数の文官で殿下の説得を試みている。
私はこのために
「我が国の近年の経済状況」
「農作物の収穫量」
「各領地の税収」
「我が国と隣接する国との兵力、武器、軍の予算の比較」
「各地の雨量」
と、殿下が反論出来ない量の資料を準備した。
どうして今さらこんな事を説明しなければいけないのか……
把握していて当然の事柄をわざわざ資料を使って説明する事に、私達文官は苛ついていた。
婚姻後も
「殿下の執務室にはライラール様が来ている。人払いされている。」
「シンシア様が殿下の居住スペースに入ろうとしたら側近が追い払ったらしい。」
「殿下はシンシア様と閨を共にしていないようだ。」
「ライラール様を殿下の部屋の隣室に住まわせているらしい。」
耳に入るのは頭の痛い話ばかり。
幸い、嫁いできたシンシア王女は穏やかな性格で、感情的にはならず、淡々と日々を過ごしていた。良識のある人柄は私達には好ましく見えた。
★★★
私イリュージュは、ユリカ王国で働く文官だ。
財政を担当する部署で働いている。
ユリカ王国は雨が少なく、ここ数年農作物の不作が続いている。
3年前の飢饉では、経済的に困窮していた民のためにパンデルム帝国が食糧を援助してくれた。
軍事的には対立しているのに…懐の深い国だと当時は随分驚いた。
しかし、それ以降も農地は何の改良もしていないため、現在も不作が続いている。
このままでは我が国は豊かになることは出来ない。
危機感を共有出来ていたのは文官のみだった。
「乾燥に強い作物の研究を。」
「水路の整備を。」
「我が国と同じような国で作られている作物の種を持ち帰り栽培するべきです。」
「土の改良を。」
様々な意見が研究者や文官から出ていたが、貴族が封殺した。
「パンデルム帝国との軍事協定で領土を広げ、奴隷を増やせば手っ取り早く食糧難を克服出来る。」
そんな訳あるかっ!奴隷だって動くには食糧は必要だ。
★★★
「パンデルム帝国から宣戦布告がされました。」
アルベート殿下がシンシア王女を刺したあと、我が王宮に働いていた者も何人か姿を消した。
私と同じ部署で働いていた者もいたし、女官、文官、武官、と職種も様々だった。
宣戦布告の後、我が国で一番の武力を誇る辺境の地が一日待たずに攻め落とされた。
「犠牲の少ないうちに、降伏をしてくれれば。」
「国が戦場になったら復興に時間がかかる。」
「結果が見えているんだから、早めの降伏宣言を。」
そんなことを囁くのは文官ばかり。しかし立場上、陛下に進言することなんて出来ない。
★★★
高位貴族は領地を没収されるため、降伏には応じない。
陛下も決断が出来ず、我が国は5日間という短さで攻め落とされた。
その後は驚く程の早さで戦後処理が進んでいく。
パンデルム帝国は既に振り分けを終えていたようだ。
領民にとっての良い統治をしていた貴族はそのまま領地を持つことを許された。一方で税が高く、領民の生活が成り立っていなかった領地を治めていた貴族は領地を没収され、爵位を剥奪された。
良い統治をしていたと判断されたのは全て伯爵家以下の小さな領地を持つ善良な貴族だった。
私達文官は別の働き場所を斡旋された。
★★★
王宮跡地を見る。
瓦礫はまだ残ったままだ。
一年経った今でも雑草はパラパラと生えているだけ。
小石に砂の混ざった地面は白く乾いている。
あの豪奢だった王宮は、中の調度品を運び出した後取り壊された。
跡地の再利用としてこれから作物の研究所を建てる予定になっている。
私が計画書を提出し、パンデルム帝国に承認された。
いつかと思い、コツコツと雨量や収穫量、作物の品種など、細かくまとめておいた資料が役に立った。
同じ作物だと思っていても、良く調べると葉の形や実の形が微妙に違っていることを研究者が教えてくれた。
各地の収穫量の差との関連があるかもしれないと思い、それぞれの種類ごとに乾燥への強さ等を調べたのだ。
研究所はパンデルム帝国のヤイサフリ侯爵家が資金を出してくれることになっている。
私は研究所でこの地に住む人が食べ物に困る事が無いように働くつもりだ。
王族も今は幽閉されており、王族と姻戚関係にある公爵家、侯爵家も全て無くなり、男性は強制労働所、女性は修道院にいる。
ザッザッ、
足音がして振り向くと、ケントがいた。
ケントはシンシア王女と共に姿を消した間諜の一人だ。
「イリュージュ、どうしたんだ?こんなところで。感傷に浸ってたのか?」
「まさか。ケントこそどうしたんだ?」
「ああ、相談したい事があって……。」
研究所が完成したらケントは私の上司になる。
私の長年の調査内容を知っていた彼は、パンデルム帝国に計画書を提出するよう勧めてくれた。
そして、私と一緒に仕事がしたいとこの地に来てくれたのだ。
国が変わろうと、幸せにしたいのはこの地に住む民だ。
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