世界最強魔法師の娘〜この度、騎士団で下働きをすることになりました〜

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兄さまの思い

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 宰相閣下が帰ってから、不安でたまらない。
 
 お父さまが王宮魔法師って、どういう事?
 私は今まで何も知らされていなかったのだろうか?

 兄さまに色んなことを聞きたかったけれど、兄さまは午後から出かけたから、帰ってくるのはきっと明け方近く。

 その夜、私は怖くて不安で眠れなかった。

 だけどーー

 コンコンコン

「……どなた……ですか?」
「……俺」

 ドアを開けると心配そうな顔をした兄さまが立っていた。

「ララ……」
「兄さま……」
「ごめん、ララ。不安だっただろう?団長から聞いたよ。宰相が来たんだって?」
「ええ、兄さまこそ……、朝まで帰らないはずでは?」
「ああ、代わってもらったから大丈夫」
「ありがとう。ねぇ、兄さま。お父さまが王宮魔法師だったって本当?」
「ああ、今から全てを話す。中に入っていいか?」

 兄さまは騎士服のままだった。きっと急いで帰ってきてくれたのだと思う。

 部屋にはソファーが無いから、兄さまには椅子に座ってもらって、私はベッドに腰掛けた。

 帰ってきたばかりの兄さまに何か飲み物を出したかったけれど、部屋には何も無くて……。

「兄さま、ちょっとお茶を運んでくるから待ってて」
「いや、いい。ララは座ってて」

 兄さまは立ち上がりかけた私を制した。そして、無言のまま何かを考えているみたい。
 よほど話しにくいことなのかしら?

「……兄さま?」

……兄さまは、決心したように息を大きくついてから、話しだした。
 
「ララ、君の父親は、俺の師匠は、……世界最強と謳われる魔法師だ。このアクイロ王国も師匠によって何度も救われた。一人で竜巻を呼び、大地を割り、雷を落とすことの出来るほどの魔力の持ち主。きっとララも、師匠に匹敵するだけの魔力はあるだろう」

「でも、私魔法なんて……」

 そんな事、お父さまから一度も言われたことなんて無い。

「そのペンダント……。それには魔封じの力がある。師匠はララに魔法師にはなって欲しく無いと言ってララのために作ったんだ」

 胸に光る、お父さまからもらったペンダント。そのつるつるしていて丸い石をギュッと握った。

「どうして?」

 魔法師なんて、尊敬の対象とされる職業だ。
 憧れる人も多い。

「魔法師は自然に宿る精霊たちの怒りに触れいずれ大きな代償を払う、そう師匠は考えていた」

「代償?」

 それは、お父さまの死と関係があるのだろうか?

「師匠はその代償で命を喪った。ララには同じ思いをして欲しくないそうだ。『国に縛られて生きるのは俺だけで充分』そう、師匠は言ってた」

「……そんな……」

 魔法って、そんな恐ろしいものだったの?
 
「ララが魔法を使わず平穏に暮らすこと、それが俺と師匠の願いだ。もし、ララ、君の力を王国が欲しがったら、俺と一緒に逃げてくれるか?」

「兄さまと一緒に?……兄さまはそれでいいの?」

「ああ、ララと一緒なら。ずっと一緒にいような」

 私を安心させるように兄さまは笑った。
 正直、まだ色んなことが頭の中でグチャグチャで。だからどうするのが一番良いかなんて分からない。だけど、お父さまと兄さまが私に魔法を使って欲しくないって言うなら、私は一生使わない。

「……ええ、私も、兄さまと一緒なら、どこにだって行くわ」

 兄さまと一緒なら、例えば知り合いの居ない遠くの国だって、不便な山奥でだって、きっと幸せになれる。
 二人で野菜を育てて、魚を釣って、羊を飼う。そんな生活だって良いと思う。

「即答か……ははっ、まるで駆け落ちみたいだな」

「ええ、兄さまとなら駆け落ちだって平気よ?」

 不意に兄さまが黙ってしまった。

「……兄さま?」
「ララ、きっと大丈夫だ。陛下は師匠の信頼していた人だから、師匠とララの意志を汲んでくれるはずだ。向こうがララの意志を無視しなければ、そんな強硬な手段には出ないよ」
「うん、そうだね。ホントはね、みんなと離れるの少し寂しかったの」
「ああ、分かってるよ」

 ポンポンと頭を叩く兄さまの手は相変わらず大きくて、その感触はいつも私に安心感を与えてくれた。

「兄さま、大好き」

 するりと本音が漏れた。会話が途切れ、兄さまは「はぁー」っと短く息を吐いた。
 そしてゆっくりと私を見つめる。
 その目はいつもの兄さまらしくない。熱っぽくて、真剣で……まるで、違う男の人みたいに感じてドキッとした。

「ララ、さっきの話。駆け落ちって誰とするものか、分かってる?」

 知ってる。駆け落ちって普通は恋人とすることだ。そんな事をわざわざ確認するなんて……。

「分かってます。もうっ、兄さまは鈍いですっ」
 
 子供っぽい私なんて……やっぱり兄さまの恋愛対象にはならないから?
 だから、ため息ついたんだ。 
 もう、私の気持ち全然気付いて無いんだから!

「え?お、俺が……?……俺の方が?」

 自分を指差して兄さまが狼狽えている。まるで、心外だと言わんばかり。

「ええ。兄さまが鈍いので、私大変なんですからね!」

「え、ええ?」

 朝は一番に兄さまの顔を見に行くし、兄さまの前では髪もほつれていないかチェックしてる。兄さまが遅番の日は残って夜食を準備しているのに、全然気付いてくれないなんて、兄さまは鈍い!

 私……兄さまの事、いつも見ているのにな……。

「兄さま、私はもう大人ですっ。子供扱いしないでくださいっ」

 私の事、妹じゃなくて一人の女性として見て欲しい。
 ちょっと拗ねたような口調で喋る私を見て、兄さまは肩を竦めた。

「分かったよ、ララ。これからはちゃんと大人として扱うよ」

「ホント?」

「ああ、本当だよ。じゃあ、明日も早いんだろ?もう寝な」

「はい。兄さま、おやすみなさい」

 これからは兄さまに、女性として少しは意識して貰えるのかな?
 そう思うと嬉しくて、ドアの前まで兄さまを見送りに出た。
 
「ララおやすみ」

「はい、兄さまも良い夢を」

 にっこり笑おうとしたら、兄さまにぐっと腕を引かれてーー

「きゃっ」

 兄さまは私の額に唇を押し付けた。

「いつか、恋人になったら、おやすみのキスはここにしような」

 兄さまは、両手で額を押さえて真っ赤になっている私の唇に、自分の人差し指を当てた。

 恥ずかしさに力が抜けて、へなへなとその場に座り込んだ。心臓の鼓動が大きく聞こえてパンクしそう。

 兄さまは、私を抱き起こしてくれて……。
「おでこだけでこれかぁ。先は長いな」
 そう言って悪戯っぽく笑った。
 
 私は……兄さまの唇が温かいのにびっくりして……死んじゃうかと思った。

 まだおでこが熱い……。
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