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それからの日常
初夜以降も私たちは閨を共にすることは無かったが、それは私たちが実質的には夫婦になっていない事を貴族に知らしめてしまった。
私は祈りの儀と淑女教育で忙しくて、王国内の貴族令嬢と交流する機会は少ない。
けれど、王宮には様々な令嬢が出入りをしていて、話し掛けられることもしばしばあった。
「あら?聖女様ではありませんか?」
王宮の中庭を散歩していると、行儀見習いに上がっている令嬢達がにこやかに話し掛けてきた。
表面上はにこやかであるが決して友好的では無い。
「ごきげんよう。」
「殿下はご一緒じゃありませんのね?」
「え、ええ。執務だと……。何か……?」
「殿下が何をしてらっしゃるか何もご存知では無いのですね。」
「?」
「ふふふ、いいえ何でもありませんわ。聖女の威光を笠に着ようと、殿下にはラディール様という想い人がいますもの。」
真ん中の令嬢は意味ありげに意地悪く微笑む。
取り囲む令嬢も蔑むような視線を向けている。
そんな事……態々言われなくても分かっている。殿下の心の中は彼女でいっぱいなのだから………。
しかし、怯む訳にはいかない。
私が傷付いて王宮を去ろうとすれば彼女たちの思うつぼだ。
私は努めて冷静に見えるよう、少しだけ微笑んで見せた。
「そうですわね。」
私が気にする様子もなく余裕があることが、この令嬢は気に食わないらしい。
「恋人同士を引き裂いても、結局は殿下の寵愛を得られないのですから早く離縁なさったらいかが?」
防衛の要となる一部の貴族以外は、結界が弱まっていることを知らない。国民への不安が拡がるのを防ぐためだ。
私が居た孤児院のように魔の森近くの村は結界が弱まっているのを肌で感じていたが……。
私は結界の強化だけに尽力し、豊穣の祈りは捧げていなかったから、王国内では、聖女の力を疑問視する声もあった。
しかし、陛下は聖女の力が必要だと強く言明したことでこうやってコソコソ嫌みを言いにくるのだ。
「ラディール様は心労で倒れてから伏せることが多くなったとか……。」
「……。」
「誰かさんが正妃の座にしがみついているから……。どうせ殿下の閨への訪れはないのでしょうけど。」
取り囲む令嬢からクスクスと嘲笑が漏れる。
そこへ、クラウド様が私たちの様子に気が付いて此方に近づいてくるのが見えた。
「で、では、ごきげんよう。」
令嬢達はそそくさと庭園を出ていった。
「大丈夫ですか?何か言われていたのでは?」
クラウド様は令嬢が庭園を出ていったのを見送ると気遣うように声を掛けてくれた。
「いえ。大丈夫です。それよりも殿下の護衛は?」
「今は他の者と交代している時間です。ノクティスにミュゼリール様の様子を見てきて欲しいと頼まれて。」
「そうでしたか。ありがとうございました。ご心配をおかけして……。」
「いえ、本当に大丈夫でしたか?俺に言えなくても必ずアーシャント殿下には言ってくださいね。」
クラウド様は本気で心配してくれているらしい。
強面な彼が眉をへにょりと下げるのが可愛らしい。
既に私はあの令嬢達に負けず仮面夫婦を続ける事を心に決めていた。
「ええ、これしきの事で落ち込んではいられませんもの。聞き流します。」
私が予想外に逞しく宣言したものだから、クラウド様は意外だったのか、目を大きく見開いている。
そんなクラウド様に私はニッコリと微笑んだ。
「私の望みは人々の安全です。殿下の寵愛を受けることではありません。」
その言葉でクラウド様は合点したようだった。
「令嬢達の事は此方できちんと調査して対処します。」
クラウド様の背中を見送りながら、私は令嬢達に言われた事を思い返していた。
私は祈りの儀と淑女教育で忙しくて、王国内の貴族令嬢と交流する機会は少ない。
けれど、王宮には様々な令嬢が出入りをしていて、話し掛けられることもしばしばあった。
「あら?聖女様ではありませんか?」
王宮の中庭を散歩していると、行儀見習いに上がっている令嬢達がにこやかに話し掛けてきた。
表面上はにこやかであるが決して友好的では無い。
「ごきげんよう。」
「殿下はご一緒じゃありませんのね?」
「え、ええ。執務だと……。何か……?」
「殿下が何をしてらっしゃるか何もご存知では無いのですね。」
「?」
「ふふふ、いいえ何でもありませんわ。聖女の威光を笠に着ようと、殿下にはラディール様という想い人がいますもの。」
真ん中の令嬢は意味ありげに意地悪く微笑む。
取り囲む令嬢も蔑むような視線を向けている。
そんな事……態々言われなくても分かっている。殿下の心の中は彼女でいっぱいなのだから………。
しかし、怯む訳にはいかない。
私が傷付いて王宮を去ろうとすれば彼女たちの思うつぼだ。
私は努めて冷静に見えるよう、少しだけ微笑んで見せた。
「そうですわね。」
私が気にする様子もなく余裕があることが、この令嬢は気に食わないらしい。
「恋人同士を引き裂いても、結局は殿下の寵愛を得られないのですから早く離縁なさったらいかが?」
防衛の要となる一部の貴族以外は、結界が弱まっていることを知らない。国民への不安が拡がるのを防ぐためだ。
私が居た孤児院のように魔の森近くの村は結界が弱まっているのを肌で感じていたが……。
私は結界の強化だけに尽力し、豊穣の祈りは捧げていなかったから、王国内では、聖女の力を疑問視する声もあった。
しかし、陛下は聖女の力が必要だと強く言明したことでこうやってコソコソ嫌みを言いにくるのだ。
「ラディール様は心労で倒れてから伏せることが多くなったとか……。」
「……。」
「誰かさんが正妃の座にしがみついているから……。どうせ殿下の閨への訪れはないのでしょうけど。」
取り囲む令嬢からクスクスと嘲笑が漏れる。
そこへ、クラウド様が私たちの様子に気が付いて此方に近づいてくるのが見えた。
「で、では、ごきげんよう。」
令嬢達はそそくさと庭園を出ていった。
「大丈夫ですか?何か言われていたのでは?」
クラウド様は令嬢が庭園を出ていったのを見送ると気遣うように声を掛けてくれた。
「いえ。大丈夫です。それよりも殿下の護衛は?」
「今は他の者と交代している時間です。ノクティスにミュゼリール様の様子を見てきて欲しいと頼まれて。」
「そうでしたか。ありがとうございました。ご心配をおかけして……。」
「いえ、本当に大丈夫でしたか?俺に言えなくても必ずアーシャント殿下には言ってくださいね。」
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既に私はあの令嬢達に負けず仮面夫婦を続ける事を心に決めていた。
「ええ、これしきの事で落ち込んではいられませんもの。聞き流します。」
私が予想外に逞しく宣言したものだから、クラウド様は意外だったのか、目を大きく見開いている。
そんなクラウド様に私はニッコリと微笑んだ。
「私の望みは人々の安全です。殿下の寵愛を受けることではありません。」
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